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「時間」と「消費」を考える①

先日、社会学者である鈴木謙介の『誰もが時間を買っている』という本を購入した。

以前、大型書店であるジュンク堂で探したが、見つからず諦めていたものだ。(書籍は極力ネットではなく書店で購入したい)

2019年の書籍であるが、去年末くらいにどこかの雑誌に出てきたので知った。今回たまたまフリマアプリで出品されていたので即買いした。


ちなみに、鈴木謙介先生は私の母校の先生である。学生は「スズケン」と読んでいた。社会学部の中でも知名度の高い先生だった。

実際に鈴木先生の授業を受講したこともある。確か「グローバリゼーション論」という名前だったと思う。テストが論述だったのは覚えている。

その講義の中で「俺が論述で文章を書かすのは、社会に出てからのための訓練という意味合いもあります。なので、読みやすい字を書くということは相手に対する最低限の礼儀です。」的なことを言っていたのはひどく感心した。簡単なる注意に終わらず、社会に出てからのことにも目を向けられているあたりがうまい。


そして、鈴木先生の講義は非常に聞き取りやすい。話の区切りが短いのでツラツラと話すことはない。長いコード付きの有線マイクでラッパーのように動き回りながら講義をすすめる。講義をすすめるテンポがよく、社会学部の中でもダントツで講義がうまい先生だと思う。

また、講義中の教室の秩序維持に厳しいことでも有名だ。特に私語をしていると、その瞬間教室からつまみ出される。実際に私の目の前でも女子学生2人が退場させられていた。普通に授業をしていると思ったら、「世の中にはうるさい人もいるんだよね〜」的なことを言った。そして、クルッと振り返って「お前らのことだよぉ!!!!!」と教室の左方上段の方を見て叫んだ。教室の空気は凍りついていた。「早く出て行けよぉ!!!!」的なことを叫んだ。私語をしていた女子学生2人はバツが悪そうにササッと教室から消えていった。やり方はすごいが、やはり私語は迷惑に違いない。


話は戻るが、『誰もが時間を買っている』はそんな鈴木先生が「時間と消費について考えて本だ。我々にとって、サービスを提供する側にとっても、時間というものは重要だ。この内容をいくつかの抜き書きなどから考えたい。


まず近年の消費では「時間価値」というものが重要視されている。いかに時間価値を高めるかといいうことに企業や売り手は力を注いでいる。その時間価値を高める方法は二つある。

加算時間価値→価値のある時間をできる限り加算する

減算時間価値→消費者にとって無価値な時間をできる限り減算する


例えば、USJとディズニーランドはそれぞれの方法で時間価値を高める。USJはハリポッターの行列の途中でホグワーツ魔法学校に関する案内を楽しめるようになっており、行列もアトラクションの一部と考え、加算時間価値を高めている。一方、東京ディズニーリゾートは、乗り物に早く乗れるファストパスをアプリから取得できるようにするなど、減算加算価値を高めている。

また、電車移動などにもその例はみられる。新幹線は、鈍行や夜行バスに比べ、移動時間を明らかに短縮する減算時間価値の提供である。一方、特急電車などでの追加料金を払う有料シートが用意されている電車は移動時間の短縮にはならない。価値を高めるのは確実に座れる指定席やWi-Fi、コンセントといった車内環境だ。移動時間の短縮ではなく、同じ移動時間をより快適に過ごすという加算時間価値を高めている。


消費は飽和と差別化のサイクルを繰り返しながら成り立っている。これまでは商品価値の時代(商品化されていることの価値)→情報価値の時代(ブランド化されていることの価値)→体験価値の時代(サービス化されていることの価値)と変遷してきた。

そして、今、これらの価値が飽和した中で求められるのが「時間価値」なのである。その理由は人間の時間は有限であり、あることに時間を使うとその時間はほかのことに時間が使えないからだ。

本著の中で引用されている、コンサルタントの松岡真宏の『時間資本主義の到来』(草思社)では、「人類に最後に残された限界こそが「時間」である」と述べられている。

様々な情報やブランド、付加価値、技術によって人類は多くの限界を克服してきた。そういった商品やサービスが増える一方、我々の時間は一定であり、増やすことはできないのだ。例えば、音楽ストリーミングサービスの「スポティファイ」には全部で4000万曲以上の音楽が提供されているが、我々は人生のすべての時間をスポティファイにあてても、全曲を聴くことはできない。

つまり、今の消費にはお金だけでなく、忙しい中、数ある選択肢の中から時間を払ってもらえるだけの価値を示さねばならないのだ。


後編は次の記事で。


【参考】

鈴木謙介『誰もが時間を買っている 「お金」と「価値」と「満足」の社会経済学』2019 セブン&アイ出版

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