創作小説「静かな非日常がやってきた ペンギン」
おれの水槽の前で、人間達は楽しそうに何かを話している。
今日も楽しそうで何よりだ。
なんてったって、おれはこの水族館の人気ペンギンだからな!
そんな人気ペンギンのおれを戸惑わせる事件が起きるとは、このとき夢にも思っていなかった。
× × ×
ある日のこと、たくさん来ていた人間がぴたりと来なくなった。
なんだ、なんだ?!
人間達に何が起こったんだ?
突然の出来事にびっくりした。
だが、おれの面倒を見てくれる人間はいるので少し安心する。
そんな静かな時間がしばらく続いたので、おれは悟った。
人間達に何かトラブルが起きたらしい。
どうやらそのトラブルはなかなか解決しなくて、大変困っているそうだ。
少し静かな時間に戸惑ったが、こういう時間を楽しむのもいいことだ。
水族館生まれ、水族館育ちの俺にはなかなか静かな日常は体験できない。
よし、このバカンスを楽しもうじゃないか!!
× × ×
数日後
大勢の人間が来ない生活が続き、おれは飽きてしまった。
なんたってペンギンゾーンはおれの庭だ、知り尽くしている。
この退屈を紛らわすエキサイティングなことがないだろうか…。
そんなとき、おれの世話をしてくれる人間が心配そうに見ていることに気づいた。
人間は少し考え込むと、何かを閃いたのだろう。ペンギンゾーンに入ってきた。
「なあ、少し散歩をしてみないかい?」
散歩ってどこにだ?
ペンギンゾーンはおれの庭。知らないところなんてないから、全く心が惹かれない。
まあついて行ってみよう、何かあるかもしれないし。
× × ×
おれは初めてペンギンゾーンの外をでた。
なんだ?!!
こんな魚がいるのか、あっ、この植物見たことないぞ!
おれはキョロキョロと周囲を見渡した。
興奮した様子に気づいたんだろう。おれの面倒を見てくれる人間がこう言った。
「なんだか楽しそうだね。そうだよ、ここはアマゾンエリアなんだ。」
“アマゾンエリア”
はじめて聞く言葉だ。
はじめて聞く言葉や見る景色は、おれをわくわくさせる。すると人間が
「よかった。なんだかつまらなそうにしていたから、心配していたのよ」
人間は心底ほっとした雰囲気でそう言った。そして人間はおれにこう尋ねた。
「今日は楽しい?」
おれは人間達と会話ができないが、なんとか思いを伝えようと首を縦に振る。
【こんなエキサイティングな1日ははじめてだ!!】
すると人間はおれの様子を見て嬉しそうに笑ってこう言った。
「エキサイティングな一日だったのね、楽しそうで何よりだわ」
お互い言葉は通じないのに、不思議と心が通じたようだった。
× × ×
最近、人間達が新しい場所に連れていくようになった。
見たことない色をした場所、見たことがない魚や生き物たち。
おっ、このつるつるした地面歩くの楽しいなあ。
ゴツゴツした岩場を歩くのも楽しいが、いつもと違う地面を歩くのもなかなか乙なものさ。
でもただ歩くのだけも飽きてきたから、その場で跳んでみる。
跳んでみるといつもと違う刺激が足に感じた。
とっても楽しかったが、少し寂しさも感じる。
今まで人間が歩いていただろう道に、人間がいない。
昔、多くの人間が来てくれた時のことを思い出す。
あの騒がしさが少し懐かしい。
待て待て、こんな落ち込んだ考えはおれらしくもない!!
まあ、待っていれば人間はまたやってくるだろう。
気長におれは待っているさ!待ってるぜ!
(ショートショート執筆) ますあか
× × ×
・後書き
先日、日本で2回目の緊急事態宣言が発令されましたね。
水族館や動物園は入場料収入が一番大きく、深刻なダメージを受けているそうです。
また海外では閉館になってしまった水族館もあるとのこと。
今回なにか私にもできないかなと思って、気づいたらこのショートショートを執筆していました。
水族館や動物園のクラウドファンディングもあるそうなので、このショートショートを読んだきっかけによかったら覗いてみてください。
今回おはなしにしたのは、日本ではなくアメリカの水族館のペンギンです。
Twitterも拝見したのですが、動物たちをいかにアクティブに充実した日々をさせるか考えているようです。
私もツイートで癒やされました、ありがとう。
世界中の水族館/動物園も大変な時期です。コロナが落ち着いたら、みんな安心して遊びに行けることを願っています。
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