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第4回・その文章、届いていますか?

なんだかんだ抽象的なことばかり書いてきた気がするので、少し実践的なことを。
(といっても、気まぐれ書き散らしnoteであることに変わりはないのだが)

私が初めて「書く」ことで給料を得たのは、コピーライター業だった。
といっても会社の広報部門みたいなもので、自社広告を出すという形だったので、ただの社員であったといえばそうだが。
広告に力を入れている会社だったので、重要な部署ではあったし、新人からベテランまで同じ土俵で勝負するという社風もあり、配属初日からラフを書いていた。

この会社は面接段階で、すでに広告担当者を意識していたに違いない。趣味や特技を聞かれるからどうのこうのと就活対策で言われていたが(今はどうかわからないが)この会社では一切そんな面接はなかった。面接の場にあったのは、大きな2枚の紙だ。
「あなたは、このふたつの広告のどちらがいいと思いますか」
面接官の第一声は、それだった。
もちろん面接なのだから、こちらも真剣に考えて選ぶ。理由を聞かれても答えられるくらいには考えた。すると、次に面接官はこう言った。
「あなたがいいと思った広告を、もっとよくするにはどうしますか」
まさかこんな面接があるとは思わなかったが、氷河期に新卒採用が危惧されるなかで、こんな楽しい面接があっていいのかという気分にもなってきた。文字を書くことは好きだし、文字でなにかを伝えるのは楽しい。広告は、きっとその延長線上にあるのだと気づきはじめた。

入社してからは、ありとあらゆる雑誌──少女漫画誌からシニア向け雑誌まで──に目を通すことが業務のひとつとなった。いわゆるマーケティングの手法のひとつではあるのだが、表現を知るための方法でもあった。
ビジネスマン向けに広告を出すならどんな文言が効果的なのか、主婦層なら、子どもなら、定年後のひとならどうか。ターゲットによって、同じ商品の広告でも表現方法を大きく変えなければならない。万人に刺さるキャッチコピーなど存在しない。ターゲットに刺さるように文字を使いこなす。それがコピーライターなのだ。
(余談だが、私はこの会社にいるときに自分の広告で会社に2億ほどの利益をもたらしたことがある。自慢話はつまらないので余談にとどめておくが、もし手法がうまく文章化できるなら当時の体験を書くかもしれない)

それから時を経ていろいろな「書く」仕事をしているなかで、とある会社サイトの新着情報のページをブラッシュアップすることがあった。
そこで驚いたのが、会社としてしっかりしていても、新着ニュースがだれをターゲットとしているのかまったくわからない文章だったのだ。
サイトを初めて訪問するひと、商品検索でたどりついたひと、問い合わせをしたいひと、よくニュースを見にくるひと、ネットを使うひとびとの動機はさまざまだ。そしてまた、個人属性もバラバラだ。
あるときには自社サービスをていねいに紹介するが、あるときにはサイト訪問者がある程度の知識を持った前提で書かれている。そんな新着情報は、そのうち見向きされなくなってしまう。
この会社はこういうスタンスなんだ、と伝えるのは、会社概要や代表メッセージだけではない。新着情報にだって、必ずメッセージはある。なければ掲載しなくていいのだから。

ほんの細かいところにまで、メッセージ性が、あるいは、それがあるかないかが現れる。
だから私は、文章を書くときに、必ず自問する。
この文章は、ちゃんと届く相手に響く表現になっているのか、と。

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