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久しぶり、元気にしとった?また明日ね。

私はずっと、この時期になるのを待ち焦がれていたのかもしれない。
久しぶりの顔ぶれはどこか懐かしいのに、人によっては一年も離れていただなんてちっとも感じられなかった。会う人会う人に小さな歓声をあげるたび、私はやっぱり、この子たちのことが大好きなんだなあと思う。

この間、最後の演奏会を前に部活に復帰した。今は卒論執筆の傍ら、相棒のクラリネットとともに日々練習を重ねている。自分の思い通りに演奏できなかったり周りとのギャップにくさくさしたりすることもあるけれど、やっぱり吹奏楽は楽しい。単純な言葉でしか言い表せないけれど、その一言に尽きる。

去年までと変わったのは、みんなとの会話のほとんどがこの先の進路の話題になったこと。私はここに残るわけでも地元に帰るわけでもないから、ほとんどの人たちと離ればなれになってしまう。この人たちと音楽するのはおろか、こうして会えるのも最後になるのかもしれない。この場所に骨を埋める気は最初からなかったものの、そう思うと後ろ髪を引かれるような気持ちになる。

愉快で平和な同期たち、優秀で可愛い後輩、その貫禄が頼もしい先輩方に囲まれて、今年最後の音楽を仕上げにかかる。雰囲気はゆるいのに、真面目で熱心なメンバーばかりが集まっているから練習の密度も濃い。つくづくいい団体に入れたなあと思う。だからこそ寂しい、この時間がもうすぐ終わりを迎えてしまうことが。


人と音楽をすることは何よりも刺激になるけれど、同時に私自身を人間たらしめるために必要な行動でもある。

大学の最終学年ともなると、出席すべき授業はほとんどなく、文系なので理系のような実験もいらず大学に行くことすらなくなった。そうなるとどうしても、家か図書館で一人もそもそと論文を書き進めるだけの生活になってしまう。一人でもそれなりに楽しめる性格ではあるけれど、やっぱり日々の張り合いはなくなる。

目の前の本番とそのための練習は、そんな日々に潤いをもたらしてくれた。毎日夜遅くに帰宅する生活は久しぶりに堪えるけれど、楽器を吹くということ、誰かと話すこと、みんなで音楽をつくることは心を十分にほぐしてくれる。練習終わりに見上げた真っ黒な空は、不思議といつもより清々しく澄んで見えた。

好きな人たちに会って、大好きな音楽をする。たったそれだけで、自分の中の空気が全部入れ替わったかのような心地になる。一年間澱んだままそこにいた何かが、楽器に息を吹き込むたびに身体の外へと出ていく。そして、そうだ私という人間はこうだった、とかつての自分を取り戻す。それは心の大掃除のようなものでもあるのかもしれない、時期的にも。


吐き出した澱みの代わりに、新鮮な空気を取り込んでいく。身体はそれなりに疲れているけれど、心はなんだか前よりも活気づいてきた。こうして本番前の昂りを感じると、忙しいのも悪くないな、と思えてくる。それはきっと、明日もみんなと楽しい時間を共有できることを知っていて、まだまだ上を目指すことができるからなのだろう。

元気にしとったー?と聞かれるたび、それまでの暗い気持ちなんか吹っ飛んで、元気やったよ!と威勢よく答えてしまう。明日も明後日も、そんなみんなと吹奏楽ができる。残りわずかの時間を大切に抱きしめながら、今この時だけの音楽を純粋に楽しみたい。



メディアパルさんの企画 #私の暮らしメンテナンス に参加させていただきます(記事は2つ目です)。
こちらの記事で1つ目の参加記事をご紹介いただいております。他の方の着眼点もそれぞれの個性が光っていて面白いので、ぜひご覧ください🦔🌷


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