【怖い商店街の話】 郵便ポスト
駅に向かう商店街の途中には、郵便ポストがある。
長く掃除をしていないせいか、表面は汚れているし、塗装も剥げて一部が錆びている。
そのうえ周りにはいつも放置自転車が止まっていて、目立つはずの色も虚しく、そこに郵便ポストがあると気づかない人も多い。
そんな存在感の薄い郵便ポストに、投函している人は少ないだろう。
けれど、郵便ポストには集荷時間が書かれているし、実際に集荷している集荷員の姿を見たことがあった。
しっかりと郵便ポストの役割はしているようだった。
ある時、私は大きな封筒を持って、その郵便ポストに向かっていた。
普段は会社近くの郵便ポストに出すのだけれど、送付期限が迫っていて急いでいた。
郵便ポストには、二つの投函口がある。
左がはがきと手紙用で狭く、右は大きな封筒でも入るように口が広くなっている。
私が持っていた封筒ははがき用では入らず、右の大きな投函口に入れた。
けれど、封筒をポストに入れてすぐに違和感があり、私は封筒ごと一度手を引いた。
理由は、郵便ポストの中で別の封筒が私の指に触れたから。
投函口から中を覗くと、すぐそこに茶色い大きな郵便物が見えた。
手を入れて触れてみると、その郵便物は大きくて分厚かった。
普通なら投函口に郵便物を入れると集荷袋に落ちるのだが、どうやら集荷袋の淵に引っかかってしまっているようだ。
私は投函口に手を入れたまま、その分厚い郵便物を集荷袋に落とそうと試みた。
そうしなくては引っかかっている郵便物の上に私の封筒が乗ったままになり、別の誰かに抜き取られてしまう可能性があるからだ。
分厚い郵便物は、引っかかり集荷袋の中になかなか落ちずに苦労した。
ようやく分厚い郵便物がバサッと音を立てながら集荷袋に落ちた。
私は安堵しながら今度は自分の封筒が同じように引っかからないよう、確実に集荷袋の中に入れたのだった。
そして、手を引き抜こうとした時だった。
突然、郵便ポストの中で手首を掴まれ、そのまま引っ張られた。
それは、まるで子供のような小さな手で、氷のように冷たかった。
私は驚き、慌てて郵便ポストから手を引き抜いた。
「何、今の」
そう思いながら、私は投函口から中をそっと覗いた。
すると、僅かな隙間の奥でこちらを睨んでいる小さな男の子と目が合った。
私の体は反射的にのけぞった。
手をついた拍子に放置自転車が倒れそうになるのを、何とか踏ん張った。
こんな郵便ポストの中に、小さな男の子がいるはずもない。
パニックになりながらも、自分にそう言い聞かせた。
けれど、私は確かに小さな男の子と目が合ったし、その子の手であろう感触も覚えていた。
それに、もしも何らかの犯罪に巻き込まれて、郵便ポストの中に閉じ込められているのだとしたら。
私は別の恐怖を感じた。
そして、恐る恐る郵便ポストの中を覗いた。
微かに見えたのは、私が投函した封筒の一部。
どこにも小さな男の子の姿は見えなかった。
そんなことをしているうちに、私の背後から咳払いが聞こえて振り返ると、そこには私のことを怪訝な表情で見つめる集荷員の男性が立っていた。
そばにはワゴンがあり、手には空っぽの集荷袋を持っていた。
男性が郵便ポストの裏を開けて集荷袋を取り出すと、新しい集荷袋を入れ替えた。
その集荷袋に、男の子の姿などなかった。
「あの、ポストの中に何かいませんか?」
「別にいないけど。何?」
「いえいえ、何でもないです」
集荷員の男性は郵便ポストの扉を閉めると、集荷袋をワゴンに乗せて去っていった。
最後にもう一度中を覗いたが、何もなかった。
私が見たのは一体何だったのか、今でも不明のままだ。
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