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体験と居心地の演出学び大豊作。星のや富士の「グランピング」

 ガールスカウトに入っていたころはテントを一から建てたりもしていたはずが、すっかり10年以上キャンプから遠のいています。最近は世間もアウトドアブームの兆し、数年前から流行り始めた「グランピング」に興味があったのもあり、久しぶりにキャンプ的なものに触れることになったお話です。純粋に楽しかったのと、いろんな演出がものすごーく学びになったので、自分メモとして長文・写真多めで残しておきたいと思います。

 「グラマラス」と「キャンプ」を混ぜた造語だという「グランピング」。キャンプに興味はあるけれどサバイバルする元気はないという大人や、自然やアウトドアの良いところだけ楽しみたいという人に向いているイメージです。私はキャンプも好きだけれど、距離を置きすぎてちょっと自信がないし、グランピングしてみたい!と思っていました。今回は、その代表格である星のや富士に行けることになりました。わーい。

▼およそキャンプらしくないコンクリートのお部屋(キャビン)ですが……。

 この旅は、予約する段階から、何をしようか会議で楽しめます。基本は、食事が付かない素泊まりのプラン(2泊以上から)を予約。食事は外に食べに行ってもいいし、中で食べてもOKです。普通のレストランのように食べられるダイニングもあるけれど、せっかくなので自分たちでピザ作りをする昼食とか、スパイスを加えて自分たちが好きな味を探すカレーの夕食とか、いろいろ体験できる食事プランを選ぶことにしました。

 ここで、一緒にアクティビティーの予約をすることもできます。山中湖周辺を乗馬で散策するコースとか、樹海ツアーとか登山とか釣り(「グラマラスフィッシング」というネーミング…!)、星のやの外で楽しむアクティビティーも選択肢にありましたが、初めてだし、中でもいろいろできそうな気配だったので、星のやを堪能すべく、外のアクティビティーは予約しないことにしました。

専用の移動手段で気持ちを強制切り替え

 さて、当日。東京でレンタカーを借りて、星のや富士に向かいます。順調にカーナビが示す到着地に近づきますが、住宅もちらほらあって、とてもグランピングができるような開けた土地があるようには思えません……。

 すると、見えたのはエントランスの小屋。ここで受付をして、荷物を受け取り、自分たちの車はここに置いて、グランピング本拠地には専用のジープで向かうのだそうです。これ、とてもテンション上がりました。ディズニーランドも、自家用車で行く場合以外は専用のバスやモノレールを使うことになると思いますが、専用の乗り物に乗り換えるのって世界が切り替わってすごくワクワクする演出だなあと思います。

▼かっこいい星のや富士ジープ。星のやのマークが入った車体もある。

▼エントランスの中で、好きなリュックを1つ選びます。

滞在を楽しむためのアイテム

 ちなみに、受付で受け取る荷物というのはこのグランピングを楽しく過ごすためのセット。中身のアイテムは同じですが、色やデザインが異なるリュックの中に詰まっていて、受付で1つ選べました。そんなに豊富な選択肢ではないけれど、自分で選ぶと愛着を感じます。アイテムは、滞在のしおり的なパンフレットや「星のやタンブラー」、ヘッドライト、クッションにもなるブランケット、おやつのビスコッティ、双眼鏡など。

 この「星のやタンブラー」は持ち帰ることができます。オリジナルグッズのお土産ってうれしい!パンフレットには、場内の地図やイベントの時間、参加できるアクティビティー、アイテムの使い方などがまとまっています。

▼リュックの中には、グランピングを楽しむためのグッズがたくさん。

 さて、ジープで運ばれた先にあるフロントでルームキーをもらい、部屋(キャビンと呼ぶ)に案内してもらいました。ちなみに、ルームキーについているのは、ひねって回すと金属がこすれて小鳥の鳴き声のような音が出るバードコールです。鳴らすと鳥が反応してくれるとか…(ただ、滞在中、何度かやってみたけど、いつも鳥がさえずっているのでよく分からなかった)。いちいちワクワクするアイテムたち。部屋の中はシンプルですが、天井から床までの大きな窓から、富士山がよく見えます。どのキャビンもこの向きなので、四季ごとに楽しめそう。。。

