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アイルランドの劇作家たち Vol.0 自称アイルランドおたく

感染症対策として演劇公演は中止や延期が相次ぎ、劇場で演劇を観る機会は当分ないでしょう。わたしたち演劇企画CaLも止むを得ず5月の公演を延期することにしました。

わたしは劇場での出会いや発見が好きなので悶々としています。個人的にもまだまだたくさん上演したい作品があるのに、と地団駄踏んでる状態です。アイルランド演劇の企画をやってるという認知度も少し広まった自負があったのに。

けれど、上演はできないけど、逆に上演を追うだけではアイルランドの名作演劇も名劇作家もあまりに多すぎて何年かかるか知れない、かといって自分で調べるにはマイナーで情報が少ないものなので、自称アイルランドおたくで、アイルランド演劇を専門に上演する団体、演劇企画CaL主宰の私吉平が、アイルランドのサイコーな劇作家たちを勝手にひとりずつ紹介していこうと思います。明日4/30から不定期にぼちぼちと更新します。このVol.0は前哨戦です。


ヨーロッパ アイルランド

イギリス・グレートブリテンのお隣の島、アイルランドはよく北海道に例えられます。島の大きさ、人口、自然豊かで農業と漁業の国であるのもみな似ています。最近日本では、昨年のラグビーワールドカップでの緑の酒飲みたちとか、直近だと元医師の首相が医療現場に戻ったことで話題になりました。

・追記。TOKYO MXの明日どこ!? DXという番組で先日アイルランド大使館の密着がありました。アイルランドの説明はさすがにこっちのがわかりやすいので貼っときます。


そんなアイルランドは文学の国ともいわれ、首都ダブリンはユネスコの文学都市に指定されています。この小さな国から、ノーベル文学賞受賞者は4人も生まれています。1人は詩人のシェイマス・ヒーニーで、あとの3人はジョージ・バーナード・ショー、ウィリアム・バトラー・イェイツ、そしてサミュエル・ベケットと、劇作家として活躍し名を馳せた人たちなのです。(イェイツは詩人のイメージが強い方が多いかもしれませんが、アイルランド演劇界において最重要人物なのです。これについてはイェイツについての記事で書きます。)

また劇作家からはずれると、英文学最高峰の作家ジェイムス・ジョイス、わたしたちに馴染みがあるのは小泉八雲ことラフカディオ・ハーン、『ガリバー旅行記』の作者ジョナサン・スウィフトや『ドラキュラ』の作者ブラム・ストーカーなんかも皆アイルランド出身です(八雲はギリシャ生まれアイルランド育ち)。

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ダブリンにはアイルランド出身の名だたる作家たちにまつわるあれこれがまとまった、ライターズ・ミュージアムというのがあります。文学好きにはたまらん場所です。


ここらへんで言っておかねばならないのですが、わたしはアイルランドについてはおろか、演劇史も文学もどこかの大学や専門機関で学んだわけでは一切ありませんし、だれか特定の先生を師事しているわけでもありません。(個人的に親しい研究者がいるにはいるのですが、彼はどちらかというと「友人」として出会い、今でも「友人」のような感覚です。おこがましいかしら。怒られるかな。)

わたしはずっと「アイルランドおたく」を自称しておりまして、この予防線はアカデミアとかの専門の方なんかから「書き方論じ方がなってない」みたいに刺されないように張ってます。これはおたくが推しについて書いている推しの応援記事です。推しの交友関係は把握してても推しの友人も好きかというとそこまでではないので、偏りがすぎているかもしれませんが予めご了承ください。

わたしはもともと無知の状態で2017年10月から1年間ワーキングホリデーでダブリンに滞在しまして、その期間に現地でいろんな人の話を聞いたり、いろんなことを目撃したり、本屋に通い詰めたり、劇場に通い詰めたりしておたくとなり、帰国してもアイルランドに関わり続け、間もなく演劇企画を立ち上げ、今に至ります。


わたしの「先生」はいるにはいました。ダブリンの語学学校で出会った英語の先生です。約4ヶ月間彼のクラスで教わっていたのですが、彼は教科書の英語や語学4技能はもちもん、言葉の周りにある文化背景とか社会のしくみとか、アイルランドの文化とか歴史とか、アイルランドはどういう社会なのかとか、そういうのをたくさん教えてくれたし、日々の中でみつけた疑問になんでも答えてくれました。

