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次世代SNS「Clubhouse」: ながら聴きされる音声メディア、Podcast と未来

COVID-19禍での音声メディア

去年、よりよい未来社会のあり方を科学者と市民がともに考える国内最大級の科学イベント「サイエンスアゴラ2020」が11月の13日から10日間にわたり初のオンライン形式で開催されました。駒井章治先生のファシリテートで、美学・現代アートの東工大 伊藤亜紗先生、ゲノム人類学の東大 太田博樹先生と、「テクノロジー」をキーワードに「ポストコロナ社会」の人間らしい生き方を探る、熱い議論を交わしました。そこで、COVID-19 禍で音声メディアが再度注目されていることについても触れさせていただきました。

伊藤さんは視覚でも触覚でもないものとして機能する声の有用性を指摘した。「声だとバーチャルもリアルもあまり差がない。情報は視覚にいきがちだが、声だと触覚では(情報を得るのが)難しいところも可能性が出てくる」。森さんは即座に「今、音声メディアが注目されている。ラジオも復活している」と応えた。


国内での伸長

音声メディアが再注目されています。

まず国内です。日経トレンディによると、国内ネットラジオ最大手「radiko」の月間利用者数が2020年3月に急激に増加し、1000万人に迫っています。また、同調査では、ラジオを聴く時間について、コロナ禍以降で増えたと応えた割合が、「大幅に増えた」と「増えた」を足して、47.4% となっています。(「大幅に減った」・「減った」は、1.9%のみ)


また、日本トレンドリサーチの調査では、ラジオを聴く時間について、コロナ禍以降で増えたと応えた割合(14%)が、減ったと応えた割合(6.8%)に比べて、7.2%ポイント分多くなっています。こちらの調査では、すごく激しいというトレンドではないですが、着実な変化を示しています。


海外での伸長

海外を見てみても音声メディアは伸びています。

グローバルでのPodcast のダウンロード数は、2020年の1月と10月を比較した際に、189%増の伸びをしているというVariety Intelligence Platform のレポートがあります。COVID-19 の最初のパンデミックを経た、4月以降から特に着実に増え続けています。

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Source: Variety Intelligence Platform “COVID-19 2020 IMPACT ASSESSMENT: PODCAST LISTENING”

同調査では、Podcast を聴く時間について、回答者の52%が「大幅に増えた」「少し増えた」と回答しており、日経トレンディの調査と同様の傾向が見え、音声メディアへの関心の増加が伺えます。


グローバルで再度、聴かれるようになっているPodcast ですが、その誕生は15年前で、インターネットを介したサービスの形態としては歴史があります。そもそもマーケットは成熟していたわけです。世界には90万以上の Podcast の番組があり、The Guardianの調査によると、アメリカでは人口の22%、イギリスでは12.5%が毎週少なくとも1つのポッドキャストを聴いています。韓国では人口の58%、スペインでは40%が過去1カ月間にポッドキャストを聴いたことがあるとのこと。それがロックダウンの最中、さらに拡大しているというのは、驚くべきことだと思います。


「ながら聴き」のトレンド

これら音声メディアの復権は、ユーザーがコンテンツにアクセスしやすくなっていたり、常に触れていたりすることがやりやすくなっているということも要因としてありそうです。

Canalys の調査によると、2020年時点で、Amazon EchoやGoolge Home等のスマートスピーカーの出荷台数は世界で3億2000万台に達しており、2024年にはその倍の6億4000万台に達すると見られています。また、Appleは、2019年に推定6000万ペアのワイヤレスAirPodsを販売しています。これら、スマートスピーカーやワイヤレスイヤホンの普及は、「ながら聴き」というトレンドを生み出し、ロックダウンの最中における 音声メディアの伸長に貢献していると考えられます。


次世代を体現する Clubhouse

そんな「ながら聴き」トレンドの象徴的な出来事として、世界各国で外出禁止、自粛の要請、都市封鎖(ロックダウン)が行われていた2020年4月、Clubhouse という次世代SNSが米国西海岸で話題になっていました。

