宿命のあだ名。

プロフィールを見ていただければわかると思うけれど、ぼくの名前は「だいすけ」という。

大介、大輔、大祐、大典、大助。
たくさんの字がある「だいすけ」だけれども、おそらくは日本中のあらゆるだいすけさんが、避けて通ることのできない問題がある。
問題というよりそれは、運命、宿命といった方が正しいかもしれない。

それが今日のタイトル。

ぼくらの宿命のあだ名、「だいすけべ」だ。

＊

けいすけ、しんすけ、ゆうすけ、ようすけ。
「すけ」がつく名前はたくさんあるけれど、彼らはまったくもってすけべの脅威にさらされてはいない。
名前のあとに「べ」をつけても、意味が通じないからだ。

「大」は文字通り、サイズや程度が大きいことを指すから、「すけべ」の前に「大」があれば、もう説明は不要だろうけれど、それは「とってもすけべ」ということになる。

マイネームイズベリースケベ。

ぼくは自分の名前が嫌いだった。

＊

前にも書いたけれど、ぼくはだれかにあやかってこの名前を付けられたわけではない。
帝王切開で産まれ、出てきてビックリ4,500グラム。
わが子がデカ過ぎて面食らった母は、思わず「だいすけ」と名付けたのだった。

＊

中学生のある日、教室でクラスメイトに突然「だいすけべ～！」と呼ばれた。
意味がわからず「？」となったけれど、なんとなくバカにされているような空気はすぐに理解した。まわりもクスクス笑っている。

だいすけ＋すけべ＝だいすけべ。

...。

...。

なん...だとッ！？（ジョジョ風）

一瞬目の前が暗くなったようなショックを受けた。
これから一生背負っていくことになる重たい何かを、クラスメイトによって示された気がした。
何の覚悟もしていないのに、突然。
「ちがうよ！」とか、「うるせー！」とか、反応すればするほど相手も熱くなる。
ぼくは黙ってすけべのレッテルを貼られることになった。

今思えば「すけべで何が悪い！」とでも言い返せればどうにでもなったのだろうけれど、そんな気の利いた返しのセンスは持ち合わせていなかった。

マイネームイズベリースケベ。

人との出会いは最初が肝心。
いきなり「だいすけべ」なんて呼ばれたらもうおしまいだ。
さすがに大人になるにつれて言われることは少なくなったけれど、大学を出るころまではほんとうに自分の名前が嫌いだったし、だから、自己紹介や初対面の挨拶で自分の名前を言うことも、じっさいなかなか苦痛だった。

＊

程度の差はあれ、世のだいすけたちが避けては通れないこの宿命「だいすけべ」。

いい大人になった今、これで凹んだりしている場合ではないので、気にはならない。
何なら「だいすけべ」であることも認めるし、何よりもう、慣れた。
「すけべ」の由来もいろいろ調べた。
もとは性的なニュアンスだけではなかったとか、「好き兵衛」が転じたとか、もとから好色だったとか。

今となってはもう、そんなことはどうでもよろしい。

先人たちが乗り越えてきたこの運命。
ぼくはその解決を、時間に任せてしまった。
いやなことをいやだと言えず、反論もせず。
かといって受け入れもせず。
いじめに遭っていたわけではないけれど、自分で環境を変える努力を十分にしてこなかったと思っている。

＊

ぼくのあとにつづくだいすけ君たち。
キミたちがもしこの宿命と対峙したとき、大切なことはふたつある。

ひとつは、いやなことはいやだと言うこと。
けっして我慢せず、勇気を出していやだと言おう。

もうひとつは、自分がされていやなことは、人にもしないということ。
自分の名前を好きになれない時間なんて、一瞬たりとも味わう価値はない。
それを思い知っているのであれば、なおさらだ。

＊

がんばれ、ぼくら。
がんばれ、だいすけ。

＊