▼キャビン内に置いてある「すごしかた」もイラスト付きでかわいい。左がバードコール付きのルームキー。

▼キャビンからは、目の前に富士山が見えます。

 キャビンについているウッドデッキはほとんどソファで、座るとカウンター席のようになります。このコンクリートのカウンターの左端にはガスが通ったファイヤープレイスがついていて、夜は焚火のように火をみながら外で涼むことができます。ここですごく良かったのが、各キャビンに置いてあるポータブルのBluetoothスピーカー。自分のスマートフォンとつないで、キャビン内外で好きな音楽をかけられるので、すごく雰囲気が良かった!

▼キャビンについているウッドデッキソファ。うとうとできる広さ。

▼夜はこうなる。

ちょっとしたアイテムにコンセプトを感じる

 キャビンはアウトドア感がゼロに近いですが、ここのコンセプトはあくまでグランピング。置いてあるマグカップはステンレス製のキャンプ用品だし、コーヒー豆を挽くミルやコーヒードリッパーもキャンプ用品。ちょっとだけキャンプ感を得られます。豆を挽いてコーヒーを淹れ、景色を見ながら飲むだけでも即席で贅沢な気持ちになれました。

▼キャンプを意識したコーヒーアイテム。

 ちなみに、ここまでに出てきたアイテムやコーヒー豆、お風呂においてあるハーブ石鹸、入浴剤などは、フロント横でだいたい売っています(あの鍵についている鳥笛も!)。全て自分が使ってみたものをお土産に買って帰れるのはいいなあと思いました。

 星のや富士に滞在する間、拠点となるのはクラウドテラスです。ここは、自由にドリンクを飲んだり本を読めるライブラリーカフェを中心とするウッドデッキ。タープを張ったソファゾーンがあったり、ハンモックや様々な椅子が置いてあったりして、各々自由な場所で時間を過ごせます。中心にある大きなファイヤープレイスは、薪をくべるタイプの本格的な焚火が。周りにいるだけですごく暖かいです(子ども用アクティビティーで、薪き割りもありました)。

▼滞在者の拠点となるクラウドテラス。手前にはファイヤープレイスが。

自由に楽しめるイベントと「体験」の設計

 このウッドデッキでは、夜は毎日、「森の演奏会」がありました。そのうち1日はオカリナ奏者さんが登場。オカリナ、ちゃんと聞いたのは初めてでした。この夜の演奏のように、このあたりにいると時間限定のイベントがときどき開催されます。

▼絵本の時間もあるよ。

 例えば、お昼は季節ごとに変わるおやつが提供される「森のひととき」。チョコレートやビスケット、ドライフルーツ、マシュマロなどを、いつでも自由につまめます。これはそのまま食べてもいいけれど、長い竹串にマシュマロを刺して焚火であぶり、ビスケットに挟むスモアも作れるようになっています。ここにチョコレートを入れてみたり、自分でコーヒーを淹れたり、紅茶にアニスやシナモンなどのスパイスをお好みで入れられるようになっていたりと、ドリンクも簡単な体験の演出があります。

▼おやつの時間、「森のひととき」

 夕食前のアペリティフタイムではナッツや食前酒がふるまわれ、夕食後は焚き火Barが開きます。テーブルコーディネートもさることながら、どの時間もふらっと立ち寄った宿泊者が「体験」できる設計になっているのが素敵でした。

▼夕食前のアペリティフの時間に提供されるナッツや食前酒。くるみを自分で割ったり、味付けのアレンジをしたりすることで、愛着が増してより楽しくなる「体験」の作り方がうまいなぁと思いました。