Clubhouse は、音声チャットのプラットフォームです。Clubhouse 自体は、自らを次のように説明しています。

"a new type of social product based on voice [that] allows people everywhere to talk, tell stories, develop ideas, deepen friendships, and meet interesting new people around the world."
"音声をベースにした新しいタイプのソーシャルプロダクトで、どこでも人々が話し、物語を語り、アイデアを育て、友情を深め、世界中の興味深い新しい人々と出会うことができます。"


VCの Andreessen Horowitz が1200万ドル出資し、初期段階でインビテーションを手にした数千人が毎日のようにこのサービスに入り浸り、噂が噂を呼びました。2020年5月にはまだユーザー数が限定的な状況にも関わらず、1億ドルのValuationをつけています。


Clubhouse では、大小様々なルームに入り、それぞれのルームでの番組やディスカッションを聞くことができます。また自分と友達だけのルームを作って二人だけの会話を楽しむこともできます。自分の好きなトピックを聞けるラジオのようでもあり、ルームが選べるところからは音声のカンファレンスのようでもあり、友達と一緒に集ってだべることもできる、まさに Clubhouse のようでもあるわけです。

Vogue は、Clubhouse は、ポッドキャスト形式の会話であり、パネルディスカッションであり、ネットワーキングの機会であり、プライベートの仲間内との会話であり、それらすべてが一緒になった目まぐるしい体験、実際の生活における我々のやり取りを再現している、と説明しています。

セレブリティも多く招待されてきて、インフルエンサーたちのプライベートトークスペースとしても人気が出てきているようです。人気テレビ番組司会者の Oprah Winfrey も、ラッパーのDrakeやMulatto も、俳優の Ashton Kutcherや人気コメディアンのKevin HartやChris Rockも、女優のTiffany Haddishも、ファッションデザイナーの Virgil Abloh もClubhouseのファンとのこと。

招待された人のみの特権的なクローズドのつながりの中で、ここだけしか聞けない噂話を聞いたり、今しかできない秘密の会話に興じたりすることができる。特に、外出が抑制されていたCOVID-19 禍の中で、この特徴はユーザーの強いつながりやエンゲージメントを生み出すのに成功しているようです。ですが、課題がないわけではなく、例えば、あるクローズドな会話の中で、Clubhouse に批判的な記事を書いたThe New York Timesの女性記者をとりあげ、性差別的なコメントをしたことがリークされて問題になりました。

クローズドな空間を演出しているため、そのような際どい会話もユーザーはしてしまうとも言えます。ですが、ユーザー数が増えていくにつれ、他のSNSがそうであったように準公共的な新しいスペースへと変容していきます。他のSNSが今、ヘイトスピーチやFake Newsとの戦いに苦心しているように、Clubhouse がどのようなガバナンスを導入できるようになるのかは将来的なポイントかもしれません。

とはいえ、Clubhouse は次世代音声メディアの新しいあり方を提示しました。招待制である仕組みはまだ変わってないのですが、12月ぐらいから、Clubhouse を解説したYouTuber のビデオも増え始め、ユーザー数は着実に広がっています。


音声メディアの関心が高まっているこのトレンドにおいて、今後の展開が気になる存在です。


Podcast はじめました

今回は、再度注目の集まっている音声メディアに関する記事でした。

最後に宣伝になるのですが、Podcast を始めました。「アヤナとマサヤのデジタルカフェ」と題して、「デジタル」というキーワードを切り口に様々な分野におけるトレンドや未来へ向けた変化について語っていきます。更新頻度はだいぶ緩くなる感じではあるのですが、ご興味がありましたら、ぜひ「ながら聴き」していただけましたらと思います。


おまけ

本エントリーを公開した後の、日本におけるClubhouse人気の高まりを受け、人と人のつながりをテーマに、Clubhouseを題材にした小説をアップしてみました。もしよろしければ、こちらもご笑覧ください。


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