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「いいファシリテーターは、いい鑑賞者」 鑑賞からどう学ぶか?

「対話型鑑賞ファシリテーター Advent Calendar 2021」
1日目の記事です。

読み手の想定:学びの幅を広げたい対話型鑑賞ファシリテーター
書き手:「人は誰でも個性的、身近な人との違いを感じよう」個性的な美術作品とショートフィルムと人を、鑑賞と対話で味わう場をつくっている。対話型鑑賞との出会いは、友人あいたむにオススメいただいた六本木アートナイトをもっと楽しむガイドツアーのガイドボランティア(講師は平野さん&会田さん)。対話型鑑賞を本格的に学んだ場は京都芸術大学 アート・コミュニケーション研究センターの対話型鑑賞講座(2018年度、2021年度)。

「いいファシリテーターは、いい鑑賞者」

この言葉と出会ったのは、2018年度の京都芸術大学 アート・コミュニケーション研究センター主催 対話型鑑賞講座。
2018年時点では「ファシリテーションのために、まずは鑑賞者体験を十分に知ろう。」と捉えていたけど、2021年度の講座を通して「ファシリテーターとして、より深く鑑賞から学ぼう」という捉え方に変化した。
「鑑賞者体験」と「ファシリテーターとして、鑑賞から学ぶ」がどう違うのか?というと、後者は鑑賞者体験に加えて、鑑賞者としてファシリテーションをすることや、鑑賞中に何が起きているか?どのような意味生成が起きているのか?を分析して学ぶ、と今のぼくは捉えている。

2018年8月 対話型鑑賞講座 初日の朝 京都芸術大学にて

ここから先は、ぼくが普段実践している「鑑賞から学ぶ」を事例を交えて紹介していく。

稽古会で、鑑賞から学ぶ

「ACOP道場」という対話型鑑賞の稽古会を、対話型鑑賞ファシリテーター仲間と運営している。参加者は京都芸術大学で対話型鑑賞を学んだ方々。対話型鑑賞歴10年くらいの大先輩にも参加いただいている。毎月オンラインで稽古会を実施していて、色んな方がファシリテーションをしてくれてすごく勉強になる。

経験豊富な方々との稽古会では、鑑賞から何が学べるか?というと、みなさんのディスクリプション(事実と解釈の言語化)で収集した材料を使った意味生成が経験の浅い身としては気づきが多い。ファシリだけでなく、鑑賞者もリンキング/フレーミング/コネクトなど駆使して、ファシリテーションを進めていく。そして鑑賞をご一緒することで鑑賞者として、ディスクリプションや意味生成のコツが掴めてくる。
ファシリをした際のフィードバックもありがたい。自分では中々気づくことのできない自分の癖を指摘してもらえる。みんなでファシリのふりかえりを対話する中で沢山の気づきを得ることもできる。
使う予定の鑑賞作品を稽古会で練習するのも沢山の気付きが得られ、ディスクリプション/リンキング/フレーミング/コネクトなど掴みやすくなる。
学芸員、ガイドボランティア、教員、デザイナー、研修講師などなど、様々な方が参加していて、一人ひとりが選ぶ鑑賞作品との出会いもたのしめる。

ACOP道場のダッシュボード
いろんな地域の人が参加していて、ナビ(ファシリ)に手を上げてくれる人も多い


美術館で、鑑賞から学ぶ

オンラインで参加できる対話型鑑賞の場を、美術館が提供する機会が増えている。作品との出会い、ファシリテーターとの出会い、鑑賞者との出会いを通して、鑑賞から学ぶことができる。美術館ごとの場作りの違いも興味深い。美術館のオンライン対話型鑑賞では、所蔵作品の画像を使っているので、オンラインで鑑賞した後に、美術館で本物の作品を鑑賞するという楽しみ方もできる。オンラインの鑑賞会に参加すると、顔見知りが増えてくるので、美術館に足を運んだ時にガイドボランティアの方に話しかけられることも。

目の見えない白鳥さんと、美術館で鑑賞をご一緒したこともある。
ファシリテーター不在で対話型鑑賞ではないけれど、自然と白鳥さんに対してディスクリプションを丁寧に伝えたり、白鳥さんのリアクションに沿っておもしろいもの探しをするという鑑賞が起きていた。ディスクリプションと意味生成(おもしろいもの)を促すパッシブリスニング(受動的に聴く)。白鳥さんのようにしっかり聴くことでも、鑑賞を促すことができる


アートセンターで、鑑賞から学ぶ

YCAMの「見ないほうがよくみえる」
昨年今年と実施していて、昨年参加していた。見えない人に見える人が言葉で作品を伝える「ブラインドトーク」。加えて美術館でリアル参加、Zoomでオンライン参加の参加者同士をつなぎ、「生の作品をみること」「オンラインの作品をみること」の違いに触れる。
みえているもの、みえていないもの、みるとはなんなのか?について考えるいい機会になる。
YCAMらしさとして、ユニークな体験や、あたらしい技術にふれられることも、いい学びになる。

enocoのオンライン対話型鑑賞
大阪府所有作品を使った鑑賞会をするenocoでは、オンラインでどう本物の作品にふれてもらうか?にチャレンジしている。
「画像の拡大縮小」と「カメラのズームイン・ズームアウト」の違い
オンラインで作品画像や映像をみる参加者と、リアルで作品をみるファシリテーターがみえているものの違い
オンライン鑑賞の可能性を感じることができる。


