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“Father and son”

 表紙をめくるといきなり目に飛び込んでくる一枚の写真。墓前で瓶ビールをラッパ飲みする一人の男。右手に紫煙を燻らせ、足元にはサッカーボール。フルチンである。

 そんな写真(掲載は控えます)で幕を開けるユルゲン・テラーの“Nackig auf dem Fubballplatz”は、2002年日韓ワールドカップ決勝、ドイツ−ブラジル戦を独りテレビ観戦するテラー本人の様子をビデオ撮影し、その経過を刻々と静止画にして時系列的に並べた、モノクロのセルフポートレート集である。ちなみに次々とページをめくったとて(つまり「90分」を通して)、この「ドイツ人」に歓喜の表情は一度も表れない。この試合の詳細を覚えている方には、お察しいただけると思う。


 先に触れた冒頭の一見クレイジーなフルチン写真は、実は再会した「親子」のワンシーンだ。2003年に撮影されたその写真に添えられたタイトルは、“Father and son”。アルコール依存症を患っていたテラーの父は1988年、自ら命を絶った。スポーツ嫌いだったという父とは、ついぞ共有できなかった「ネイキッド」なパッション。テラーは2002年のあの日の失望感を、父の墓標に向かって子供のように無邪気にぶつけていたのだろう。「カーンのあのミス、どう思うよ?」なんて。


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 そしてその11年後に刊行された写真集“Siegerflieger”においても、テーマのひとつとして通底しているのはやはり「親子」だ。

 2014年、ブラジル・ワールドカップ。準決勝では“セレソン”をその開催国国民の眼前で完膚無きまでに叩きのめし、そして決勝では“セレステ・イ・ブランコ”を延長の末に破って、不利と言われた南米開催でトロフィーを掲げたドイツ代表。その栄光のストーリーを辿りながら、自身がかつて果たせなかった父親とのヴィヴィッドな感情の共有を、テラーはついにリアルタイムで「我が子」と果たせたのである。その無邪気な歓びが、こちらの写真集には止めどなく溢れている。そういう意味では、“Nackig auf dem Fubballplatz”とセットで見るべき作品といえるだろう。


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 スタジアムで楽しそうに(または悔しそうに)している親子連れをみかけると、こちらもほっこりと心温まります。さておきテラーのこの写真集、勧めておいてこういうのもなんですが、二冊とも親子で見るにはまっっったくオススメできない内容ですw 


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