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『オカルトの森へようこそ THE MOVIE』はアトラクションのような楽しいホラー!(ネタバレ有感想)

今やどこのコンビニにも普通に置いてる大流行りのルイボスティーが美味しいでございまさぁね~。

2022年夏。今年はもう、どうしたのってくらいホラー映画が豊作だった。
正統派とも言えるオバケとストーリー性の冒険ホラー『ブラック・フォン』に始まり、熱狂的ファンの多いジョーダン・ピール監督によるSFホラー『NOPE』、奇妙系邦画『この子は邪悪』がSNSを賑わせる中で夏が終わろうとしているが、今年は特に二つのホラージャンルがアツかったと思っている。

まずはゴアスプラッタ系。
『X』、『哭悲-The sadness-』がエクストリーム殺傷ばあちゃんによるダブルインパクトを残す傍らで『ナイトオブザリビングデッド』や『セルビアン・フィルム』のリマスター版上映。
(このコンプラまみれのご時世で誰が「よっしゃ!セルビアン・フィルムをキレイな画質で見せたろ!」と思ったのか。本当に意外すぎて驚いた)

そしてもう一つは、両者SNSで話題が話題を呼ぶようにして口コミでヒットした感のある『呪詛(Netflix公開作品)』、『女神の継承』ら、POV・モキュメンタリー系。
いずれもアジアの作品であり「呪文や印(いん)」「土着信仰」と日本人の琴線に触れる怖さや設定を持っており、感覚では分かりやすくも考察のしがいのある、観た者に暗い淀みのような余韻を残す恐ろしい後味の作品だ。

私もPOVやモキュメンタリーは好きでこれら二作も楽しんだが、私の夏の終わり、ホラー大豊作シーズンを締めくくったアジアンホラーPOVモキュメンタリーは、邦画、そして平成後期~令和のJホラー界でもっとも“作風”を確立していると言って過言ではない、大好きな白石晃司監督による映画である。
ぞわりと感覚に訴え多くを語らず、ラストも不穏で、なのに「面白かった!」とサッパリした後味の快作。
怖さと、気持ち悪さと、スリルと、謎と、そして笑いのごった煮の闇鍋は、びっくりするほど喉ごし爽やか・胃もたれゼロだった。
今回はそんな『オカルトの森へようこそ THE MOVIE』について、個人的なお気に入りポイントと感想を書いていこうと思う。

※以降、内容や展開に触れながらの個人的な感想となります。
また、白石晃司監督作品並びに各種POV旧作にも言及します。ネタバレ注意!

□霊体ミミズ、実力派チャラ霊能者、激ヤバ一般人……まさに、白石ワールドへようこそ!な作品

この作品は、くすぶりながらもかつての名作を超える映画を今一度撮ろうと意気込む、白石監督ご本人演じる「黒石監督」がカメラを回し、同行者である、強気でちょっと毒舌なしっかり者の助監督の女性・市川とともに取材先を撮影した映像……として展開していく。

この市川と、そして仲間の一人となる江野が、同監督の人気シリーズ『コワすぎ!』に登場する市川と江野と関係があるのかは明かされていない(市川は名前の漢字が異なる)。

“オバケ”枠としては、監督の『カルト』で民家に発生していた細くてウネウネとした通称「霊体ミミズ」を始め、軟体動物・海洋生物を思わせる姿と動きの怪異が、小さいものから大きいものまでバリエーション豊かに登場する。

ホラー小説ファンなら「ん?」と思い当たるし、パンフレットの監督のインタビューでも明かされているが、このあたりの怪異のイメージ、怪異を認識してしまった人間の描写はクトゥルー神話を彷彿とさせる。クトゥルー神話を執筆したH.P.ラヴクラフトは海のものを嫌悪している事で知られ、そのためか人の世界の外に古くから存在ししばしば人の世界に介在する「邪悪なるもの」の何体かを、タコや魚人の姿に描写している。
海洋生物は
「人より遥か昔から存在する原始的な姿」

「酸素のない水中=人間の棲む世界とは別世界(に適応した姿)のもの」
なので、人間がプリミティブな感性から先天的に異質な気味の悪さを感じやすい存在であると言える。つまり人間にとってナチュラルに「異界のもの」と言える存在だ。

映画の中で市川や黒石監督らを襲うミミズ状やクラゲ状の怪異に「これは◯◯である」という明確な種明かしはされない。
オバケだとも悪魔だとも真相は語られないのに、人間の根本にある感性=海洋生物に感じる異質な気持ち悪さ、を刺激されるから、
“異界から来たモノ”
だろうな、と観る者にスッと思わせる無言の説得力が凄まじい。
「これは妖怪か?何かの呪いか?いや、そんなそんじょそこらのもんじゃねえ!絶対別の世界から来てるだろ!」
というウネウネの“奴ら”。
人間界のものとは思えない異物っぽさで、攻撃的な牙もツノもトゲもない外形はどこかシュールでユニークであり、だけど絶対危険な印象が拭えない。

