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『流浪の月』(小説と映画)

圧倒的に面白かった。


『流浪の月』 凪良ゆう


あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい――。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人を巻き込みながら疾走を始める。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。(版元.comより)



初めて読む作家さんだけど、公開された映画の期待値が高まっていて、グッと迫ってくるあらすじだったので、原作予習しておこうと思い。

最初から最後まで見事だった。静かな筆致だけれども、ダレるところや息抜きする間もなく、常に何かを提示してくるような読み応えが続いていた。

また、読む側が多様な価値観や不要な固定観念に一定の理解や疑問を抱え始めたところで、更に新たな展開が待っており、それこそ主題のひとつでもあるような真実と事実の乖離と齟齬を投げかけてくるようであった。そしてその真実は決してひとつの言葉や考え方でカテゴライズできるものではなかった。


”わたしたちは親子ではなく、夫婦でもなく、恋人でもなく、友達というのもなんとなくちがう。わたしたちの間には、言葉にできるようなわかりやすいつながりはなく、なににも守られておらず、それぞれひとりで、けれどそれが互いをとても近く感じさせている。わたしは、これを、なんと呼べばいいのかわからない。”

”わたしはなにも答えられない。真実と事実の間には、月と地球ほどの隔たりがある。その距離を言葉で埋められる気がしない。黙って頭を下げているしかできなかった。”


ドラマ版しか見ていないけど『ミステリという勿れ』の「真実は人の数だけあるんですよ でも事実は一つです」的な台詞が頭にずっと残っていたけど、今作を読んである種その言葉の残酷さというか、反対側からの想いを考えてしまった。

また以前も書いたけど、俺の読書体験というか考え方は、朝井リョウの『正欲』以前以後で変わってしまっていて、時系列は逆だけど今回も自身の多様性の捉え方の矮小さみたいなものを感じてしまった。


テーマやメッセージだけではなく、作品としての流れも見事で、予想もしていなかった伏線の回収や最初と最後のつながりなど、終始没入させてくれた。

そして、のめり込めばのめり込むど、この二人の行き着く先には果たして幸福があるのか、と気を揉まずにはいられなかった。結果的に、客観的には完全にはスッキリしない着地なんだけど、そこへの想いなんてものは決して他人が想像しきれるものではなく、当事者にしかわからず、当人たちにもわかりきっているものではないかも知れず、むしろそんな判断を下すこと自体が傲慢なのかもしrない。


”わたしたちはおかしいのだろうか。その判定は、どうか、わたしたち以外の人がしてほしい。わたしたちは、もうそこにはいないので。”


大満足だったし、主人公ふたりの配役もピッタリなように感じるので、映画も楽しみ。





てことで映画も観てきました。


当たり前だけど、小説とはまた違った良さがあって好きだった。映画オリジナルのシーンもたくさんあるけど、二人の初めての出会いと、大人になってから傷ついた更紗が店の前で文に見つかるシーンの対比なんてすごく良かったし、映像ならではの訴えかけ方だった。

配役も良かったし、意外にも横浜流星の古い考え方の実は弱いDV男役が合っていた。あとこれも映像ならではだけど、更紗役の広瀬すずがビジュアルや薄幸な雰囲気とかよりも、殴られて血だらけになって泣きながら訴えるシーンがめちゃくちゃハマっていて迫ってくるものがあった。そしてなんといっても文役の松坂桃李。時折見せる目玉取り替えたんじゃないかと思うほどのがらんどうな眼差し、最高だった。

個人的に映画は、二人の受け入れられなさ、理解されなさにより焦点を絞っている感じがして、よりやり切れなさや悲しさが観終わった後に残る。その切り取り方も作品として良かったけど、でも二人にはそれだけじゃないし、ちゃんと文の真実も観た人に理解してほしいというよくわからない親心みたいなものが芽生えて、原作を読むことも強くオススメしたい。

最後に、文の自分の体についての告白のシーンは圧巻だった。あそこだけでも観た価値がある。



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