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やってやれないことはない31話 『獣医師人生としてのあるべき姿』

卒業式を終え、獣医師国家試験も合格し、多くの学生は、新しい生活に期待と不安を織り交ぜながら、日本中に散っていきます。

私は若い同級生よりも29年間短い獣医師人生を過ごすことになります。

元来、前向き思考ですから、獣医師として何ができるか考え続けてきました。
自分にとっての獣医師人生。
社会に役立てる獣医師人生。
人医療出身の医療従事者としての獣医師人生。
獣医師ではなく、医療従事者として経営と医学を修めた病院経営アドバイザー。

どのような形であれ、医療を天職と決めた自分にとって、それにかかわる仕事はすべてと思っています。
法律上、獣医師が人医療にかかわることは、ほとんどありません。
しかし、保健所の公衆衛生は獣医師が多く活躍しています。

在学中に、私の存在を聞きつけた獣医師の小動物臨床医団体から講演依頼を受けました。
「人医療からみた獣医療の目指すもの」ホスピタリティから経営までのノウハウについて講演しました。
この講演では、多くの獣医師から新しい視点に賛同いただき、後に日本で有数の規模を誇る動物病院から副院長として招請を受けることになりました。

先ずは、私の専門とした『創傷治癒』における臨床を含む一般治療全般の臨床経験を積むことにします。
『創傷治癒』の治療を実施している動物病院にスポットで出入りさせていただきました。
日常は、研修勤務医として、日々の外来臨床と手術、入院治療までの手技と知見と修めることにしました。

大学で学んだことを実際の臨床で使うには、相当のギャップがあり、実務レベルに達するために必死で学んでいきました。
時に、夜中の1時から緊急帝王切開を行うこともあり、身の引き締まる日々を過ごしました。
しばらく経ち、東京で開業しました。
街の臨床医は労働時間も長く重労働です。年齢的にも5年が限度として承継することを前提に開業することにしました。

何故、5年以内に承継することが分かっているのに開業したのか?

私が人医療で学んだ経営のノウハウのすべてを尽くして開業すれば、間違いなく成功し、誰もが承継を受けたいということになり、後輩への置き土産となる見本を示す気持ちになったことです。

立地から規模、設備、施設、人事など経営にかかわるあらゆる事象を鑑みて徹底的に選択を行って開業しました。

私の思いは、多くの方に伝わり、多くの獣医師が見学に来ました。
残念ながら、全ての来訪者の気持ちに寄り添うことはできません。
技量と経験、経営能力など確実に発展させていける人材が見つかるのに2年余りかかりました。
すぐにでも承継を受けたいとの強い願望と前向きな獣医師に病院のマスターキーを渡すことにしました。

丁度そのころ時同じくして、先の動物病院から来てほしいとの招請を受けており、心機一転その動物病院に勤務することにしました。
多分、このようなめぐりあわせは作ろうと思ってもできるものではありません。

『誰にでもチャンスは目の前を行き来している。そのチャンスを掴めるかどうかは、幾ばくかの準備ができているかいないかだけである』私の持論がここにあります。

その動物病院は、規模が大きくなっても診療内容が個人病院の時代のままで、年々収益に下がっていました。
何とか、この窮地を打開すべく対応してほしいとのことです。

ここで受けた言葉は又もや同じでした。
『すべてあなたの思うように経営してかまわない。全て任せます』
これを聞いたときは、経営的に相当悪いと判断します。
順調な時に、経営を人任せにする経営者はいないからです。

覚悟のポジションに意気が上がります。
臨床医ですから臨床は行いますが、どれだけ関われるか分からない一抹の不安があります。

人医療の病院再建は、3年のつもりが医療制度改革や介護保険対応で5年かかりました。
規模が異なりますが、2年から3年はかかるように感じます。

経営資料から経営分析を行い、飼い主さんの期待値に対する当該動物病院の乖離を求めます。
最初の目標は、収益が損益分岐点を超えることです。
そのための経営計画作成からはじめます。

飼い主さんの当該動物病院への期待値の乖離が余りにも大きく、この修正には組織改革が必要であることが分かりました。
これだけ立派な規模の動物病院でありながら、システムはすべて中途半端で機能の不全に陥っていました。

人事的に職員の出入りも多く、有給休暇さえ取得させないような雰囲気で、飼い主さんも職員も不平不満を積もらせていた結果の現状でした。

個人資産で建設された動物病院ですので、全ての経営計画は院長了承の上進めます。

院長は、私の話を理解しているのか、していないのか一緒に行っていくと言う雰囲気ではありません。
「全てお任せします」で終わります。

システム上中途半端なものは、やるかやらないか二者択一です。

職員との個人面談の中で見えてきたものがあります。

医療設備も機能不全に陥っているようです。
エックス線撮影室は立派ですが、自動現像機が年中壊れていて、ボケているフィルムしか出てこないようです。当然CRはありません。
超音波診断装置も診断精度の非常に悪いものでした。
手術室には立派な麻酔器が数台ありますが、全く使えない機械ばかりでした。
唯一使用している麻酔器は、見たことないような古典的なもので麻酔濃度が一定しない危険極まりないものでした。

職員からの不満を取り上げたらきりないほどで、一つ一つの検証にため息ばかりが出てきます。

再建計画と計画予算の立案承認が先決です。
診療に支障のある設備を正常運用が行えるようにします。

まずは、エックス線自現機は、サポートも終わってしまったような古い機械とわかり、一挙に臨床の質を高めるためにCR導入を行うことにしました。
大手3社の当院に対するプレゼンテーションを受けることにしました。
当院の規模に見合った設備は3000万円以上と思っているようです。

今度は、こちらのほうで仕様について提示しました。
CR機器導入と同時に全館LAN接続工事を行うこと。
全外来診察室、手術室、医局、講義室、会議室等に配線すること。
記憶容量、移動式モニター、固定式モニター、モニター精度
カセット種類と枚数など多くの要望を受け入れたメーカーに決定しました。
提示価格の半値以下の予算範囲に収める交渉は、難航を極めましたが交渉に利ありで通しました。

斯くして、一気に動物病院内の士気は上がり、臨床精度も高まりました。

其の他、病院全体の機能向上のため、多くの機器を修理し、整備しました。

この結果、診療収入は増加を始め、飼い主さんの不満もやや落ち着いたように見えました。

次に行うことは、職員の技能向上と福利厚生などの労働環境整備です。

何をどのように行うか・・・

このnoteは、私の人生において成功・完結・失敗・後悔などのストーリーです。 若い皆さんのヒントになればと思って書いています。 書いてほしいことがあれば、気軽にご連絡ください。 サポートは結果であると受け止めておりますのでよろしくお願いいたします。