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【怖い商店街の話】 美味しい饅頭屋

その和菓子屋は、いつも長い行列が出来ていた。

名物は「おばあちゃんの雪見饅頭」

真っ白でふっくらとした皮に、白餡が包まれている。
店主は毎朝白餡を作り、奥の部屋ではおばあさんが白餡を皮に包む作業をしているらしい。

そして、店先では立派な蒸し器があって、そこで饅頭を蒸して販売している。
数に限りがあるために、俺が店の前を通る頃にはすでに行列が出来ている。
買えずに帰って行く客も多く、買えなかった客が不満を垂らし、客同士が争いになることもあるらしい。
店の周りには、饅頭を立ち食いしている客の姿もよく見かけた。

さぞや美味いのだろうな。

店の前を通るたびにそう思うのだが、俺はその饅頭を食べたことはない。

何故なら、俺は甘い物が苦手だからだ。

前に一度、会社の女の子がお土産で買って来たのだが、俺は食べていない。

みんな、美味い、美味いと言いながら夢中で食べていた。

ある日のこと、商店街からバス停に向かう途中で饅頭屋の前を通った。
相変わらず長蛇の列で、店先の大きな蒸し器からはモクモクと湯気を出ていた。

俺は饅頭屋の角を曲がると、饅頭屋の裏口がほんの少し開いていることに気づいた。

中からは、おばあさんの鼻歌や話し声とともに、ベチャベチャという音が聞こえてきた。

そういえば、店内からは饅頭を作っている姿はまるで見えない。

どんな風に作られているのか、俺は少し興味が沸いた。

悪いことだと知りながらも、俺は饅頭屋の裏口の隙間から中を覗いた。

そこにはふくよかで背中の曲がった老婆が円を描くように座り、中央には山盛りの白餡が入った大きなボールとトレイには生地が置かれているようだった。

一人の老婆を見ると、トレイから丸い生地を一つ取り、ペタペタと手の平で叩くように生地を伸ばし、ヘラで取った白餡を生地の中に入れた。

一人の老婆は、白餡を生地に包んで形を整えながら丸めている。
一見、普通の饅頭作りのように見えた。

だが、生地に白餡を入れた老婆が、おもむろに手元に置かれた瓶の中のものを振りかけた。
瓶はガラス製の青い色で、振りかけているのは白い粉のように見えた。
振りかけている老婆の顔は、ニッタリと目尻と口元を綻ばせ笑っていた。

それは一人の老婆だけでなく、そこにいた全員が謎の白い粉を混ぜニッタリと笑いながら作っていた。

その光景に俺は背筋が寒くなった。

その時、俺は一人の老婆と目が合った。

「美味しい、美味しい、お饅頭だよ」

老婆は手の平に饅頭を乗せて、俺を見ながらニッタリ笑う。
すると、その場にいた老婆たちも、同じように饅頭を手の平に乗せながら、俺を見てニッタリ笑った。

「美味しい、美味しい、お饅頭だよ。みんな、みんな、大好きなのさ」

ヒッヒッヒと笑い、俺は怖くなりその場から離れた。

「美味しい、美味しい」

外で饅頭を食べている人たちは、みんな呪文のようにそう呟きながら、血走った目を見開き無心で食べていたのだった。

美味しい、美味しい、饅頭屋は、今日も長い行列が出来ている。

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