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映画/ドラマレヴュー

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観た映画やドラマのなかから興味深かったものについていろいろと。
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#フェミニズム

失望の中でも光を見つめようとする凛々しさ 映画『同じ下着を着るふたりの女』

 『同じ下着を着るふたりの女』は、キム・セイン監督の長編デビュー作にして、今年日本で公開された映画の中では傑作のひとつに数えられる作品だ。スギョン(ヤン・マルボク)とイジョン(イム・ジホ)という母娘を通して描かれる、暴力や共依存に塗れた関係性は綺麗なものではない。家族の繋がりや良妻賢母といった安易な理想化を巧みに避けながら、冷徹な眼差しに基づく社会批評と母娘の成長を描いているからだ。

 そうした

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映画『エマ、愛の罠』はステレオタイプな性役割を焼きはらう



 燃える信号機と、火炎放射器を手にするエマ。チリの映画監督パブロ・ララインの最新作『エマ、愛の罠』は、観客の目を引きつけるシーンばかりだ。多彩な色使いに明暗を上手く使いわけた照明など、“おもしろい絵”を作りあげる技法は匠の域に達している。

 物語は、エマ(マリアーナ・ディ・ジローラモ)とその夫・ガストン(ガエル・ガルシア・ベルナル)が中心だ。2人は養子を迎えいれるが、とある事件せいで子供は施

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映画『82年生まれ、キム・ジヨン』が描く女性の生きづらさは万国共通だ



 チョ・ナムジュによる小説『82年生まれ、キム・ジヨン』が発表されたのは、2016年10月のこと。韓国で生活するジヨンという女性に降りかかる抑圧と、それを巧みに描写した筆致は瞬く間に注目を集めた。こうした特徴の影響か、フェミニズム小説と紹介する者もいる。2018年12月には邦訳版が出版されるなど、盛りあがりは韓国以外の国にも広がった。

 『82年生まれ、キム・ジヨン』といえば、アイリーン(レ

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映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』に見るキャロル J. クローヴァーの功績



 キャシー・ヤン監督の『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』は、DCコミックスに登場する人気ヴィラン(悪役)のハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)が主役の映画。『スーサイド・スクワッド』(2016)で恋愛関係にあったジョーカーと別れ、新たな戦いに身を投じるハーレイが描かれている。

 本作は、女性による女性のための映画と言いきっていい。男に虐げられてきた女性たちが連帯

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構造に順応する『ワンダーウーマン』、構造を壊す『リベンジ』



 今月2日、映画『リベンジ』のDVDが発売されました。日本では今年7月に公開済みの本作は、コラリー・ファルジャ監督の長編デビュー作です。まず興味を引かれたのは、レイプされた挙句、それを隠蔽するため命も奪おうとした3人の男たちにジェニファー(マチルダ・ルッツ)が復讐するという物語でした。

 そのあと作品について調べたら、トロント映画祭で上映された際には気絶者が出るなど、これまたおもしろい情報に

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身勝手な欲望に釘を刺す  〜 映画『エクス・マキナ』〜

 第88回アカデミー賞の視覚効果賞を獲得した『エクス・マキナ』が、ようやく日本でも公開されました。結論から言うと、すごく面白いです。

 物語は、IT企業で働くケイレブに、社長のネイサンがある依頼をするところから大きく動きます。その依頼とは、女性型ロボットのエヴァに搭載されたAIのチューリング・テスト(※1)をしてほしいというもの。最初は、最新鋭のロボットに触れられる機会を得て喜ぶケイレブですが、

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