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第11話 リーダーシップの研究にはどのようなものがあるの?~その1

 今回もお読みいただきありがとうございます。なんとか11回目を迎えることができました。これもひとえに、読者の皆様からのスキやフォローのおかげと感謝しています。今回も一生懸命書きますので、是非とも、お読みいただければとても嬉しいです。
 さて、今回までリーダーシップについて、その認知に焦点を当てて、書いてきました。ここで、今回と次回の2回にわたって、これまでリーダーシップについてどのような研究がなされてきたのかということについて、簡単に振り返ってみたいと思います。過去の研究をレビューすることによって、リーダーシップを考える際に思考のブレが少なくなり、巷にあふれる様々なリーダーシップに関する情報や自慢話などに惑わされることなく、その本質を捉えることができると思います。では、早速研究レビューに取りかかりましょう。

 初期のリーダーシップ研究は、特性論と呼ばれ、第2次世界大戦以前から行われています。その特徴は、優れたリーダーは、共通の個人特性や資質を持っているという観点から研究がなされてきました。そして、年齢、身長・体重などの外見、知能、知識、雄弁さ、パーソナリティ特性が有能なリーダーを識別する個人的資質として調査されてきました。しかし、研究の成果は、リーダーとして成功するための特性を特定することはできませんでした。
 特性理論で、成果を出すことができなかった研究者たちは、特定のリーダー行動に注目し始めるようになりました。行動理論の展開です。リーダーの行動スタイルに関する研究は、第2次世界大戦後の1940年代後半ころから盛んにおこなわれるようになりました。なかでも、ミシガン大学の研究、オハイオ州立大学の研究、我が国においても、1966年に、大阪大学の三隅二不二(みすみじふじ)によって提唱されたPM理論が有名です。
 これらの研究の成果については、共通して、現在でも通用するリーダー行動の2つの側面にたどり着いたことです。まず、ミシガン大学の研究では、「職務中心的監督(job-centered supervision)」と「従業員中心的監督(employee-centered supervision)」、オハイオ州立大学の研究では、「構造づくり(initiating structure)」と「配慮(consideration)」、三隅二不二のPM理論では、「目標達成行動(Performance)」と「集団維持行動(Maintenance)」の2次元の特定です。端的に言えば、これらの研究では、リーダー行動をとらえる視点を、「仕事」(ミシガン大学の研究における「職務中心監督」、オハイオ研究の、「構造づくり」、PM理論の「目標達成行動」)と「」(ミシガン大学における研究の「従業員中心的監督」、オハイオ研究の「配慮」、PM理論の「集団維持行動」)に特定することができたということです。
 複雑なリーダー行動を「仕事」と「」の2次元でとらえることができるという発見は、紙に横軸と縦軸を描けば、横軸が「仕事」、縦軸が「人」のように描くことができ、図でも説明することができ、説明力は格段にアップします。それと同時に、アンケートなどで、リーダー行動のスタイルの測定ができるということになります。例えば、我が国の研究であるPM理論では、横軸に「P行動」、縦軸に「M行動」を描いています。「P行動」とは、目標達成や課題解決を指向する行動であり、目標達成に向けて綿密な計画を立てたり、仕事の量をやかましくいったり、仕事のまずさを責めることによって、フォロワーに圧力をかけるようなリーダー行動のことをいいます。しかし、せっかく課題が達成されたとしても、その過程で集団が壊れてしまっては元も子もありません。そのためには集団を維持していく働きも必要になってきます。これが「M行動」です。具体的には、冗談を言ったりして集団における緊張関係を解消し、成員に激励・支持を与え、自主性を刺激するようなリーダー行動です。そして、「P行動(目標達成行動)」を高度に行っているか、それともあまり行っていないか、「M行動(集団維持行動)」も同様に、高度に行っているか、そうでないかの4つに分けることができます。PM理論では、高度に行っている場合を大文字、あまり行っていない場合を小文字で表しています。そうすると、リーダー行動を、「PM」型、「Pm」型、「pM」型、「pm」型の4つの行動で示すことができます。アンケートでの「P行動(目標達成行動)」の具体的な質問項目の代表例として、「仕事の進み具合についての報告を求めますか」など8項目、「M行動(集団維持行動)」では、「あなたを信頼していると思いますか」など8項目があり、一般的に答えやすい質問項目となっています。その質問に対して、回答を5段階(5:いつもしている、4:よくしている、3:ときどきしている、2:めったにしない、1:全然していない)で得れば、リーダー行動を数値で測定することができます。