雨の日は雨を楽しむ特別な演出

 それから、私たちが到着した日は、午後から少し雨が降りました。そこで感動したのが、雨の日にしかできない「宝探し」。かわいい!キャンプツアーの設計をやっていた学生の頃、キャンプで雨が降った時のためのプログラム(通称:雨プロ)を一生懸命考えたなあ、と思い出しました。宝探しは、暗号文のような文字列からキーとなるものを探しに行き、最終的に全てが分かるとカフェ内に設置された宝箱を開けられる……というもの。これが、雨ならではの仕掛けになっていていいアイデアだなと思いました。到着したばかりの私たちは、ちょっとおやつを食べてから、場内の散策もかねて宝探しに取り組みました。

▼雨の日限定「宝探し」。

 ただ、宝探しは無事に楽しく終えられたのですが、宝箱を開ける前に雨が止んでしまい、開けられずに終わりました。またいつか行きたいけど、雨が降らないかもしれないし、気になるから中身知っている方がいたらこっそり教えてください(笑)

▼宝箱の中身は謎のまま……。

 今回の滞在1度目の食事(ここにたどり着くまでに書きすぎ)になる1日目の夕食は、キャビンで、カレーを食べます。6種類のスパイスを1つずつ味見して、少しずつ混ぜて、正解なのかよく分からないけれど楽しい調合をしていきます。スパイスをゴリゴリすりつぶす調理器具、初体験。お肉は陶板焼きしながら食べられます。スプーンやフォークはキャンプ仕様で、コンセプトに沿うのは忘れていません。楽しかったので、家にもこのスパイスセットを導入しました。

▼スパイスを、味見しながらちょっとずつ足していきます。

 2日目は、モーニングBOXを持ってきてもらい、キャビンのウッドデッキソファで食べるプランにしました。今日は晴れている!そしてこのおかもちみたいな入れ物、各容器、メニュー表、全部素敵。小さいジャムがたくさんついていてかわいい……。メニュー表に書かれた「ダッチオーブンブレッド」「スキレットで焼き上げたオムレツ」にキャンプっぽさが込められていて、スープジャグがアウトドア仕様になっています。

▼おかもち風の入れ物がかわいいモーニングBOX。星のやマーク付き。紙皿や紙コップに見えるけれど陶器製。。。

 この日は、一日中クラウドテラスで考え事をしたり、いっぱい話したり、ウトウトしたり、絵しりとりをしたり、オリジナル間違い探しを作ったりして過ごしました(超平和)。定期的にあるコーヒータイムやおやつの時間に参加したりしながら、ハンモックにいったりファイヤープレイスにいったりして過ごしました。森の中で思う存分ゆっくりする時間、全然飽きない……。

食事は最高のアクティビティー

 お昼はピザを焼きました。まずはピザ生地を手で伸ばして、その上に数種類のソース、具材、チーズから選んたトッピングを乗せていきます。変わった具材もあり、超お膳立てされたピザ作り、楽しい!

▼生地はよく伸ばした方がおいしかった。変わったキノコや栗など、季節の具材がたくさんあって迷う。

 夜はちょっと良いディナーで、「狩猟肉ディナー」。「鹿の胃袋のトリッパ」やイノシシの骨から出汁をとった「イノシシときのこのリゾット」、「イノシシときのこのすき焼き」などが食べられるジビエのコースをお願いしました。外の専用テントで、1グループずつテーブルにつきます。このテーブル、こたつになっているので肌寒い季節でも大丈夫。キャンプ用品のコンロが設置されていて、ここで最後だけ自分で炒めたり、お鍋に「つみれ」を投入したりして、調理の仕上げに参加できます。スキレットやダッチオーブンも使うので、ちょっとキャンプご飯を作ったような気持ちにもなります。

▼ドリンクは食事に合わせてセットで出てくる。私はノンアルコールのセット。メニュー名がシンプル。

 そのあとは少しバータイムに行ってみて、楽器を聞いたり、焚火でぼーっとしたりしてから睡眠しました(食べるかぼーっとするかの旅)。

▼焚き火Barの時間。

 翌朝は、外のテントでプレスサンド作り。またまた数種類のソースや具から、パンに何を挟むか決めて、鉄のグリルパンで焼いていきます。パンに焼目をつけるため、上から押すグッズも!このアウトドアコンロほしい。私はベーコンときのこを塩コショウで炒めて、ホースラディッシュを塗ったパンに挟んでグリルしました。