そんな「見て分かるやばいやつ」の存在とは対照的に
「見て分かる凄みを漂わせるコテコテ霊能者よりも、一見霊能者ぽくない派手なイケメンの方が実力者」
という、白石作品の人気キャラクター・NEOと同様の属性を持つナナシの存在にも盛り上がる。
ちなみに江野はもう見たまんまのクセ強フィジカル強キャラ。これもまた良い。

□POVとしての“見せ方”の妙。観客に無意識のうちに
“見やすくてノンフィクションぽいが物語性に熱中できる”
視点をくれる心地良さ

少し前に監督のYouTubeチャンネルで、この夏のPOVモキュメンタリー『呪詛』と『女神の継承』を語る、という旨の動画を視聴したのだけれど、このジャンル、没入してしまえばジェットコースターのように夢中になれる反面、作り込みや手法に少しでも違和感や没入しにくさがあるとかなりアンバランスになってしまうものである、というのが本当に興味深かった。

この動画を観てから『オカ森』を観た事で、映像素人なりに、個人的に成る程なと思った事が幾つかある。

まずは、黒石監督の性格が「びびり」である、という事が上手い。というか観やすい。
仲間達との行動を撮している時など、装備が充実で気骨ある江野や余裕の態度のナナシ、勇気のある市川、不安定ながらも導かれるような麻里亜がほぼ確実に黒石より前を歩く(そして黒石は早くしろとばかりに仲間達から振り返られたり、怖がり、疲れながら必死についていくという構図)。
これにより、最後尾から撮影された仲間全員の様子が画におさまる。
もしも黒石が積極的に怪異や敵を見たがり我先に前へ出る性格だったら、後続にならざるを得ない仲間達がどんな感じでいるのかがカメラに入らない(観客に伝わらない)。
「この場を証拠として撮影する」という意気込みだけでなく、びびりで体力もあまりなく最後尾になりがち、という黒石の人となりが、仲間全体をカメラにおさめられる自然さとして映像を作れてる感じ。
(仲間達が倒れた時、全容を映してから、黒石の一番近くで倒れている市川でなく先に麻里亜に声をかけ→その後市川に声をかける、とかの、黒石の人間性が出るカメラワークとかも面白いよね)

次に、キャラクターの個性。
監督が『呪詛』も『女神の継承』もキャラクターの個性が物足りない、と語っていて、成る程、モキュメンタリーはリアリティに重きが置かれるから非現実的な“キャラ立ち”をする人物の造形は難しいのか……と思っていたのだが。
ああこれ別に、尖ったコミカルなキャラ立ちでなくてもいいのか!という(素人の今更の)気づきを得た。

たとえば『女神の継承』だと、中心に据えられる霊媒のニムの周囲にはニムの兄や姉が登場するのだけど、彼らには「立場(メイン人物の肉親)」と「目的(異変に苛まれるミンや赤子のポンを守りたい)」以外に、何が好きで何が嫌いか、どんな事で笑い、どんな事を嗜むのか、等、人間的な個性がほぼ描かれていなかった。
殺伐とした事件の渦中の人である彼らはコミカルにしようがないからキャラが立てにくいのかな、と思ったが、たとえばコメディ色のある『オカ森』の江野や麻里亜やナナシはコミカルで、トンデモ要員と言えるくらいのキャラ立ちがあるけれど、じゃあそこまでのコミカルな属性を持たない市川や黒石は個性的ではないのか?と言われればそうではない。

分かりやすいところで言うと『オカ森』の五人には、
「もしもこいつが殺されたら状況がこうなる、死んで欲しくない、死んだらマズいよ」
と思わせる役割のようなものを自然と観客に抱かせ、生き残ってくれ~!と応援したくなる愛着につながる個性があるのだ。

黒石が死ねばせっかくここまで来た撮影がストップしてしまう。
市川が死ねば黒石を対等に支えられる者がいなくなる。
麻里亜が死ねば企画が頓挫するし黒石が失恋してしまう。
江野が死ねば一行の大幅な物理的戦力がダウン。
ナナシが死ねばバケモノへの知識が失われ、物理以外の対処が出来なくなる。

同じモキュメンタリーの名作『ブレアウィッチプロジェクト』では男2女1のチームで男のうち一人が急にいなくなる、という展開の記憶がある(違ったっけ?)が、そもそも男二人のキャラをよく覚えていないため、どっちのどういう男がどうなったか、が印象に残っていない。