鑑賞の可視化で、鑑賞から学ぶ

対話型鑑賞のトレーニング方法として、音声の文字起こしがあるけど、あまりに時間がかかるため続けるのが難しい・・・。(特にぼくはソフトウェアエンジニアでもあるので文字起こしを技術でなんとかしたくなる)

2021年度の対話型鑑賞講座に参加する中で、より深い鑑賞を学びトレーニングしていくために、編み出したのが鑑賞の可視化。よく使うようになったMURALを使い、事実と解釈や意味生成の流れを可視化していく。
データ構造、オブジェクト指向、データベース、インフォメーションアーキテクチャ、パターン・ランゲージ、ブランディング、ユーザーリサーチ、マインドマップ、ストラクチャードコミュニケーションなど、これまで学んできた情報構造の知見が自分の中で統合されていくようでおもしろい。

参考:意味生成の可視化イメージ
これは対話型鑑賞と関係のない合宿型ワークショップのふりかえりを可視化したもの

前述ACOP道場の稽古会では、Zoomで鑑賞の録画をしていて、これまで実施してきた稽古会の動画が沢山ある。鑑賞の可視化は、鑑賞動画と相性がよくて動画視聴をしながら鑑賞の可視化を進めることができる。鑑賞の可視化は、文字起こしよりも短時間で作成できるため、最近はほぼ毎日鑑賞動画を視聴しながら鑑賞の可視化をつくっている。

鑑賞の可視化により、鑑賞から学べるものには以下のようなものがある。
事実と解釈が可視化されることで、ふれられていない事実や解釈が掴めるようになる
パラフレーズが可視化されることで、パラフレーズの余地も掴めるようになる
リンキング(意見同士のつながり)が可視化されることで、リンキングの余地も掴めるようになる
意味生成が可視化されることで、作品に含まれるテーマが掴めるようになる

そして鑑賞の可視化の副産物として、意味生成の可視化が可能となったことで、身近な様々なものの可視化が可能になっている。
様々なふりかえりの可視化、様々なコンセプトの可視化など。


聴くを学び、鑑賞から学ぶ

鑑賞の中では「みる、考える、話す、聴く」という活動を繰り返すことになるけど、特に言葉や感覚を拾うための聴くが大事になってくる。
聴くことを学び深めるためにはじめたのがYeLLサポーター。
オンライン1on1を通して、聴くことを実践することができる。
YeLLサポーターとして意識しているのは、「聴く」と「聞く」のバランス「聴く」と「聞く」の違いは、感覚的には「主張的にきく」「協調的にきく」とニュアンスが近いだろうか。
深い鑑賞のためには、深く聴くことも必要になる。


「いいファシリテーターは、いい鑑賞者」

ファシリテーターとしてファシリテーションをすること以外にも、鑑賞を学ぶ術が沢山あることを感じていただければ嬉しいです。
今後のチャレンジとしては、引き続き鑑賞(意味生成)の可視化を継続進化させ、「考える、話す」のトレーニングとして哲学対話を、「聴く」のトレーニングとしてコーチングも学んでいくことを考えています。
学び方は人それぞれ、自分に合った楽しめる学び方をつくるのが、
いい鑑賞者そしていいファシリテーターへの近道なのかもしれない。

追記:Doing(やり方)ばかり書いていることに、ふと気づいたのでBeing(あり方)を書き足す。

鑑賞者を美的発達段階の奥地に誘うには、ファシリテーターが道標として先に何があるか知っていないといけない。そのためにはまず鑑賞者として、自分の美的発達段階を高めていく必要がある。

一人称、二人称、三人称。
自分の視点で考える、他者の視点で考える、群れの視点で考える。
すべての起点は一人称で、一人称を使い二人称を、二人称を使い三人称を見ていく。自分の視点を知っていないと、他者の視点はわからない。
セルフアウェアネスのように、他者から見た自己、自己から見た自己のずれを捉えていく必要もある。

みる:みているもの、みえていないもの
考える:考えているもの、考えられていないもの
話す:言葉にできているもの、言葉にできていないもの
聴く:聴いているもの、聴けていないもの
自分の感覚が何を捉えているか?自分の思考が何を考えているか?
みえるようにすることで、みえていないものが見えてくる。

なぜ対話型鑑賞をするのか?
様々なアート作品、鑑賞者、そしてファシリテーターを通して、
社会にふれるため、そして社会を通して自己を知るため。
社会や自己の探究に終わりはない。
2019年のACOPセミナーで、「アートは生きる術」だと福先生がおっしゃっていたけど、そのとっかかりに少しはふれられているだろうか。

対話型鑑賞と出会って4年。
奥深い学びの旅はまだ始まったばかり。

2021年11月 佐渡島にて
自然は沢山のことを教えてくれる

「対話型鑑賞ファシリテーター Advent Calendar 2021」
1日目の記事は以上になります。2日目 タカさんの記事をお楽しみに。

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