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【片桐はいり x 森下圭子 x おおすみ正秋】昭和のアニメ 対談 第三回

「歌舞伎とリミテッドアニメーション 〜古典芸能の動きの秘密〜」

片桐
それにしても子供時代に心打たれたアニメが、知恵と工夫の結晶で生まれてきたとは思わなかったです。そういうものに妙に心が奪われてしまうという資質が、なんで自分に生まれたんだろうと思っていて。このリミテッドアニメを見て育ったからなんじゃないかと授業を聞いて思ったんです。情緒が育つ大事な時に、静止画時代のアニメを見たから。

おおすみ
発想が日本人だよね(笑)子供の時に歌舞伎みた?

片桐
歌舞伎は覚えてませんが、学校の鑑賞会で人形浄瑠璃を観て大感動しましたね。

おおすみ
歌舞伎はね、歌右衛門さんから直接聞いたんだけど、ガラガラ声で怒鳴っても、色気に見えるのが歌舞伎。そういう芸が蓄積されているからこそ、色気に見える。一つの例として教えてくれた歌舞伎の色気の中に、「肘が胴から離れたがらない」という言葉がある。

片桐
え?なんだろう??・・・・あ、わかった。これですね!

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おおすみ
手を伸ばすとこうやって肘が離れてしまう。それを離さずちゃんと身体につけてやるとお酌しているときの色気が出るんだって。歌舞伎の演技は、手。胴、腰、全部動きが決まっている。アニメのタイムシートに書き込むがごとく、手だけ、足だけ、今は口だけという風に動いている。他は動かさず、余計なことはやらない。

片桐
そうですね。

おおすみ
普通の芝居はとっさにしゃがんだ時、よろけて足を踏みなおすなんて当たり前じゃない。でも歌舞伎でそんなことしたら首になっちゃう。しゃがむという形を作る場合は、しゃがんだ時それが型になってなくちゃならない。スタンスをとりなおすなんてありえない。

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片桐
だからそれは、どの場面をストップモーションで切り取っても静止画として成立するように、切り取っても型になっているところが、歌舞伎や文楽、浄瑠璃の世界で、まさにリミテッドアニメに応用できるんですね。

おおすみ
その通り!日本舞踊は基本的にそうなんですよ。型から型へと繋いで行く。でもダンスはそうじゃない。

片桐
そうなんですよね。ダンスは違う。

おおすみ
バレエのアラベスクなんかは、プロセスが大事。でも日本の芸能はプロセスがあっちゃいけない。  AからBへすぐ行かなくちゃ。演技を日本人はそう捉えてる。日常生活もそういうものとしてやっているから、だから歌舞伎は日本人の動きの原点。すぐにリミテッドアニメーションと結びついちゃう。

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片桐
劇的なストップモーションのシーンの集合体だと考えたら、歌舞伎もそうだし、私なんて大衆演劇にかっこいいってしびれちゃうし、どこの動きを見ても決まってる!ってなるんですよ。宝塚もそうかもしれないし、日本人の好きなものってつながっているのかもしれませんね。

おおすみ
日本人と話してる感じしますよ(笑)

片桐
フィンランド代表の日本人である森下さんはどうですか?日本人ですけど(笑)

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森下
私、むかし暗黒舞踏というか、舞踏を勉強していたことがあるんです。
ヘルシンキの大学で教えたこともあったりして。


片桐
そうだった(笑)

森下
だから動きに関しては観察して見てる方だと思うんですけど、フィンランド人は自分の「行く先」しか見てない。フィンランドのダンサーは「途中」がないがしろになっていて、次の点のことしか考えてない。だからポーズとポーズはきちんと決まるんだけど、その中間点で写真をとったらカタチになってないんですよね。

おおすみ
話が飛ぶけど、ルパンの作画監督の大塚さんという人がいてね。

森下
ムーミンもやってますよね。

おおすみ
そう。で、次元が拳銃を抜く時に「プロっぽく素早い動きをやって」と言うと、枚数を減らすことを普通は考えるけど、逆でね、一枚増やすんですよ。先に肩だけをヒョイっとあげる絵を一枚足すんです。瞬間で見えないくらいの一枚なんだけど、その素早さがプロの動きに見えてくるのよ。

片桐
やっぱりそれは大塚さんは本当に拳銃を撃ってたから?

森下
え、そうなんですか(笑)

片桐
むかし麻薬Gメンだった時に撃ったことがあるから、リアルな動きを知ってらっしゃったりするのかなと(笑)

おおすみ
よく知ってるね(笑)。まあそういうとそれっぽく聞こえるものだけど、映画好きだからすごくよく見てるのよ(笑)


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話題は片桐はいりさんとの演技論へ。
第四回「演技と演出 〜すべてに意表をつきたい〜につづきます。

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第一回
静止画表現とは? 〜巨人の星の裏話〜

第二回
日本人ならではの表現 〜オバQと小津映画の共通点〜


第三回
歌舞伎とリミテッドアニメーション 〜古典芸能の動きの秘密〜


第四回
演技と演出 〜すべてに意表をつきたい〜


第五回
キャラは関係で描く 〜ムーミンをヒッピーの世界へ〜







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