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妖怪コハクとAIマキナ Call Sign【連載1話】小説

あらすじ 
妖怪とAI搭載アンドロイドとの出会い、正反対の二人が最強の相棒となり悪を倒す旅が始まる。

ジャンル
SFバトルファンタジー旅、妖怪×AIアンドロイド


【第1話】

 『似て非なる僕らはついに孤独を手放した────いつか、君に名前を呼ばれたい』

 今思えば、君との出会いは衝撃的だった。

 妖怪の僕が住む場所は田舎町の山で、妖怪も人間も古き良き生活をしていた。あの日は、夏の終わりで汗ばむ暑い季節だった────



「は、話を聞いてくださいっ」
「悪鬼め、人々の幸せを壊す者は許さない」
「妖怪を消す仕事が退治屋だ」

 二人の妖怪退治屋は最初から聞く気が無いようで、すぐ妖怪祓い用のお札と杖を取り出した。

「僕は梅ばあの落とし物を探しに来ただけで、何も悪いことしてませんっ」
「問答無用!」

 琥珀は小さい子供の姿で、身振り手振りで説明するも虚しく、腕をつかまれる。

「わ、やめろ! 誰か助けて」

 もう一人の男は琥珀の額に札を貼り、白いTシャツの男は琥珀の背後から腕を強く掴んで離さない。

 少し前に攻撃された頬のかすり傷は血が滲みだす。

「痛っ……」

 恐怖心から──実際より体感時間がゆっくりと流れ始めた。

 視界の端に、朝焼けを背に坂道を上がってくる人間を見つけて、僕の運命は変わった。

 黒髪に赤い腰エプロンの女性に向け助けを叫ぶも、無表情に歩く姿を見て一筋の希望は消えた。

「残念だったな、普通の人間は妖怪は見えないんだぜ。〜〜呪文〜〜」

 強い光が札から漏れ出し視界を覆い始める。消される────そう思った瞬間。

 バキッ ズサササーーーーと、鈍く何かが吹っ飛んだ音が響いた。





「挨拶もなく失礼、愚か者には鉄槌主義でして」

 色とりどりの花弁が舞う中、声と共に現れたのは黒髪がなびくポニーテールのさっきの女性だった。

 退治屋の肩を掴んでいた人間は、鈍い衝撃により木々の中へ吹っ飛ばされ倒れている。

「子供に手をあげるとは何事ですか。それに霊園付近ではお静かに」

 続けて彼女は突き出していた拳を開いて、軽く汚れを落とすかのように振り下ろした。

 呆然と見ていた僕に、サッとハンカチを差し出す彼女。礼を言って頬の傷を押さえる。

「おいっ大丈夫か!」

 残された退治屋は草木に埋もれた仲間に声をかけた。

「その人間は、気絶しているだけで無事です。2時間ほどで目覚めるでしょう」

 返事は倒れた人物の代わりに彼女が冷静に返し、札を持った退治屋は琥珀から離れて女性を警戒する。

「な、何だお前。人間なのか?」
「いえ、人間ではなく。私は生活用アンドロ──」
「やはりこの力は妖怪か。なら~~呪文~~」
「妖怪ではありません。人の話を聞かないタイプなのですか」

 そう言って始まった戦いに僕は混乱していた。

 目の前で繰り広げられる光景は見たことがないものだった。

 退治屋はお札や火の能力で攻撃するも、彼女は華麗に避けてみせる。木を利用して人間には出来ない動き、空中で回転もする。

「──5.0、75%、右」

 戦いと言っても、彼女は相手を分析しているのか攻撃を予測し、避けるだけで相手に攻撃をしていない。

「くそっ、当たらない」
「──貴方を危険と判断しました。先程と同じく、愚か者には鉄槌を」

 そう言って彼女は拳を構えて走り出す。

「──っこの札ならどうだ!」

 大量の札が彼女を襲うも光りを放たず、ただの紙のように落ちる。火の玉は見事に避けられて退治屋の前には拳が迫っていた。

「札が、なんで……ぐふぉっ」

 退治屋の言葉はこれが最後だった。殴られ後ろへ吹っ飛ばされた後は、気絶していたからだ。

「だから妖怪ではありません。それ、妖怪用の札では? 人の話を聞かないからこうなるのですよ、まったく」

 先程と同じくゴミを払うかのように、手を下へ振る彼女。

「……あ、助けてくれてありがとうございました。その人達は大丈夫ですか?」

 改めてお礼を言って、ちょっと心配だから人間のことを聞いた。

「…………」
「あの?」
「何でもありません。彼らは軽い打撲です、あとで町まで運びます」
「は、はあ。それなら良いです」

 止まった彼女に驚きつつ、淡々とした答えは無表情も相まって少し怖い。

 そんなことを考えていたら、すぐ歩き出したので慌てて追いかける。

「あ、真似しないでくださいね。命の危険以外は暴力はいけません…………が、妖怪は命の危険があった……ふむ」

 彼女は思い出したかのように振り返り注意するも、言葉が徐々に尻すぼみになり考えながら歩き続ける。

 琥珀も後を追いかけ木々の間を縫って、再び人間の作ったアスファルトの道まで辿り着いた。

「あの、名前を教えてください! このハンカチのお礼もしたいし……必ず洗って返します」

 名前を聞いた僕はこの時、お礼もそうだけど彼女のことを知りたいと、好奇心があったのは間違いない。

「礼など不要、名乗るほどの者じゃありません」
「かっこいい────けどダメです!」
「え……」

 立ち止まった彼女は僕を見下ろして目を丸くしていた。

「妖怪は恩返しと約束を守る生き物。僕は琥珀といいます。さっ、名前を教えてください!」
「えぇ……意外に強引。…………私の名前はマキナです」
「ちゃんとお礼しますね! マキナさん」

 勢いで聞き出して驚かせたけど、名前が分からないと探せないから聞けてホッとした。

「アンドロイドって初めて見ました。都会にはいるって聞いてたけど……何か用事でここに?」

 屈んでアスファルトの上に落ちた、散っていない花を拾うマキナさんに並んで話続ける。

「お墓参りです」
「え、もしかしてこの花……ごめんなさい! 僕のせいで」

 そういえば花束持って坂道登ってたと今更ながら気づく。僕を助けるためにだいぶ散ってしまった。

「君のせいじゃない、墓の主もきっと同じことをするはずです」

 散っていない花を二つ拾って立ち上がる彼女は、花を見つめて呟いた。

「良い人……だったんですね」
「はい」
「あ、マキナさんの家はどこですか? 花束もこのハンカチも返しに行きます」

 琥珀はハンカチを握りしめながら、マキナへ笑顔を向け言った。

「帰る家が分かりません、無いかも」
「ええ!?」

 この発言は衝撃だった。

「なので何処でも大丈夫です──」

 それは、少し寂しいように聞こえた。マキナさんが何処か遠くを見て呟いたから余計そう思った。

 だから思わず僕は言ってしまった。

「じゃあ、一緒に旅しませんか? 家が見つかるかも」

 言葉と共に一緒に手を差し伸べたけど、この時ちょっと照れ臭い気持ちになったのはマキナさんには内緒だ。

「旅?」
「はい。実は僕、自分探しの旅に出たいと思っていたんです! 人間のこともよく知らないし」
「じゃあ……よろしくお願いします」

 握手を握り返された手は、ほのかに温かい気がした。

 これが後の──最強の二人の出会いだった。




つづく。



あとがき
旅は前途多難【2話】もお楽しみに!

表紙は手作りです。
何とか雰囲気が伝われば良いなと思います。

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