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松野志部彦
2021年5月11日 08:39
保科リアンが宇宙人であることを知っていたのは、全校生徒約五百名を抱えるこの学校で、僕だけだった。 気づいたのはまったくの偶然だ。 その日の美術の授業中、下書きを終えたばかりの版画版へ、恐ろしく不器用な手つきで彫刻刀を突き立てていたリアンが、誤って左手に刃先を滑らせた。ちょうど教師が席を外し、美術室が猿山のように騒がしくなっていたときのことだ。昼休みのあとの五限目であり、そんな時間帯に美術の授