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親子で歯医者

矯正のためのレントゲン撮影で、虫歯が2本もあることが判明した兄(乳歯で良かったよ)。治療の同行ついでに私もクリーニングを依頼し、2人同時に診てもらうことになった。ご夫婦で営まれている歯科医院なので、こういう予約の取り方ができるのは有難い。

兄はご主人、私は奥様に分かれ、診察に入る。しぶき防止のため、顔にすっぽりペーパーが被せられ、私の視界は塞がれた。暗くなるとウトウトしだすのは疲れた大人の常でしょう。久々のクリーニングも気持ち良くて、ときどき気が遠くなりながら身を委ねていると、隣から声が聞こえてきた。「痛かったら手を上げてね」。おっと、虫歯はそんなに悪いのか。

兄は以前、別の歯医者で「軽い虫歯」と言われ、一度だけ歯を削った経験がある。痛みを感じず、短時間の処置で、何のトラウマも残らず終了した。今日はドリルがかなりいい音を発していた。その大きな音の合間に、先生の声がちょいちょい聞こえてくる。「もっと開けないと危ないよ」「まだ痛くないか?我慢しなくていいよ」「痛かったら麻酔するからな」。まずい、結構削っているようだ。兄はきっと、麻酔の方が痛いと思っているに違いない。神経にあたるなら麻酔を選べと、事前に入れ知恵をしておくべきだった。キュイーン、ガガガガ、ズゴゴ。キュイキュイーン、ガガガガガ、ズゴズゴ。

まな板の上の鯉状態の兄。歯医者だから当たり前だが、大丈夫か。さっきまでセロトニンが出ていたであろう私の脳内が、次第に不安でパンパンになる。こっちの治療は痛くも痒くもないのに緊張しきりである。

「ここまできたら、麻酔なしで行くぞ。もうちょっとだから頑張れ」という先生の声に、終わりが見えてきたと安堵した。キュイーン、ガガガガ、ズゴゴ。キュイキュイーン、ガガガガガ、ズゴズゴ。その後、静寂が訪れた。詰め物を入れているのだろうか。そうこうしているうちに、顔面にかぶさっていたものが剥がされ、私の治療は終了した。

遅れること15分。治療後、EFラインという、兄が使用することになった矯正装置の調整を終えた兄と対面。お疲れの表情である。さぁ帰ろうと、背中に手を添えたら汗びっしょり。かなりの冷や汗ものだったようだ。そうだよね。よく頑張ったよ。

帰り道、次に今日と同程度の痛みを感じることがあれば、迷わず麻酔を選べと説いた。兄は麻酔とは、予防接種の注射を歯に刺すものだと思っていたらしい。そりゃ怖いわ。


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