先日書いた『ザ・リチュアル』の記事でも触れたが、おじさんパーティ四人のうち一人が死んでも、確かに親友の死は悲しいが
「でこの人何だっけ?」
「この人が死んだことで今後どう状況が悪くなる窮地に立たされるんだっけ(無力な普通のおっさんの数が4から3になるだけ。特に変わらない)」
みたいな感じだった。

登場人物をリアルな一般人にすれば(創作物として)やや没個性的になっていくのは避けられない。
特にコミカル要素を入れられないシリアス・リアル作品ならキャラ立ちも難しいのであろうが、立場や目的だけでなく、役割(+人間性)を感じられる造形であれば必ずしも不可能ではないのかなあ、と思わされた。
素人の分かったような感想で本当に申し訳ないのだけれど。

□「ヤバいな……でも実際にいそうだな」という強烈な人々

白石作品の醍醐味といえば、様子のおかしい変わり者キャラクターもその一つ。
軽いネットミームと化した「地獄だぞおじさん」が人気者だが、本作でも不思議ちゃんと電波受信を拗らせたような登場をする麻里亜、実弾&手作り手裏剣爆弾ぶちかましボランティアの江野ら主要キャラもさることながら、冒頭の原稿持ち込みおじさん、失礼の度を超したおかしなバス運転手ら名も無き人々が強烈な存在感を放つ(そんな強烈な変わり者を即座にヤバい奴認定していく市川が好き)。

で、笑える狂気の人物なら敬遠ぎみに苦笑できるのでまだ良いのだが、今作で私が「本当にヤバいな、けどこういう人いるよ!」ってなったのは、石を崇めるカルト団体の女性達。
多くは語れないし、宗教ではなくいわゆるスピ系なのだが、昔バイト先にそういうものにドはまりしたおばちゃんコンビがいて、その人らの善意100%の笑顔、私達は素晴らしい事に気づいているんだから!という仲間意識だとか社交性。
私は『SIREN』というゲームの屍人に重ねて怖れ、遠巻きにしていたんだけど、彼女らの雰囲気はもう、あの石を崇拝し神の祟りを素晴らしいものとしてあがめるカルト団体の女性達そのものだった。
あの団体の代表を演じた女優さんの演技力、本当に凄い(笑)。
自分の信じるものや味方にはめちゃめちゃにこやかで、否定されても心広く穏やかにやんわり反論し、何なら考えを改めさせるチャンスとばかりに言葉を返してくるが、ちょっと気に入らない事には強めの単語で罵るあの優越と盲信から来る謙虚と尊大さの背中合わせの感じ。
いやはや、マジでリアル……。

あとは、神道系を名乗る闖入者が使ったのが不動明王真言、見た目完全に仏門の人間である広島が繰り出したのが九字切りだとかも、現代の霊能者っぽくて好きなテイスト。
(中島哲也監督『来る』でも筆頭霊能者である比嘉琴子が光明真言から大祓詞、ファブ◯ーズまで使いこなす描写があって、ああ現代的だな、と思った。これは私には、琴子の流派を超えた能力というより、神にも仏にも科学にも上手いこと適応できる現代日本人の極みみたいな印象として残った)
で、更にそんな“いかにも”な呪文を駆使しながらやられていく霊能者より、気合いとかけ声一つでボコボコ化け物を退治していくナナシの凄さが面白くて素敵。

□余談:「実話というテイ」の消化不良より「実話というテイを模した」ものの面白さが好き

ここからは完全に私の好き嫌いと、白石監督作品との出会いと思い入れを書くだけなので、少し『オカ森』から脱線する。
映画の感想だけ読みたくて開いてくれた方は、ここまでで回れ右推奨。

「実話を元にした」というホラーや怪談に関してなんだけど、私は以下の類形が好きではない(民話とか伝承民俗かじってたので突然こんな書き方になるけど読みにくくてごめんなさい)。

①子供が軽はずみに禁止事項を行う→大人達が意外な程ガチギレ大慌て→どうやら禁止事項は土着的なヤバいものだったらしい→参加してた子供の一人が発狂の後引っ越して消息不明

②これは誰々が◯◯で経験した話です→オバケ丸出しの遭遇直後気絶・シーンブツ切り→今となってはあれが何だったのか分かりません…(ないし、あれは今も◯◯です)

伝承や都市伝説のストーリーテリングとして、不明瞭さで恐怖を演出するのは江戸時代以前からよくあるし、それこそ起承転結整った怖い実話なんてそうそう無いでしょうよ、って事ではあるんだけど。

