キツネにばかされた!?

あれは、京都に住んでいた大学4回生の冬。今から33年前だから、まだ昭和だ。昭和の出来事なんていうと、もう歴史上の昔話のようだけど、そんな頃が私の青春時代だった。昭和63年の冬。クリスマス気分が盛り上がり始めていた時期だと記憶しているので、たぶん今と同じくらい、12月の半ばだったと思う。

紙袋に無造作に入れられた200万円だったか300万円だったかの紙幣が、三条京阪駅ホームのゴミ箱に捨てられているという事件がニュースで流れた。なぜ捨てる?捨てるぐらいなら俺にくれ!と思ったが、出どころのヤバいお金だったのだろう。「私が捨てました!」「私のお金です!」と名乗り出る者はいなかった。京都に住んでいる身としては、またどこかに捨てられるかもしれないから、次は俺が見つけて拾ってやる、と密かに思っていた。

当時、私は就職も決まり、卒論もほぼ書き終え、単位に不足もなかったので、あとは卒業を待つだけ。バイト先の本屋で知り合った2つ年下の女性に、どうやって人生初の告白(奥手でした)をするか?が、卒業までに残された課題だった。

その本屋で、私は夜の部の出勤。19時〜24時までがバイトの時間だった。バイト前に晩メシを食べることもあれば、バイト終わりに本屋の近所にあるラーメン屋に寄ることもあった。その日はギリギリまで寝ていたので、晩メシは食べずにバイトへ。しかし、故郷から大量の食材(お米や野菜、カップラーメンなどなど...)が届いた日だったので、そのまま帰ることにした。24時を過ぎ、本屋のシャッターを閉め、いつもなら目の前の横断歩道を渡って...なのだが、なぜか歩道橋を渡って帰ろうと思った。歩道橋を使ったのは、後にも先にも、その日しかない。

歩道橋のまんなか辺りで、私は見つけてしまった。か、か、紙袋!プラスチックの取っ手がついた紙袋!しかもパチっと留められるタイプの紙袋!中身を見られたくないからだ。大事なものが入っているからだ。ドキン!ドキン!ドキン!と、心臓音が鳴り響いている気がした。そっと周囲を見渡した。よし!誰もいない!!誰にも見られていない!紙袋の取っ手を持つと...ガサッ!と音がした。重い!重いぞ!札だ!札に違いない!鼓動がスピードアップする。そこから、どうやって帰ったかは、よく覚えていない。ただ早歩きで、4畳半のアパートをめざした。ただただ早歩きで、急いで帰った。

興奮のせいか、アパートの鍵がうまく開けられない。ガチャガチャという音が、とてつもなく大きく感じた。狭い部屋の中央に紙袋を置き、とりあえず深呼吸した。札!札!!札!!!金!金!!金!!! 紙袋の大きさ、重さ...。いったい、いくら入っているんだ!? アタマの中でドラムロールが鳴る。パチ、パチ、ガバッ。中を覗くと...そこにあったのは...大量の紙幣...ではなく...大量の葉っぱ!!!!!

今度は、アタマの中にチ〜ンという音が鳴り響いた。もう、お札が入っている!と思い込んで...というか決めていたので、「うわっ...キツネにばかされた...」と、つぶやいた。しばしの静寂の後、大笑いした。お札が葉っぱになったのではなく(当然のことだけど)、落ち葉拾いをした人が、それを集めて紙袋に詰めていただけのことなのだろう。ごみ収集の日まで、歩道橋に置いていたのかもしれない。

キツネにばかされたのではなく、ただただ、私が“ばか”だったのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?