 例えば、研修会場に10人のリーダーが集まったとして、事前に自身のリーダー行動について、直属の部下からP行動8項目、M行動8項目についての回答をしてもらったものを持参いただき、P行動、M行動ごとに、10人のその数値を合計して、平均値を算出すれば、その集団におけるP行動の平均値、M行動の平均値が算出できます。その平均値より大きいか小さいかによって、自身の数値を比べれば、自身のリーダー行動が4つのどのスタイルであるのかを測定できます。さらに、リーダーシップの研修の前と研修後に同じアンケートを使用して、リーダーの行動がどのように変化したかを測定することも可能になります。
 リーダーシップの行動理論ではリーダー行動の2次元の特定のみでなく、リーダー行動とリーダーシップの成果との関係についても言及しています。ミシガン大学の研究では、高業績をあげている部門のリーダー行動と低業績にとどまる部門のリーダー行動を比較するという方法で調査され、大半の高業績部門では、人間としての部下への心配りを重視して、できる限り各自が望む方法で仕事をやらせたり、部下を信頼して、権限移譲や意思決定への参加を促進したりする行動をとらせることなど、つまり、「従業員中心的監督」行動がとられており、低業績部門では、仕事の能率的遂行を前面に押し出した行動、つまり「職務中心的な監督」が取られていることを発見しています。しかし、この研究においては、「従業員中心的監督」行動と「職務中心的監督」行動とが互いに両立しない行動としてとらえられられていました。つまり二つの行動のどちらかしかとらないということであり、現実の行動とかけ離れているといえます。
 これに対して、オハイオ州立大学の研究では、「構造づくり」と「配慮」とは一人の人間に同居可能であり、両者の組み合わせによって有効なリーダーシップ・スタイルの探求を行っています。「構造づくり」とは、自分自身並びに部下の役割やなすべき課題を明確化し、部下にタスクを割り当て、職務遂行の手順やスケジュールを設定することによってリーダーは部下の仕事環境にある種の構造をつくりだします。つまり、タスク指向です。「配慮」とは、人間指向、つまり、集団内での相互信頼、部下の気持ちや感情への心配りをするようなリーダー行動をいいます。そして、「構造づくり」も「配慮」もともに強く発揮しているリーダーシップ・スタイルが最も有効であるという結論を導き出しています。我が国のPM理論においても、「P行動」も「M行動」もともに強く発揮している「PM」型のリーダーシップ・スタイルが最も有効なことが実証されています。また、企業組織以外の行政組織、政治、教育、家族、スポーツ集団といった状況でも、首尾一貫して、「PM」型が有効であることが確認されてきました。つまり、どのような状況においても、「仕事」指向と「」指向の2つのリーダー行動をいずれも多く取っているほど、優れたリーダーシップであるという、唯一絶対の処方箋が提示されたことです。 
 しかし、本当にどのような状況においてもそうでしょうか。世の中に、唯一絶対の行動など存在するのでしょうか。例えば、火事の現場、火が燃え始めているのを発見したとしましょう。その際、まず火を消すという課題を解決しなければならないのは当然のことです。その際に「火事だー」と大声をあげて、人を呼び集めて、集まった人々に、バケツリレーを指示し、自らリーダーとなり、先頭に立って火を消すという課題解決行動をする際、「フォロワーの意見を聞いて」とフォロワーへの配慮をしてからという余裕はないし、そのような余裕を見せているリーダーに対しては、フォロワーの方から「そんな余裕ないでしょう。早く火を消さないと!」と言われかねません。PM理論でいえば、その際の有効なリーダー行動は、「PM」型ではなく、「Pm」型になると思います。つまり、緊急時の瞬間のみを切り取れば、「PM」型は、唯一絶対の行動ではないともいえます。
 このような疑問から、リーダーシップ研究は、1970年代に入ってさらに発展していくことになります。長くなりますので、今回は、ここまでということにしまして、次回1970年代以降のリーダーシップ研究についてレビューしていきますので、ご期待ください。
(参考文献)
金井壽宏『変革的ミドルの探求-戦略・革新指向の管理者行動』,白桃書房,1991年。

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