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カマキリの捕獲と捕食シーンが教えてくれたこと

自宅の外壁に、大きなカマキリがくっついていた。黒色のレンガ壁についていたものだから、綺麗な黄緑色がよく目立つ。見るや否や、弟が「ほかくしたい!」と言い出した。仲良しの友だちが夏からカマキリを飼っており、飼育話を事あるごとに聞いて、興味を持っていたのである。

私は怯えて逃げるほど虫嫌いではないが、蝶以外、持つことはできない。弟も飼っているクワガタは持てるようになったが、カマキリは怖いという。それでもどうにかして捕獲したいというのだから、これは虫あみに頼るしかないだろう。私は虫あみを持ち、弟は虫カゴを持ち、捕獲を試みた。

カマキリは虫あみの中にはすんなり入る。が、壁にしがみついているので、これを剥がさないことには捕獲できない。少し虫あみを動かしたりしてみるものの、まったくダメだ。そのとき、ちょうど近隣に住む父が現れた。

「ちょっとカマキリ取ってくれない?」と声をかけると、手に持っていた園芸用の長いピンセットで(父はサボテンの栽培家なので、ピンセットを持ってうろついていても怪しい人ではない)カマキリを掴み上げてくれた。よし!と拳を握ったところで、なんと、ピンセットから見事に抜け落ちて地面に着地。カマキリやるな。一目散に逃げるのかと思いきや、ファイティングポーズでそこにいる。おい、強気だな。再度、虫あみで捕獲しようとしたところ、後ろに動いて逃げ出した。そこに待ち構えていたのが、虫カゴを持った弟だ。虫カゴにまんまと逃げ入ってしまったカマキリは、弟の手によって捕獲された。ドヤ顔の弟。リアル漁夫の利であった。

弟は虫の写生が好きだ。虫カゴに入れたカマキリを見ながら、どんどん輪郭を描いていく。あっという間に出来上がった。「バッタを食べようとしている」という設定にしていた。もしかして…。

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「えさをたべるところをみたい!」

先日、虫好きの女の子とそのママが、庭にカマキリがいたから、蝶を捕食させたという話を聞いたばかりなのである。すごい経験をさせているなぁと感心したのだが、自分にお鉢が回ってくるとは思わなんだ。今日に限って、秋晴れで、たくさんの虫たちが外でひなたぼっこ中である。これはタイミングが来たということだろう。虫好き男子の母として、自分に喝を入れる。やるなら今しかねぇ。

小さな蝶を捕まえ、虫カゴに入れた。弟とドキドキしながら眺めていると、瞬殺されてしまうかと思いきや、カマキリはカマ繕いして、獲物に見向きもしない。あれ、何でだろう。虫好きママから、蝶はあまりお好きではないとは聞いていたのだが、そんなに選り好みするのだっけ。何でも食べてしまうところが、君の凄さなのではなかったのかい。どうやら、獲物をしっかりと眼中に入れないと、ロックオンしてくれないようだ。虫カゴの向きを変えたり、逃げる蝶をカマキリに近づけようとしたり(ヒドイ)、試行錯誤を繰り返し、とうとうそのときが訪れた。

目を見開いて眺める弟。私も捕獲責任者として、恐る恐る蝶の最期を見守った。背筋がピンとしてしまうような、何とも言えない気持ちだ。皆、命をいただきながら生きている。それをまじまじと見せつけられた。弟は、初めての肉食生命体の捕食シーンに興奮していた。「おかあさん…できればもういっぴきたべさせたい。それでにがすから。ちょっととってくる」。えー!

それから暫くしてもなかなか帰ってこないので、外に様子を見に行くと、たくさんのトンボを目前に格闘している弟がいた。しょうがない。ヒョイっと1匹捕獲。これで本当に最後ね、と伝え、虫カゴに元気なトンボを投入した。

トンボはイキがよく、虫カゴ内をブンブン飛び回った。カマキリはすぐに存在に気づいたが、一向に動こうとしない。そのうちに習い事の時間になってしまった。「帰るまでに食べられてしまったらしょうがないね」と伝えると、待ちくたびれたのか、ごねることなく弟は納得した。その間のお目付役は兄に任せて、弟と私は家を出た。

習い事が終わると、急いで家に向かった。兄から着信がなかったので、まだ食べていないのではと踏んだからだ。家に着くと、トンボはまだ虫カゴの中を飛び回っていた。どちらかというと、カマキリの元気がない。「もう2匹とも逃してあげようよ」と提案すると、うなだれたカマキリの様子を見た弟も首を縦に振った。

外に出て、虫カゴのフタを開けると、トンボはすぐさま夕焼け空に消えていった。カマキリはというと、その場に立ちすくみ、我々に向かってファイティングポーズを取り続けていた。強気がすぎる…。そそくさと逃げない堂々とした態度に、崇高さを感じてしまった。カマキリってカッコイイね。

捕食シーンを喜んだ弟が少し心配になり、習い事の行き帰りに捕食する側、される側についての話をした。兄は、年長のときに私の祖母を一緒に見送ることになったので、死生観を自ずと身につけることができた。生き物が好きな弟は、こういう形で感じ取っていくのが良いかも知れない。

そのためには、親のフォローが不可欠だし、普段一緒にいるのは私だし、私は今より遥かに虫と懇意になることが求められるだろう。がんばれ自分。まさに、やるなら今しょ、だ。

興奮して、何カマキリだか調べ忘れていた。どうやらハラビロカマキリのようである。出会ったときにはお腹がパンパンに膨れていたので、卵がいるのだと思っていたが、実は、捕食してお腹が膨れているということだった。結論、お腹は減っていなかったのだ。小さい蝶は食べたが、トンボは食べなかったというのは、そういうことだったのか。こういうのを調べるにも少々冷や汗モンなのだが、何であれ新しい知識を習得するのは愉しいものである。

明日の朝、弟が起きたらすぐに教えてあげよう。

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