見出し画像

記憶の欠片

BARで顔見知りのウクライナ人の女の子に偶然出会い、僕は彼女の横の席に座った。彼女は同い年で、世界を旅している。所謂バックパッカーだ。
世界を旅したら色々なものに出会い、色々な事に気づくだろう。赤いワインを目の前に彼女は達観しているように見えた。

僕は彼女の手首に一つだけ入った音符のタトゥーについて聞いた。少し酔った彼女は何かを思い出したかのように話し始めた。


「結果から言うと私は”バカ”だからタトゥーを入れたのよ。」

「“あの日”友人とお酒を飲んで過ごしてたの。帰り道、友人と酔っぱらって楽しくなって大声で歌ったり、馬鹿みたいなことを言って笑ったりしたの。よくあることでしょ?そしたら私大胆に転んだの。空を見ながら大爆笑したわ。その転んだ時、なんかとてもいい音が聞こえた気がしたの。その音に特別なものを感じてそのまま、その音の音符のタトゥーを入れに行ったわ。これが私の唯一のタトゥーよ。まじで“あの日”はぶっ飛んでたわ。私って最高にバカでしょ?」と言った。

僕は思った。

彼女が言う、“あの日”は彼女にとって忘れがたい最高な思い出だったに違いないと。

何故なら、話している時の彼女が、凄く楽しそうだったからだ。

きっと“あの日”の情景を頭に浮かべて
”あの日”の最高な感覚を感じたのだろう。

思い出を思い返すとその時一緒にいた友人、その時の会話、感情、流れていた音楽、街などが蘇る。

僕たちは知らず知らずのうちに記憶の欠片を集めている。


僕は笑いながら言った。

「君は最高にバカだな」と

そして思った。

「ここに赤いワインはいらないな」と


最後まで読んでいただきありがとうございます。 海外を放浪しているので、サポートいただけたら旅の中での活動費に役立てさせていただきます!