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兄の漢字テスト

兄が100点満点の漢字テストで、44点を取ってきた。

3年生から宿題の丸つけを自分で行うようになり、学校の勉強を見る機会は格段に減ったが、テストの点も悪くないし、何より中学受験塾に通い始めたので、学校の勉強は大丈夫だろうと高を括っていた。

去年のテストは学年末にまとめてドサッと渡されて、「わんさかあってよくわかんないから、いらないなら捨てれば」と言っておしまい。今年もまだ一枚も見ておらず、初めて目にしたテストが44点だったので、目玉が飛び出そうになった。いかん、放置しすぎた。

数日後、ちょうど保護者会が設定されていたので、担任に話を持ちかけると、先生から「必ず親に見せるように」と言ってくれたことがわかった。

テストなんて全然見せてこなかったのに、だからダイニングテーブルの上に堂々と44点が置かれていたのか。しかも先生には、「点数が悪いとお母さんが怖いから、見せたくないんです」と相談までしていたらしく、私は「あはは…」と乾いた笑いをするしかなかった。あのやろー。

80点以下は追試とのこと。

金曜日にテストが返却され、保護者会は次週の火曜日。兄は同じ週の金曜日に追試があると言っていたが、「実は、明日の水曜日に変更になったんです」と先生は言った。

兄は「金曜日だからまだ大丈夫」と言って、週末何もしていなかったのを知っている。「明日と言われたら、全然できなそうです…」と、恐縮しながら先生に告げると、「今日は早帰りだったので、帰ったらきっと勉強してくれていると思いますよ」と前向きな言葉をくださった。

帰宅したら、勉強机の前で黙々と漢字に向き合う兄がいた。おぉ、さすがに明日への危機意識はあるのね。だが、塾の日だったので、塾の前後で2時間くらいしか勉強時間が取れない。そんな中でもやる気はあるようなので、口は出さず、どうするのか遠目に見守っていた。

始めはノートに答えを書き写していたが、そのうち修正テープで50問の漢字の答えを一つずつ、カチャカチャ消し始めた。

「何してるの?」と聞くと、問題をノートにすべて書き写すのは時間がかかるし、テスト用紙の答えを消しゴムで消してもうっすら見えてしまう。だから答えを修正テープで消し、その上に書き込んでいくと効率が良さそうだ、と思ったらしい。

短時間のうちに、勉強の仕方についてそんなに考えていたなんてびっくり。どのように勉強するのが自分に合っているか、考える良いきっかけになったようだ。追試の圧力すごいな。

準備を整えて塾へ行き、帰宅後、すぐに取りかかっていた。でも一発で合格ラインに到達するわけがないので、カチャカチャ、カチャカチャ、修正テープはどんどん消費され、1個空になってしまった。

自分で考えたのはエライけど、この方法はコストがかかるわ。でも1時間も経たないうちに、「よし!終わり!」と言って眠りについた。

次の日は早起きして、またカチャカチャ、カチャカチャ。昨夜の見直しをしているようだった。30分ほどしたら、朝食を食べて登校。結局、私が口を出したのは「何してるの?」だけだった。

帰宅後の兄の第一声は、すっごい上から目線の

「追試100点だったわ」

「すごいじゃん!」と言って、両手を上げて思いっきり喜んでしまった。いやいや、あくまで追試だからね。してやったりで言われても、だったら最初から100点取れよ、って話ですよ。

でも、やらされたわけではなく、自らの手で掴んだ100点であるのは明白。価値ある追試100点だなと思い、うれしくなった。

それから日が経つこと1週間。

学期末の漢字テストと称して、再度、漢字50問テストが行われることになった。今回は初回で合格を取るぞ、と兄は息巻いた。テスト前日、カチャカチャ、カチャカチャと例の作業を始め、前回のテストでは出てこなかった漢字を確認し始めた。

早々に見直しは終わり、「今回はいけるかも!」と余裕の発言まで飛び出したので、私は心の中で応援するのみ。何も言わずに学校へ送り出した。

帰宅後、なんとも言えぬ顔の兄。

しびれを切らして「どうだった?」と聞くと、

「40点だった…」

えっ?なんで!?

ふて腐れている兄に、間違いの中に前回のテストに出てきた漢字がどのくらいあるかチェックさせた。すると、ほとんどが前回のテスト範囲だった。

一夜で勉強した漢字たちが、問題文が少し変わっただけで、全部スコンと抜け落ちてしまっていた。字の通りの丸暗記。残念ながら、応用はきかないようだ。

もちろん、また追試である。

修正液カチャカチャではだめだと思った兄は、間違えた漢字の読みと意味を一つひとつ漢和辞典で調べていった。効率は良くないが、言葉の意味を理解しないことには、すぐに忘れてしまうと思ったらしい。なかなかに集中して、嫌気がさすこともなくやり切った。追試の圧力さまさま。

翌日の追試結果は96点だった。報告の表情はいたって普通のご様子。100点じゃなかったからか。はたまた追試だしな、ってことに気づいたのかな。最近、余計な一言を発するとすぐにヘソを曲げるので、突っ込まなかった。

兎にも角にも、次に漢字テストがあるときは、テストの前に勉強してほしいもんだ。いやはや、お疲れさまでした。

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