【現代日本の梅毒について】
自分の専門関連の覚書です。
最近、若年者で、Argyll Robertson's pupil陽性+深部覚障害の患者さんを診させて頂く機会がありました。
数年前から、梅毒が流行しているとは聞いており、いつの日か、若年者の深部覚障害で梅毒が鑑別に上がる時代が再来するのではと思っておりましたが、とうとうそう言う時代が来たのかもしれません。
ちなみに、単純に言い切ることはできないものの
梅毒患者で、深部覚障害+Argyll Robertson's pupilがあれば、脊髄癆+脳梅毒が、示唆され、これは、晩期顕症梅毒を考慮する所見です。ですので、直近の性交歴だけで除外できません。報告では、初発梅毒が無治療で経過していた場合、平均20年、最短で3年の経過で脊髄癆が発症することがあるようです。
梅毒は、発症時に必ずしも患者が通院を希望するほどの症状が出ない場合もあり、晩期顕症梅毒に発展する可能性は、低くありません。
実は、日本では梅毒は2010年から患者に報告数が増えており、現在は、梅毒が、増え始めた時期から約10年程度経過しております。
つまり、概ね後10年以内にこれまで診断歴のない若年の、無治療の梅毒は患者が、今後、目に見える形で顕在化する可能性があります。
晩期顕症梅毒の症状は、基本的に治癒することは無いですし、無症候に見えて、目梅毒、耳梅毒、脳梅毒、梅毒性動脈瘤などの広がりがある可能性があります。
そして、それだけでなく、3-20年程度(平均20年程度、一部報告で3年程度)の潜伏期間ということは、梅毒の再流行開始後に不顕性に感染し、家族をもった後に晩期顕症梅毒を発症時するというケースが増えてくる可能性があり、家族生活がひと段落つこうとしているときに家族単位での感染が判明する恐れもあります。
実際に、梅毒を疑っても、その診断で失うものが多ければ10-20年前、場合によっては数年前の性交歴を問診で答えにくい場合も多く、一回の診察で拾うためには、梅毒の疫学を事前に考慮しておく必要があるかと思います。
なかなか、鮮烈な経験だったので、僕は、一例でいろいろと書いてしまいましたが、現代の梅毒の拡散状況から考えると、今後、類似ケースを経験する可能性はそれなりにある気がしたので、書き留めておくことにしました。
尚、今回のケースは、髄液や画像検査、ほかの診察所見からも、晩期顕症梅毒による脊髄癆で矛盾しておらず、頭部画像から一部、脳梅毒を疑うマイナーな変化があるほか、Argyll Robertson's pupilが陽性の眼では、視神経萎縮があり、眼梅毒、ないしは脳梅毒の影響が示唆されたのですが、脊髄癆で想定される 体の痛み や、進行性の認識症はありませんでした。
以上から、診察上、重症感が無くても後期梅毒である可能性がある一例と考えられます。
本症例で今後の診療で注意したいと思ったポイントとしては、上記以外の所見もまとめると
疼痛や、認知症、全身の進行性麻痺がなくても、
深部覚障害、深部腱反射 減弱〜消失、感覚鈍麻
などを認めたら、若年であっても3年以上の経過の晩期顕症梅毒を鑑別にあげても良い可能性が考えられました。
梅毒は、2020年以後でさらに加速度的に報告数が増えています。
潜在的な梅毒も含めれば相当数いる可能性があり、ちょうど、2013年から報告数が増えていることを考慮すると、今後10年程度は、晩期顕症梅毒も相当数見つかるのではないかと思います。
なので、繰り返しますが、
若年で、疼痛や、認知症、全身の進行性麻痺がなくても、
深部覚障害、深部腱反射 減弱〜消失、感覚鈍麻
などを認めたら、若年であっても3年以上の経過の晩期顕症梅毒は考慮して良いと思います。
梅毒は、ペニシリンで治ると言えど、1-2年のフォローアップが必要で、神経以外も、動脈瘤などで全身性に症状をきたしうる疾患で、後期梅毒に至ると進行は抑えられる可能性があれど、既にある症状はなかなか治らないようです。
患者さん自身の受け入れが難しそうであっても、無視できない疾患だと思います。
そして、梅毒の蔓延は、患者さんのADLだけで無く、
国レベルで影響をきたす可能性があるのではないかとと思います。
ただでさえ、少子化が激しいのに、コロナ感染後の影響で、将来的なアルツハイマーやパーキンソン病関連の疾患が増加し得るというこの時代に、若年者も含めた脳梅毒が広がってしまったら、現在想定されている以上に日本の国力は大きく損なわれる気もします。
すみません。個人的に、なかなか貴重な症例を経験したので、妄想熱が強くなってしまいました。
わかりきった話で、釈迦に説法と思われる方とも多いかと思いますが、今後の診療で梅毒感染の鑑別は非常に大切だと思い、書き残してみました。
燃え上がった感情に任せて記事を書いたので、不適切な内容が有れば随時修正します。もし、気になる点が有ればご指摘いただければ幸いです。
長々と申し訳ございません。以上です。