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【怖い商店街の話】 クリーニング店

私が前にバイトをしていたクリーニング屋の話です。
当時高校生だった私は、お小遣いが欲しくて短時間でも働けるバイトを探していました。

見つけたのは、商店街の中にあるクリーニング屋さんのレジ担当でした。
面接に行くと、店長は六十代ぐらいの小田さんという気立てがよさそうな男性で、
従業員は他に40代の新井さんという恰幅のいい男性だけの、小さなクリーニング店でした。

私はすぐに採用され、そこで働くことになりました。
といっても、私の仕事はお客さんから洋服の預かりと受け渡し、それにレジ打ちぐらい。
他の事は小田さんと新井さんがやってくれるし、預かった洋服は回収車がやってきて工場に運ばれ、そこでクリーニングされて戻ってくる。

とても楽な仕事でした。


昔は、店の作業場に3台ほどの洗濯機と乾燥機が置かれ、工場ではなく自分たちだけでクリーニングをしていたそうです。
ですが、時代の流れで利用者の減少、人件費の削減で工場に委託することになったというのです。
その名残なのか、作業場の隅には一台の古い洗濯機がそのまま置かれていました。

あの夜の事。
店はすでに閉店時間が過ぎ、小田さんはすでに帰宅し、新井さんは別室で売り上げのデータ処理をしていて、作業場には私一人でした。
私は作業場の清掃を任され、床を履き、ゴミを捨て、作業台に置かれた道具や洗剤を元の位置に戻していました。

そして、清掃作業も終わったので帰ろうとした時、突然、私の背後から機械音が聞こえてきたのです。
それは聞いたことのある、洗濯機が回る音でした。

振り返ると、そこには古い洗濯機があります。

使用していないと言っていたけれど、確かに音はそこから聞こえてくるのです。

誤作動でも起こしたのかと、私は古い洗濯機に近寄りました。

すると、音がピタリと止まりました。

ガラスの蓋から中を覗いても、中には何も入っておらず、動いた形跡もありませんでした。

何より裏を覗くと、電源コードがコンセントに刺さっていませんでした。

洗濯機の蓋を開けてみると、洗濯槽には汚れと赤黒いカビのようなシミがあるだけでした。
気になったことといえば、ガラスの蓋に手垢のような跡が残っていたことぐらい。

それはきっと、小田さんか新井さんの指紋だろうと思い、さほど気にはしませんでした。

翌日の事です。
夕方にお店に行くと、作業場の裏口付近で小田さんと厳つい男性が話し込み、新井さんは作業場でスーツとYシャツに何やら液体を染み込ませていました。
それは、初めて見る容器に入った液体でした。

「おはようございます」

私が挨拶をすると、「ご苦労さま。今日もよろしくね」といつもの調子で小田さんが挨拶を返してくれました。
新井さんは相変わらず無口で、チラリとこちらを見て軽く会釈をしました。

別室のロッカーに荷物を置いて着替えを済ませてから戻ると、厳つい男性はまだ小田さんと話をしてました。
私に気づいた厳つい男性は険しい顔をしながら、こちらを威圧するような態度で近づいて来たかと思えば、急に笑顔になって「可愛い子やなぁ。新人さんか?」ところりと態度を変えたのでした。
私が返事をしながら頷くと、厳つい男性はニヤリと笑いながら「気張りや」と言って、小田さんに「ほな、よろしゅう頼んます」と肩を二度叩いて、裏口から出ていったのでした。

「怖がらせちゃって、ごめんね。今日もよろしくね」

小田さんはそう言って、別室に入っていったのでした。

私はエプロンの紐を締め直し、レジに向かう前にふと新井さんを見ました。

すると、ちょうど新井さんが古い洗濯機にYシャツやズボン、手袋を二枚ずつ入れようとしているところだったのですが、よく見るとそれぞれのYシャツの胸元や腕には鮮血がべっとりとついていたのでした。

ヒッと私は声が出そうになり口を手で押えると、新井さんはそれに気づいたのか、私に向かって「自分の仕事に就きな」とボソリと言いました。

あれほどの鮮血がついた衣服に触れながら、新井さんは平然と作業をしていました。

私は言われるままレジに立ち、いつも通りの仕事をこなしました。

バイトの時間が終わるまで、五人ほどのお客さんが来ては、衣服を預かったり引き渡しをしたりしました。
預かった衣服は、あの古い洗濯機に入れることなく、いつも通りに回収車に乗せて工場へ送りました。

その頃には、あの鮮血に染まった衣服の洗濯も終わり、真っ白なYシャツとズボンがハンガーで吊るされていました。

何故あれほどの鮮血が服に着いたのか気になりましたが、聞いてはいけない気がして聞くことが出来ませんでした。

その日の営業も終わり、新井さんは閉店準備のためにシャッターを閉めに行きました。
私は作業場の後片付けをしていました。

すると、また私の背後から洗濯機の回る音が聞こえてきました。
私は驚き振り返ると、そこにあるのは古い洗濯機。
しかし、すでに洗濯は終わり、コンセントは抜かれていました。

私は不可解に思いながらもゆっくりと古い洗濯機に近づいていくと、今度はゴトゴトゴトという、明らかに異物が洗濯槽の中で暴れているような音が聞こえ、それはだんだん大きくなっていきました。

私は恐る恐るガラスの蓋から中を覗きましたが、やはり洗濯機は動いてはいません。

しかし、私が古い洗濯機から離れようとした時、今度は男の人の苦しむような唸り声が聞こえてきたのです。

そして、洗濯機が回る音と共に、唸り声は悲痛な叫び声となって響き渡り、洗濯機の蓋の内側に血塗れの手がベタリと張り付いたのでした。

私は驚き悲鳴をあげながら、その場に尻餅をついてしまいました。

ガラスの蓋の内側で、血塗れの手がズリズリと血跡を残しながら消えていきました。

私の悲鳴を聞いて、新井さんが慌てて戻ってきました。
私は古い洗濯機を指差し、「洗濯機の中に血塗れの人が!!」とパニックになりながら言いました。
しかし、それを聞いても新井さんは冷静でした。
知っていたのです。

この古い洗濯機が曰くつきだということを。

新井さんが言うには、その古い洗濯機は昔から血液専用として使っていたそうです。
昔は、今のように使い捨ての時代ではなかったので、怪我をして血がついた服を持ち込むお客さんがこの辺りでは多かったそうです。
小田さんの開発した血液専用の洗剤はとても優秀で、その噂を聞きつけた悪い人たちが、ばれないように依頼することもあったそうです。

どんな悪いことかというのは、私が聞いた唸り声や悲鳴で想像が出来ました。
現在は使っていないのですが、小田さんがお客さんにどうしてもと頼まれたときにだけ、あの古い洗濯機を回すそうです。

ただ、時々不可解なことが起こり、そのせいでバイトが次々とやめていくそうです。
私も、さっきの事でやめたいと本気で思いました。

その事を伝えると、新井さんは「その方がいい」と言いました。

「俺はもう色々な血に触れてしまった。毎日のように、あの古い洗濯機の音が聞こえる。中を覗いたかい? どんなに内槽を掃除しても、壁面の血が消えないんだ。最初は、指紋のようなシミしか見えなかったのに」

そう言って、新井さんは古い洗濯機のガラスの蓋に指をなぞりました。

そこには、前よりもくっきりとした指紋があったのでした。


その後、私は店を辞めました。


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