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【#青ブラ文学部】SS"元気にしているかな"

元気にしているかな
私が大学一年生の春
初めてアルバイトした時に出逢った彼
何となく応募して面接に行った時
彼は品出しの最中だった
私は緊張しながら声をかけた
その時、振り向いた彼の姿
今まで、色んな恋をしていたけれど
こんなにカッコイイ人を
私は出逢った事がなかった
彼は見るからに海外の人だった
「あの、面接をしに……」
ドキドキしながらそう言うと
彼は「ちょっと待ってください」と
非常に流暢な日本語でバックヤードに入った
その後の面接は正直覚えていない
彼の事ばかり考えていた
でも、どうにか合格して
私は晴れて、その店で働く事になった
初出勤の日 
私はその町の地理に疎かったので
初日早々迷ってしまった
すると、彼を見つけた
彼は私に気がつくと笑顔で挨拶してくれた
「ここを曲がれば、お店ですよ」
彼は親切に案内してくれた
仕事が始まって、彼と一緒になる事があった
「あの……ご出身はどちらなんですか?」
「アメリカです」
「へぇ! 私、前に家族と一緒に旅行に行きました!」
「そうなんですか!」
まるで、何年前から知り合った親友みたいに
私と彼は話しながら仕事をした
日本の医療を学んで、将来は立派な医者になりたいと
そう夢を志す彼に、私も頑張らないとな、と思った
逆に私が教える時もあった
私と彼が品出ししている時に
「これなんですか?」と
胡麻のパックを見せてきたので
「それは……せ、セサミだよ」と
日本語とつたない英語で教えてあげたら
「もしかして英語得意なんですか?!」と
まるで名人みたいな口調で言ってきたから
「ま、まぁね……」と得意げな顔をした
本当は英検四級止まりだけど
本当にあの時は楽しかった
だけど そううまくはいかなかった
私を雇った店長が中年女性なんだけど
どうやら彼の事を気に入っているらしく
私と仲が良い事を妬んで
たった一つのミスをまるで大損害みたいに
バックヤードで酷くあたったり
これ以上、彼との仲が良くならないよう
彼はレジと接客
私はバックヤードで仕事をさせられた事もあった
それでも 店長がいない時は昼休憩で
彼の国のお菓子を食べたり
「大学はどうなの?」「日本語難しくない?」とか
他愛もない質問で盛り上がったり
本当に楽しかった
彼と一緒なら 店長に嫌われてもいいやと思った
だけど 運命は残酷だった
彼が国に帰らなければならなくなってしまったのだ
店長が残念そうな顔で、そうこぼしていたのを聞いてしまった
私は真っ白になった
あんまり仕事に手がつけられなかった
別れるなんて嫌だ
彼の口から「さよなら」なんて聞きたくない
だったらいっそ私から離れる事にした
店長に辞めると告げた
彼のいない店で働くなんて心が持たない
彼がいたから頑張れたんだ
店長は無関心に「制服は洗ってクリーニングしてね」と言うだけだった
帰宅して、コインランドリーに行って
無心で制服が回っているのを見ていた
適当にクリーニング屋に出して
後日、私は返しに店に行った
この店に来ることはもうないだろう
なんて事を考えながら 店に来た
すると、彼がいた
これは運命かと思いながらも
何だか心の中でモヤモヤしていた
彼は初日と同じく品出しをしていた
私はまるで初めてかのように緊張しながら声をかけた
彼は私の方を見ると嬉しそうな顔をしていた
だけど 私の表情は曇ったままだった
「あの……店長はいますか?」
そう聞くと、彼は顔を強張らせた
「ちょっと待っててください」
あの時と同じようにバックヤードに戻る彼
あぁ、これが初日だったらと思うと、鳩尾みぞおちがキュウってなる
彼が戻ってきた
けど、店長はいないらしい
「あのバックヤードで話しませんか? 店長に伝えときますので」
彼の提案に私は従った
バックヤードは静かだった
おしゃべりな先輩もパートもいない
私はバレンタインデーにチョコを渡すような気持ちで
ピカピカな制服を彼に渡した
「これを店長に渡してください」
私がそう言うと 彼はイマイチ理解していないような顔をして受け取っていた
「私、辞めるので」
『好きです』と告白するくらいの緊張だった
これを聞いた彼は、目を大きく見開いていた
「国に帰られるんですよね?」
私は彼の返答を待たずに、質問した
彼は「あ、えっと……はい」と戸惑いながら答えていた
「母国に戻っても頑張ってください」
私は本当の感情を抑えながら穏やかにそう言った
彼は「どうも……」と困惑した顔をしていた
「それじゃっ!」
私が出ようとした時、何故か呼び止められた
まさか――と思い、振り返る
「また会いましょう!」
満面の笑みでそう言った
「う、うん、じゃあね!」
私は今にも爆発してしまいそうな感情を押し殺して、元気に手を振ると、逃げるように店を出た
運命の馬鹿――心の中でそう叫びながら……

それからもう何年も経つ
私は社会人になった
多忙の中で、色々まいった時にふと彼を思い出す
今思えば、あれが最後の恋だったのかもしれない
一ヶ月も経たずに辞めちゃったけど、私の中では大きな出来事だった
もしもあのまま働いていたら、彼と恋人になれたかもしれない
よくよく思い出してみたら、「何ヶ月か経ったら、もう一度日本に戻ります」とか言っていたっけ
それに「またここで働かせていただきます」って、彼が言っていたのを見たような……
そもそも、あの時、連絡先交換していたら
永遠にさよならバイバイなんて、ならなかったのに
あーあ、私のバカ
あれが一生に一度しか出逢えない
運命の王子様だったのかもしれないのに
もう! バカバカバカバカバカ……
……まぁ、今更後悔してもしょうがない
私は一生独身を貫きますよーだ!
はぁ……元気にしているかな
あんなに仲良かったのに
名前、忘れちゃった
でも、あなたの存在は、未だに私の頭と心に残っている
運命がまた味方してくれるなら
偶然にも会わせてくれないかな
なんてバカな妄想をして
今日も私は一日を終える

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