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【片桐はいり x 森下圭子 x おおすみ正秋】昭和のアニメ 対談 第四回

「 演技と演出 〜すべてに意表をつきたい〜」

おおすみ
片桐さんの前で言うのもなんだけど、日本の俳優はこの10年うまくなったと思う。昔の東映時代の役者と比べたら嘘みたいに違うよ(笑)

片桐
若い人がってことですよね?本当にそうです。

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おおすみ
で、何が違ったかというと

片桐
わ、それ聞きたい!

おおすみ
アメリカのメッソド演技(注:モスクワの芸術座リーダー、スタニスラフスキーが提唱している演技理論)のお手本とされる”スタニスラフスキー”っているでしょ。彼が提唱している演技法その①は「自分の感情に忠実に」なんです。今はそれを自然に、役を踏まえた上でリアルにやる役者が出てきている。日本は役者が自然な感情表現をしているにも関わらず、プロデューサーや演出がとにかく役者に泣く芝居をしろと言う。

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森下
わはは(笑)

片桐
そうなんです。本当その理由を聞いてみたい。

おおすみ
スタニスラフスキーは、感情を意図的に演じる時はただ一つ、自分の感情を見せつけて人を動かそうとするときだけ、と言っている。

片桐
それは“本当には思ってない”という時ですね。

おおすみ
そう。 自分の感情で動いてるんじゃなくて、「俺は今怒ってるぞ」と相手にみせる。子供に対する親なんてしょっちゅうそうするもんだけど。それもスタニスラフスキーが書いてる。このメソッド演技が定着しているのは、ロシアの次にアメリカなんですよ。だからアメリカの演技はそんなにメソメソしてない。演出意図があればそりゃ、やってみせますけど、ジェームス・ディーンにもマーロン・ブランドにも湿気の芝居はないんです。

片桐
日本における湿気はなんでしょうね?特に最近です。それこそ小津先生の映画でも、女優さんに目薬さしてる写真がいっぱいあるんですよ。ということは、本当に泣け、なんて言ってないんです。それは4Kの映像になって改めてみてみると、そんなにタラーッと涙は流れてなくて、目元でウルッってなってるだけ。

おおすみ
目薬で泣いたことあります?

片桐
ありますあります(笑)

おおすみ
それでね、目薬でもじわっと目頭に涙がたまると、そう言う感情になってくるんです。

片桐
わかります。本当にそう。体が先で感情が後。ごくリアルな実感としてあります。体がある状態になると、自然とそれにふさわしい感情がわいてくるんです。 形ということで言うと、わたしは子供の頃からアニメや人形劇を見て育ってきているから、ある種の表現をする時に、アニメや人形みたいな動きが普通に自分の動きとして入ってきている気がするんです。

おおすみ
あなたそれで、嘘芝居にならないのがすごい(笑)

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片桐
まあ実際はアイディアとして、アニメの動きや表現を思い出して使ってみたりするという程度かもしれないですけど。体に染み付いたりしていて。

森下
イメージとしては私もありますよ。自分の気持ちの中だけで髪の毛がブワーってなってるとか。

片桐
そう、そういうアニメの表現をみんな真似していたんですよ。その中で育ってきていると言うのがあるなと。

おおすみ
片桐さんは、監督がそういう方向に持っていったらなんでもできちゃいそうだね。

片桐
こないだのお芝居で、ある台詞だけ全く動かずにやってみたんです。体は動かさず口だけを動かす。あとのシーンはほとんど動いているから、ここぞと思うところだけ絶対動かないというのを、自分だけの楽しみとしてやってみたんですけど、自分にもお客さんにも緊張感が生まれておもしろかった。今思えば、まさにリミテッドアニメですね(笑) 

おおすみ
動かないでいると、観る側は次の動きを期待しながら見るからね(笑)子供は亀でもなんでも、急に動かずに止まってしまうとずっと飽きずに延々と見てるでしょ。演技も同じで止まったら気になる。それを見ている人も、その間じっと止まっている。まさに静止画なんだよね。

片桐
本当にそうですね。

おおすみ
静止画の魅力ってのは次にどう動くかってことなんだよね。だからルパン三世や巨人の星みたいに、プロが動く話ってのは静止画の世界ではやりやすいんですよ。プロは動き出す直前までだらっと脱力していて、動き出す瞬間に動きがピッと決まればプロっぽく見えるんだよね。賢い犬は身構えて見せないからね。犬のアクション直前の脱力ぶりはまったく名優だよ(笑)

片桐
時代劇の描写として緊張感でジリジリ近づいていく面白さがあるけど、古武術の方に聞くとあんなに緊張していては戦えないんですって。抜くまでは脱力してないと。

おおすみ
黒澤明の映画でもよくやってるよね。日本の歌舞伎なんて徹底した積み重ねですよね。

片桐
そういうことに気づいてアニメに応用するってのが、おおすみさんの発明ですよね(笑)

おおすみ
イヤイヤ僕は、いつもパクリ専門で。元ネタはフランス映画にあったりするんですよ(笑)

片桐
ムーミンの声を岸田今日子さんにしようとかは発明ですよ。

おおすみ
すべてに意表をつきたいってのはあるよね(笑)

片桐
わかります(笑)


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話題は静止画から広がって、森下圭子さんとムーミンのキャラクター作りの話へ。
第五回「キャラは関係で描く 〜ムーミンをヒッピーの世界へ〜につづきます。


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第一回
静止画表現とは? 〜巨人の星の裏話〜

第二回
日本人ならではの表現 〜オバQと小津映画の共通点〜


第三回
歌舞伎とリミテッドアニメーション 〜古典芸能の動きの秘密〜


第四回
演技と演出 〜すべてに意表をつきたい〜


第五回
キャラは関係で描く 〜ムーミンをヒッピーの世界へ〜






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