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【アジア横断&中東縦断の旅 2004】 第22話 イスラエル

2005年1月13日 旅立ちから、現在 376 日目

シリアからヨルダンに入国した。
そして国境から乗り合いバスに乗り、そのまま首都アンマンに移動して繁華街の安宿にベッドを確保した。

アンマンの安宿

私がアンマンに到着する数ヵ月前、この宿から一人の日本人青年が戦時下のイラクに向かい、そのままイラク国内で拉致、殺害され世界的ニュースになった。
ここアンマンの町は活気にあふれ人々は明るく生活していたが、隣の国では未だに戦争は終結しておらず、いつ近隣諸国にその火種が飛び火してもおかしくないような不安定な状況だった。


ヨルダンの首都アンマンから西の隣国イスラエルへ向かった。

イスラエル国境へ向かう

国境に着いてバスを降りたら国境警備のイスラエル兵が離れた場所からこちらに銃を向けていた。
そして荷物をその場に置けと銃口で合図してきた。
その指示に従い荷物を置いたら、次は靴も脱いでその場から離れろと言われた。
そして兵士は私の荷物を持ってどこかに行ってしまった。
そのままその場所に放置され、ようやく荷物が戻ってきたのはなんと6時間後だった。
そこから更に2時間ほど厳しい入国審査を受け、やっと入国許可が下りた。

イスラエルはテロを極度に警戒しており、そのため陸路での入国審査は世界一厳しいと聞いていたので、不要な荷物をアンマンの宿に預け、必要最小限の物をまとめた小さなバッグしか持ってこなかったのだが、それでも入国に丸一日を費やすことになってしまった。
外は日が暮れ始めていたので足早にエルサレム市街へ向かった。

エルサレム旧市街は重厚な歴史が凝縮されていた。
有史以来常に中東世界の中心にあったこの町の圧倒的な重力に私は強く引きつけられ、毎日わくわくしながら路地をさまよい歩いた。

エルサレム旧市街
旧市街門外の青空市
旧市街内の商店
旧市街内の路地
ゲッセマネの園


ここは聖書に描かれている世界そのものだった。
そしてその聖書に記された場所を訪れるたびに、数千年前の光景が目の前に鮮明に映し出されるような錯覚にとらわれた。

城壁に囲まれたエリアの中には、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、それぞれの聖地があった。
本来、多宗教が平和に共存しているはずのこの町では、今は大勢の兵士がむき出しの銃を肩から下げたまま警備に当たっていた。
警官や民間警備会社でなく、武装した兵士が警備しなければならないほど、この聖なる町は不穏で殺伐とした緊張感に満ちていた。

イスラム教三大聖地のひとつ 岩のドーム
ユダヤ教の聖地 嘆きの壁
兵士は何を祈るのか


旧市街の中心部にある、イエス・キリストが十字架に磔にされた丘に建てられたとされる聖墳墓教会は、キリスト教の大聖地なので世界中から様々な教派、人種のクリスチャンが集まってきていた。
いくつかの教派が共同管理するその豪華絢爛で大きな教会の中心にはイエスの墓があり、巡礼者たちは皆それぞれの言語で賛美歌を歌い、それぞれの作法で祈りを捧げていた。
この旅の中で様々な宗教の聖地を巡ってきたが、この場所は今までとは比較にならない程の圧倒的なパワーを放っていた。
私はその場からしばらく動くことができずに、祈る人々をただ見続けていた。

キリスト教の聖地 聖墳墓教会
聖墳墓教会の内部


翌日、郊外の町ベツレヘムへ向かった。

町の入り口には殺風景な検問所があった。
現在ベツレヘムはパレスチナ自治区内にあり、エルサレムから行き来するためにはこの検問所を通らなければならなかった。
ベツレヘムの町の中心部にはイエス・キリストが生誕した場所に建てられたとされる教会があった。
ここでも世界各国のクリスチャンが集まり祈りを捧げていた。
宗教に関わらず人が真摯に祈る姿は美しかった。
だが、その美しい祈りの音色はその日の私の心には空しく響いていた。

黒人公民権運動の指導者であるM.L.キングJr.牧師は、「愛なき力は暴力であり、力無き愛は無力である」と言ったが、どうすればこの世界に「愛」と「力」のバランスが保たれるのだろう。
皆、争いなど望んでいないはずなのに。

生誕教会内部


イスラエルからヨルダンへ帰る日。
国境へ向かうバスの中から高く巨大な壁が見えた。

ユダヤ人とパレスチナ人の居住区を隔てるために建設されたこの壁は、東西ドイツを隔てていたベルリンの壁の比ではなく、まるで高層ビルのようにも思えるほどの圧倒的な存在感で、対話を拒否するかのごとく荒野にそびえ立っていた。

ここでも憎しみの連鎖は止まらない。
私はこの悲しい光景を絶対忘れないようにしようと心に誓った。

居住区を隔てる壁


ふと気が付くと、なぜか涙が頬を伝っていた。
ここもまた、矛盾に満ちた世界の縮図の最前線だった。


続く ↓

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