椎名林檎の『人生は夢だらけ』がまったく夢だらけに聞こえなかった頃
もう何年も前のことだ。僕は大学受験に落ちた。
それはもう落ち込んだ。よわめメンタルなのもあって、自分という存在を全否定されたような気分になった。
受験した大学は数少ない頼みの綱だった。ギリギリの状況だったのだ。
胸のあたりが鉛のように重く、これからを考えると絶望していた頃、リリースされたのが椎名林檎の『人生は夢だらけ』という楽曲だった。
ゆったりとはじまって、徐々に気持ちがたかぶっていくかのごとくボーカルも伴奏も盛り上がる。そして、バーン!!と一気に解き放たれるエクスタシー。
独特な構成の、椎名林檎屈指の名曲だ。
この曲を聴いて、僕はぼろぼろと泣いてしまった。
お先真っ暗に思えた自分の人生と重ねてしまったのだ。
変な話だと思う。この曲は真逆のことを歌っているはずだから。
だけど、歌詞のすべてがまるで自分の人生を歌っているように感じてしょうがなかった。
抽象的で、格言的な歌詞の数々。そのどれもが、当時の境遇にあてはめられた。
なにより、ボーカルの破壊力。心を揺さぶる歌唱が、びりびりと響いてきた。
クライマックスで、椎名林檎の歌は魂に訴えかける。もう絶叫といってもいい。
強い強い意志を歌った、雄々しくて凛とした曲。それが『人生は夢だらけ』なのだ。
そんな夢だらけを、「どん底だけど、まだやってやるぞ」という曲だと僕は解釈した。
ほかの人からしたら、ちょっとズレた解釈なのかもしれない。
でも、そう解釈したらすごく共感した。なんだか救われる気がした。
音楽の力を感じる瞬間がある。夢だらけはまさにそんな曲だった。
そしておもしろいのが、当時の僕はこの曲を「夢だらけ」には感じなかったことだ。
いまあらためて聴いてみた印象は、「夢だらけに感じないとは思わない」という感じだ(ややこしい)
当時とはまたべつの解釈になったということなんだろう。聴き手の境遇が変わると印象も変わるのが音楽のおもしろさだと思う。
ちなみに、その後僕はなんやかんやありつつ無事に大学へ進学することができた。
『人生は夢だらけ』は、春になると思い出すちょっと苦い思い出の曲だ。
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