▼ブルーベリージャムも意外と食事と合うといわれて、試してみる。

 この作り立てのプレスサンドは、いったん包んでもらい、コーヒーやスープが入ったバスケットに入れて渡されます。そして、ウッドデッキの好きなところにこのバスケットを持って行って、ピクニックのように食べる……。そのままテントで食べるのかと思っていたので、最後にまたウッドデッキでゆっくりできることになり、うれしかったです。本来、早起きは苦手だけど、この日は良く晴れて木漏れ日が気持ちのいい朝を堪能し、美味しくいただきました。

 食事についてやけに詳細に書いてしまったけれど、滞在中にものすごくリラックスして過ごしたり、たっぷり話したりした時間そのものがすごく豊かで、ときどきある演出で気分も高まり、ずっと幸せな気持ちで過ごすことができました。これまでも、飲み物や軽食が用意してある宿泊者専用ラウンジのあるホテルでゆっくり過ごしてみたりしたことはあるけれど、この豊かな宿泊体験は過去最高だと思いました。

 特に強く感じたのが、体験の演出の素晴らしさ、居心地の良さでした。部屋にもベッド以外でゴロゴロできる場所(テラスのソファー)があり、共有スペースにも、何もしなくてもいられるスペースがありました。カフェ風ラウンジは、飲食しないと所在ない気持ちになるんですよね。ソファーや椅子、ベンチ、ファイヤープレイスなど、場所が分散しているから他人の目もあまり気にならないし、それぞれが好きにダラダラできる。芝生だけの広場では難しくて、ちゃんとソファーや屋根を用意しておかないと人がゴロゴロする場所にはなりにくい。そういう居心地よさの作り方って意外とあまり経験したことがなかったな、と思いました。

▼場所が分散されていて、いろんなタイプの椅子やソファーがあるから、それぞれが好きな場所を選んでゴロゴロできる。

 そもそもグランピングという分かりやすいコンセプトがあるから、星のや富士が体験の価値を特別に感じやすいだけなのかもしれないな……と思っていたんですが、軽井沢の星のやのすぐ近くに、若者向けの新形態ホテル「BEB5 軽井沢」がオープンする(その後、2019年2月5日に開業)との話を聞いてすごく興味を持ちました。

 ここもコンセプトが強めで、利用者全員が35歳以下であれば1泊1室、1万6000円。テーマは「(若者が)時間を気にせず仲間とルーズに過ごすホテル」とのこと。広いウッドデッキをラウンジが取り囲み、飲食したりゴロゴロしたり焚き火を囲んだりできるとのこと。演出しやすいコンセプトがなくても最高の宿泊体験ができるのか、すごく気になる!体験演出のインプットをもっとしたい!!と気持ちがさらに盛り上がりました。

▼BEB5の日経トレンディネット記事
星野佳路代表は、欧米のソーシャルホテルとは似て非なるものだと話す。「諸外国のミレニアル世代は、好調な経済を背景に消費が活発で、人々との交流にアグレッシブ。しかし我々が日本の若者へのグループインタビューを重ねた結果、導き出されたメンタリティーは180度違っていた。将来への不安感があるためか、消費には積極的でなく、旅行にもあまり出かけない。見知らぬ人と交流したいという希望は少なく、むしろ気の合った友人と過ごしたいという意識だった」(星野氏)。そこで、あくまでも仲間とワイワイ楽しめる場所として、TAMARIBAを作ったのだという。

ちなみに、上の記事3ページ目にある框(かまち)は星のや富士にもあって、とても便利だったので自宅に導入したいと私も思いました。。。

ひとまずは、今回のグランピングで得た学びを今後のイベントなどに生かしていこうと思った次第です。


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