これはきっと君には届かない私からのプレゼント
一日遅れで君に誕生日おめでとうとメッセージを送った。あたかも、うっかり忘れてたていで。本当は最初からずっと知っていたのに。去年の君の誕生日の翌日に出会った私たち。あれからちょうど一年経ったんだね。
君と心を通わせるのは無理だと早々に諦めた。身体だけでもいいから繋がっていたくて、私も君にあげようと思っていた心は捨てた。ただ都合のいいときに連絡して、あなたが無理なら他の人に頼むから大丈夫、と匂わせて。ちょっとは君にやきもきしてもらいたかった。毎回誘うときは指が震えるほど怯えていたのに。あっちは私のことなんとも思ってないし。私も別にそこまでじゃないし。ただやりたくなっただけだし。思いつく限りの言い訳を自分にして。君は私じゃない誰かで十分足りてると分かっていたのに。
誕生日にかこつけて会おうとした私が悪いのか。薄暗い無機質な部屋に君のピアスが光って見えた。
「俺たちいつまで続くかな」
心臓が止まる。続いて呼吸も止まる。いつまで続くか?君が飽きるまで。君が私にもう会いたくなくなるまで。私のことを嫌いになるまでだよ。言いたかったことは口の中で粉糖みたいになめらかに溶けてゆく。言葉で表現するのが好きなくせに、言葉を音に変換するのが苦手だ。周波数が合わないの。私はただ葡萄色のお気に入りのネイルで指先をいじりながら君がいつもどおりキスをしてベッドにお姫様抱っこで運んでくれるのを待った。私いつももらってばかりで嫌になる。でも私は君に何をあげられる?何も要らないかな。
週末は台風の予報。夕方暗くなるのが早くなってきた。マスク越しに金木犀の香り。それが過ぎたらきっとカシミヤのストールを出して、ホットココアが恋しくなる。今年は新しいコートが欲しいし、クリスマスケーキはいいやつを予約したい。次の春まで、夏まで、秋まで、ここまで来たら冬まで。ずっと君と繋がってたいよ。どうせもう後戻りはできないんだし。
「ずっとだよ」
そう思ったらやっぱり言葉を音にしてみたくなった。息を整えながら、さっきの答えを君にあげた。はい、これが私からの誕生日プレゼント。脈絡がないから、伝わらないのを期待して。でも君は安心したように笑った。その顔、一年前からずっと好き。
いただいたサポートは創作活動のために使わせていただきます。