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Moon Palace
ポール・オースター著
ポール・オースターの小説に初めて触れたのが
この一冊だった。
好き過ぎて、読みすぎて、ページがバラバラに
外れてしまい2冊目を手にして、それでもまだ
読み倒していた!
どんな経緯でこの本に出会ったのか?と言うと、実は、全く覚えていない(笑)
タイトルの響きが好きで、手にしたのかな?
"それは人類がはじめて月を歩いた夏だった。
そのころ僕はまだひどく若かったが、未来というものが自分にあるとは思えなかった。…"
こんな書き出しで始まる。
主人公の男子学生が、ドン底の極貧に堕ち、
救いの女神に出逢い、奇妙な仕事に就く。
偏屈で風変わりな謎多き老人の話し相手。
そこから始まる自分探しの旅…。
オースターの小説は、視線をクルクルと追いかけるように、主人公の眼や心が捉えたものを独特の生々しさで語りかけてくる。
この作品は、人生の教訓を示したり、ワクワクするような冒険の世界に誘うとかいう類ではない。
簡単に言うとどんなストーリー?
と訊かれても、簡単に纏められない…。
でも物凄く印象深く刻まれている一冊。
絵を観たり、音楽を聴いたり、新しい場所へ出かけたり、初めましての人と出会う時…
ふと、記憶が蘇る事がある。
この小説の世界にトリップして其処にいる感覚。
未だに不思議でならない。
黙々と墨を擦り、その音に耳を傾けて、
薄らと漂ってくる香りに呼吸を向けていると、
読んだ本の世界が広がってくる事がある。
具体的な形や色がある訳では無いのだけれど、
確実にその世界に居る感触が一瞬、本当に僅かな隙間から手を伸ばして触れたような…。
私が描く時は、◯◯のイメージで!
という創り方をすると、全く筆先が走らない。
リラックスしてるとか、していないとかではなくて、私が主体に動かそうとすると描けない。
我欲が働くんだろうなぁ…。
最近、特にそう感じる事が多い。
小説の世界に旅をしているときは、いろいろな事を考えず墨を擦り、筆を握っているんだと思う。
筆先が自然に動くときは、
無意識に心地良い何処かへ向かっている時。
そんな気がする。
"やがて、丘の向こうから月が上がった。
満月の焼け石のように丸く黄色い月だった。
夜空に上がっていく月に僕はじっと視線を
注ぎ、それから闇のなかにみずから場を
見いだすまで目を離さなかった。"
新月の夜、浮かんだ一冊。
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