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酷暑の稽古:90分練習した影響は?

今年は梅雨が明けるのが早く日本各地で6月なのに35度を超える猛暑日が続きました。一度涼しくなったのですが、また暑くなってきました。ブラジリアン柔術は屋内競技です。それでも暑いとキツイ。また、公共の武道館、体育館ですと冷房がないところも多いです。本当にキツイ。さて、酷暑での格闘技の練習はどのような悪影響があるのでしょう?

先日、暑さに慣れない状況での悪影響についてまとめました。



今回は暑さに慣れた上でどのような悪影響があるのか、柔道の稽古に対する影響から紹介したいと思います。


プエルトリコでのデータ

プエルトリコはカリブ海にあり、毎日が夏。スポーツにも暑さ対策が必要です。Rivera-Brownたちは、柔道選手を対象に酷暑が稽古に与える影響について調べました(Rivera-Brown et al., 2012)。酷暑の中の稽古で心配なのは熱中症。その対策で重要なことの一つに水分補給があります。この研究では、水分補給が適切になされているか調べるため体重を測りました練習の前後で体重を比較し、過度な減少がないか確認するのは水分補給が適切か確認するために手っ取り早くかつ有効な方法です。この研究では、稽古の前、直後、24時間後の3回体重を測定しました。さらに尿を採取し体内の水分状況も調べました。頭痛、倦怠感などいわゆる熱中症の症状についても尋ねました。

24人の10代の柔道選手が、気温平均29.5度、湿度77%、冷房なし武道場で稽古を90分行いました。気温も湿度も日本に似ていますね。稽古の内容は、15分ウォームアップ、60分練習、15分クールダウンという構成でよくある感じです。60分の練習は受身、寝技(抑え込みと絞め)、乱取りという構成でした。全体として柔術のクラスとも似てますね。稽古中、水は自由に飲むことができました

体重の変化

体重は稽古後にかなり落ち、10代後半の選手だと体重の1.9%減っていました。体重60 kgなら1.1 kgくらいです。経験的には納得できる数字です。90分で脂肪やタンパク質などの体組織はほとんど変化しませんから、この減少は基本的に水分量の変化です。体から水分が2%以上減ると体温の調節が難しくなり、体調が悪化し、パフォーマンスも下がります。全米アスレティックトレーナーズ協会(National Athletic Trainers' Association, NATA)の熱中症に関する声明でも2%が危険なラインであるとはっきり明言されています(Casa et al., 2015) 。

なお、体重は24時間経つとおおよそ戻っていました。

尿比重の変化

尿比重も練習直後にかなり悪化していました。尿比重は、尿内の水分と固形成分の比率です。一般に1.006~1.022 g/mLが正常範囲と言われています(例えば、国立がん研究センター, 2016)。体から水分が抜けるとこの数値が高くなります。ですから、高くなると脱水症状が懸念されます。

柔道の稽古前後における尿比重の変化(10代後半の選手のデータ)

上の図に10代後半の選手のデータを示しました。稽古前から正常範囲ギリギリになっており、稽古直後はそれを大幅に超えていました。そして、24時間経っても正常範囲には戻りませんでした。ちなみに1.03はかなり深刻な脱水症状を示す値です。それが平均値であることを考えるとやはりかなり危険。

Rivera-Brownは柔道のように体重別の競技では水分を調整することで減量を行うため、日常的に体内の水分が足りておらず、練習でも水分摂取を避ける傾向があることを指摘しました。

ブラジリアン柔術でも水分による体重調整は比較的よく行われます。水分減少によるパフォーマンスの低下は個人差があるので2%くらいではほとんど影響がない人もいるのですが、夏場はやはり気をつけた方が良いですね。

水分補給をきちんとしましょう

Rivera-Brownたちのデータが示すように酷暑に練習をすると脱水が起こり、熱中症になりやすいようです。実際、頭痛やめまいなどの熱中症の典型的な症状が出ている選手がいました。頭痛については夜まで続いたそうです。

なお、ここでは水分だけの話をしましたが塩分も排出されます。水分補給の原則は練習前と練習後で体重が変わらないこと、そして、水分以外の塩分やミネラル摂取することです。夏場は小まめな水分補給を心がけたいですね。

引用文献

・Casa, D. J., DeMartini, J. K., Bergeron, M. F., Csillan, D., Eichner, E. R., Lopez, R. M., ... & Yeargin, S. W. (2015). National Athletic Trainers' Association position statement: exertional heat illnesses. Journal of athletic training, 50(9), 986-1000.
・国立がん研究センター (2016). 臨床検査基準一覧.https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/clinical_laboratory/kensa.pdf
・Rivera-Brown, A. M., Félix-Dávila, D., & Roberto, A. (2012). Hydration status in adolescent judo athletes before and after training in the heat. International Journal of Sports Physiology & Performance, 7(1), 39–46.

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