見出し画像

先生の彼女

夏休みに隣町の本屋に行った帰り、通りで見覚えのある後ろ姿を見つけた。
追いかけてみたら、それは私が大 好きな美術部の先生だった。

先生はかっこよくて、学校にはたくさんのファンがいる。
私もその一人だった。
こんなところで会えるなんてラッキー!
なんて思いながら、私は先生に声を掛けようとした。
 
その時、先生の隣に女の人がいることに気づいた。
後ろ姿で顔はわからないが、スタイルも良くて足が長く、髪は二色のブロンズカラーにウェーブがかったミディアムヘア。学校では見かけない人だった。
先生はその人と腕を組んで歩いていた。

 きっと先生の彼女だ。

一体どこに行くのだろう。そして、彼女はどんな顔をしているんだろう。
気になった私は、こっそりと二人の後をつけてみることにした。 

前を歩く二人は恋人のように腕を組みながら歩いてはいるが、会話をしている様子も一切なく、お互いの顔さえ見てはいなかった。
それがどこか不自然で、私は違和感を抱いていた。

横断歩道の前。
信号が赤に変わって二人は立ち止まった。
私も少し後ろで待っていた。
すると、先生が不意に後ろを振り返り、私と目が合った。
先生は私に気づいて少し驚いた表情を見せた後、私の名前を口にしながら少し微笑んだ。

「こんなところで会うなんて奇遇だな。買い物か?」

先生は私の方に体を向けた。

すると、隣の女の人の腕が先生の腕から離れた。

「はい。本を買いに」

女の人は私に背を向けたまま、今度は先生の手を握った。

「先生は?」

「画材の調達だよ」

「か、彼女さんとですか」
と、私は思わず聞いてしまった。

「気になるか? 」

「まぁ」

「先生、買い物は一人でする性分なんだ。特に美術関係のものを買う時は、ゆっくりじっくり選びたいからね」

「一人?」

「だから、先生に着いてきて何か奢って貰おうなんて考えは無駄だぞ。じゃあな」
そう言って、先生は前を向き直した。

その時、ずっと前を向いていた隣にいた女の人がゆっくりとこちらを向いた。
ニッカリと笑っている口元。
その口元にドキッとした。

しかし、前髪のあいだから見えたのは凹凸のない肌。
女の人のその顔には目も鼻も頬もないのっぺらぼう。
ただ異様に大きな口だけが笑みを浮かべていた。
その口は歯も舌もなく漆黒。
人間にはとても見えず、私の体は凍り付いた。
そして、信号が変わるまでずっと、先生の隣で笑みを浮かべたまま私を見ていた。
私は顔を下に向けて、その顔と合わせないようにしていた。

信号がようやく青に変わると、信号待ちしていた人たちと先生が歩き出した。
すると隣の女の人はまた先生の腕に絡み付き、二人はそのまま人混みに消えていったのだった。


あの女の人は何だったのか。
結局、先生に尋ねることは出来なかった。

よかったらサポートお願いします(>▽<*) よろしくお願いします(´ω`*)