たとえばわたしの滞在中に憲法改正の国民投票がありました。中絶を禁止する憲法の条文を撤廃しようというものでした。アイルランドはカトリックの国かつ島国文化で、現代人にとって悪しき風習とか、生きづらいほど厳しい世間の目とか、そういうのが多いのです。あれ、なんかそういうワード心当たりが…?ごほん。この国民投票の期間中、クラスではわりと定期的にこの文化にまつわる議論とかエピソードトークとかがあったわけです。ちなみにこの投票は改正派が勝利し中絶は法的に認められることになりました。そういう授業をしてくれる先生でした。ああ元気にしてるかなあ。


アイルランドで出会った人たちの話を書くと本一冊出版できるくらい書けそうなのでやめますが、もともと本や演劇や音楽が好きだったわたしにとって、アイルランドというのはわたしの「好き」そのものでした。アイルランドについては、司馬遼太郎が言い表した「まじそれ!」っていう一節があります。『愛蘭土紀行』の締めくくりに書かれたものです。

まことに、文学の国としかいいようがない。山河も民族も国も、ひとりの「アイルランド」という名の作家が古代から書き続けてきた長大な作品のようでもある。

この「文学的な国」の感覚は実際に見てもらわないことには伝えづらいのですが、とにかくこういう出会いがわたしをずぶずぶと沼へ引きずり込んだのです。そのためほぼわたしの個人的なおたくの贔屓目満点の視点で書いていくことになります。客観的な評論とか比較とか分かんない〜って感じです。


演劇に関しては、シェイクスピア以降のイギリス演劇は20世紀に入るくらいまで長らく実質アイルランド出身作家たちの無双状態だったといっても過言ではないくらいで(これはガチ)、日本にいるとピンとこないけど、英語圏の演劇の中ではアイルランド人作家ってかなり強いんですよ。

ちなみにアイルランド系移民が世界で一番たくさんいるアメリカでは、「ファースト・アイリッシュ・シアター・フェスティバル」なるアイルランド演劇の演劇祭が毎年5月にニューヨークで行われているそう。こちら、「ファースト〜」から正式名称なので、2020年は11年目だけど今年もファーストです。ややこしい。まあその前に今年のプログラムは遂行されるのか。

アイルランド演劇とはなんぞや、については演劇企画CaLのHPにも書いたのですが、「悲喜劇」と言い表される、うまくいかない人生のなかでそれでも日々をたのしくたくましく生きる人々を描く、という形が多いです。

簡単に言うとユーモアのセンスがすごくてパンチが効いてて客席大爆笑もしばしば、ただしめでたしめでたしでは終わらない、なんてタイプです。わたしは現地で数十本くらい芝居を見ましたが、どれもハッピーエンドではなかったです。古典でも新作でもですよ。今だにハッピーエンドの新作が生まれてこないってことはもうそういう血なんだろうな、って思いますよね。

あんまり暗いこと言うと嫌煙されるかもしれませんが、基本的な温度としてはたのしいです。歌ったり踊ったりもするしわいわいきゃいきゃいしてます。「そんなうまいこといくかいな」っていうサクセスストーリーじゃない、というだけです。まあもちろんどん暗いものもあるにはあるんですが。「うまくいかないこと」を甘やかさずちゃんとリアルに丁寧に描いてくるので、観ていてやるせないことはあっても怒ることはないです(少なくともわたしは)。


まあそんなわけで詳しくは各人の紹介記事で。わたしの御贔屓、アイルランドが生んだ数えきれないほどの劇作家たちを、たっぷり紹介していきますのでよろしくです!

ちなみにこの企画、基本的に無料記事で書き続けますが、投げ銭BOX(サポート)を設置しているので、ちょっとでも投げていただけると嬉しいです。わたしが次の本を買う足しになります。またコメント大歓迎なのと、わたしの活動に興味があるって方は今んとこTwitterのDM開放してあるのでお気軽にどうぞ!あれだったら演劇企画CaLの問合せ先とかに連絡してもらってもわたし見てますので。


もともとケルト文化は日本人の好みに合うと言われていますし、神話や音楽はゲームなんかで好んで使われています。余談ですが、アイリッシュ音楽の音階は日本のヨナ抜き音階と同じらしく、だから日本人の耳にめっちゃ馴染みが良いらしいとどこかで聞きました。そういうのもあり、アイルランドは異国なのになんだか親しみがあると感じる人は多いようです。アイルランドの演劇作品は人に寄り添うものが多いこともあり、遥か遠くのわたしたちにもなんとなく身近に感じられるのだと思います。


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それでは!よい出会いがありますように!

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