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【青年海外協力隊ベトナム日記 2006〜08】 第8話 「same same but different」

ハノイ、サイゴンなどの都市部を歩いていると、そこにはたくさんのギャラリーがあることに気がつく。

周辺諸国でこれだけたくさんのギャラリーを目にすることはまずない。
ベトナムではさぞかし美術が進んでいるのかと思いふらりと入ってみる。
しかしそこで目にするものは美術を良く知らない人でもどこかで一度くらいは目にしたことがあるだろう近現代の有名作品のコピー絵画だ。
まれにコピーではない作品を目にすることもあるが、それでもやはりどこかで見たことのあるような作品の表面上の技法やイメージを借りてきているに過ぎない。

コピー絵画を扱う多くのギャラリー。
これは周辺諸国では出会うことの少ないベトナム特有の傾向だ。
まあそれはそれで構わない(法的な話はさておき)。
コピーであろうがとにかく絵画に親しもうとしている人が多いからこのシステムが成り立っているのだと、ここでは前向きに解釈しよう。

現在ベトナムは「コピーを作ることのできる程の技術力」は持っている。
もし彼らがこの先新たな展開を望むのならば、そこに必要不可欠なものはやはり想像力だ。
それが無ければいつまでたっても現状の安易なコピー作りから抜け出すことができずに伸び悩むことになるに違いない。

ベトナムの観光地でよく見かける「same same but different」とプリントされている土産用のTシャツ。
これは、観光地で売っているブランド物のコピー商品などを「same same」とすすめてくるが「but different」、といったようなベトナムでのいいかげんな商売を皮肉ったパロディなのだが「not different」の高品質のものを作る技術力と、「but different」のアイデアと想像力のどちらも未だ未熟であるという、自虐的な皮肉に感じてしまうというのは私の性格が歪んでいるせいだろうか。

だが、実は私はベトナムに対して大きな可能性も感じている。

幸いにもベトナム人は勤勉で教育水準も高い。
一度仲良くなればとことん親切にしてくれる。
特に酒の席を重ねるたびに親交が深まるというのは日本の文化と似ていて大変興味深い。
シンプルで美しいベトナム雑貨や、少数民族の民芸品。可憐な民族衣装のアオザイ。ヘルシーなベトナム料理とフランス様式の美しい町並み。
町中を見渡してみても、建物やちょっとした小物などにも秀逸なセンスの良さを感じる。
数々の伝統工芸が現代に残っており、今でもベトナムは洋の東西を問わず多くの観光客が押し寄せている。
日本との関係も、16世紀にはすでに日本人街が造られるほどに昔から深い関係だったといえるため、概して親日感情が強い、などのように文化的な魅力がたくさんある国だ。

経済の分野でも、中国一極集中リスクが強く認識されるようなるにつれ「チャイナプラス1」のリスク分散先として、中国とASEANを繋ぐ位置にあるという地理上の優位性も幸いし、投資の有力先候補のひとつとして注目の的となっている。
将来的にこの国は、経済的にも更なる発展を遂げていくであろう可能性を十分に秘めている。

さて、マクロ的な視点はさておき、とにかくこの国には、そしてこの町にはここにしかない美しい景色や独自の素晴らしい文化がたくさんある。

ほとんどこの町を出ることのない彼らが、外の世界から来た私と関わりを持つことにより、自分たちが元から持つセンスの良さや素晴らしい文化を再発見し、新しい視点やアイデアが生まれるきっかけのひとつになりうるとすれば、そこにおいて「美術」の持つ可能性は有効に機能するのではないだろうか。


続く ↓

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