ホラー映像作品として、私は特に後者が好きではない。
この形式の短編怪談が民放で長寿番組になっているから支持はされているっぽいし、子供がターゲットであればまあ……分かりやすいし怖がれるよね、とは思うけど。

オバケ丸出しタイムに重きを置かれるジャンプスケア的な色が濃い。それしかない、と言ってもいい。
実話ベース(をうたう)のであれば、一つ覚えの気絶ブツ切りはリアルではあるけど、さすがにもっとあるでしょうよ、実話だからこそ残ってる体験談がさあ!って私はなってしまう。
それこそ『コワすぎ!』の工藤のようにバットで殴りかかる人がいてもいいし、撮影して金に変えようとする人がいてもいいのにって(笑)。

で、投げっぱなしの怪談に対して、スタジオで再現ドラマを見て霊を看破した霊能者が見解を語る。ここまでがセット。
私、本当にこれが面白くなくて。
(今年数年ぶりに観たら未だに同じ番組構成だったので、世の中はこれが面白く感じ、私の感性がひねくれてるだけの可能性大なんだけど……)

それと、私がまだ幼稚園児とかだった時代、ホラー系のドキュメント番組とかがかなり放送されていた。
大の大人がまことしやかに霊を語り、霊能者やアイドルがいわくつきの現場に行って取材するので、幼い私は
「ああ大人もオバケって怖がるし、オバケは本当にいるんだな」
と思っていた。
そんな幼い私へのお仕置き用として保存されていた『あなたの知らない世界』等のビデオを小学校高学年くらいでふと観た時、もう今度はこれが面白くて滑稽で。
大の大人が大真面目に霊を語り、さも霊能者です、って佇まいの霊能者が活躍する、ホラーバラエティとも言えるあの感じ。
大人達に丁寧に作られた茶番でもあり、真実味もあって普通にゾッとさせられて面白かったりして。

この時に感じた
「あ、実話です本当の事です・なので詳細はぼかします、みたいな怪談ドラマより、実録なんだけどバラエティ演出満載で霊をも怖れない見世物感の方が私は娯楽として面白いわ」
という感覚。
これをモキュメンタリーの映像作品として娯楽全振りで私にもたらしてくれたのが、他でもない白石監督の『コワすぎ!』シリーズだった。
(音楽を僅かに嗜む私が「ディレイ・ラマ」という音声ソフトの動画を観るためだけに作成し放置していたニコニコ動画アカウントよ『コワすぎ!』配信イベントと巡り合わせてくれて本当にありがとう)

そして白石作品を追うようになった私はやがて『カルト』の岩佐真悠子さん達が演じた古きよきホラーバラエティに漂っていた楽しい茶番感だとか、龍玄&雲水ら“いかにもな霊能者”等、

かつてのホラーバラエティの「おかしみ」を踏襲して実話調にする

という作りに夢中になる。
更に工藤やNEO達コミカルなキャラクターあり、松本まりかさんやアンガールズさんのリアルすぎる怖さあり、口裂け女やテケテケ等小学生の時から親しんだ都市伝説系オバケへの驚きの新解釈あり……

白石ワールドは、映画『学校の怪談』に夢中になった頃の、現実世界で耳にしてきた都市伝説と繋がる、どこか身近なリアリティを伴う見ごたえのある映画にのめり込み、ホラーバラエティの愛すべき作り物感に気づいた、あの頃のティーンの私を再び取り戻せたというか、怖いだけじゃなく、ホラーの「楽しさ」を大人になっても味わえる作品達だった。

そんなわけで、白石監督は私にとって数少ない「この監督だからとりあえず観る」という映画監督の一人である。

好き嫌いは分かれるタイプの作品だし、ホラーとして怖いか怖くないか、と言われれば、『オカ森』にはトラウマになるような怖さはない(私はミミズやヒルが苦手なのでかなり気持ち悪かったが)。
だからこそホラーが苦手で、でもオバケにドキドキしたり不思議な話を観てみたいな、という人にもオススメできる100%の娯楽作品だ。
まるで、楽しがるために入り、楽しんで、楽しかったね!と出てこれる遊園地のアトラクションのような。
“妖しいモノにぞっとできて、サバイバルにドキドキできて、変な人達に笑えるホラー”ここにあり。

白石ワールドで楽しんだ後は、夜中トイレに行けなくなるような怖さは心に残らない。
面白かったー!黒石監督や市川のまた別の冒険も見たいなー!と爽快感とあの独特のテンポがクセになる中毒性で満たされる。

そして、テレビでうさんくさいコテコテ霊能者や占術理論ガン無視の滑稽な占い師などを見るたび思ってしまうのだ。
「こいつはNEOやナナシより弱そうだな」
って。

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