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#64 ”『動詞』を中心にすえる”効用

1.天声人語の筆者、きょうから交代

毎年10月1日は、新制度の始まりや、下半期の始まりということで、気持ちが改まります。
毎朝、新聞4紙1面のコラム(朝日「天声人語」、毎日「余録」、読売「編集手帳」、日経「春秋」)を読み比べているのですが、標記のタイトルで朝日新聞の『天声人語子』の交代が発表されました。

歴代男性ばかりが続いていた『天声人語子』としては、初の女性登場。これからは、男性2人と女性1人の3人のリレー投稿になるそうです。
天声人語」とは:2016年4月から先月までの6年半、「天声人語」の執筆を担当された有田哲史さんのインタビュー記事を貼付します。https://info.asahi.com/choiyomi/reporter/tenseijingo/

本日が初出稿となる郷富佐子(ごうふさこ)さんは、アーダーンニュージーランド首相の言葉を引用して、本日の天声人語を締めくくります。

(前略・中略)
▼「少女時代、自分の性別が人生の妨げになると思ったことは一度もない。なぜなら私はニュージーランド初ではなく、3人目の女性首相ですから」。アーダーン首相が、4年前の国連総会で語った言葉だ。彼女の自然体は、先人が積み上げた土台があってのものだった。
1人目の歩みは遅くても、次へつなぐために始めたい。社屋の下の方にある大部屋の隅っこで、言葉の波に揺られながら。

2022年10月1日付 朝日新聞「天声人語」

初の女性「天声人語子」のデビュー。4紙のコラムの読み比べが楽しみです。

2.『動詞』を中心にすえる(辰濃和男「文章のみがき方」より)


「天声人語子」としての名コラムニスト、辰濃和男さんの著書に「文章のみがき方」(2007年10月 岩波新書刊)があります。良著です。

今回、「天声人語子」の交代の報を聞いて、15年前の同著を本棚から取り出してみました。赤線を引き、書き込みをした箇所を拾いながら読んでみると、”文章修行のために”の中の10か条の5番目に”『動詞』を中心にすえる”がありました。
最初に読んでから10年以上が経ち、著書の内容はかなり忘れていたのですが、昨年11月に日本語翻訳版「ライフシフト2」を読んで、もやもやを感じた理由に改めて気づき、もやもやを乗り越えるためのヒントを見つけた思いでした。

 辰濃さんは、長田弘夏目漱石の言葉を引用しながら、”『動詞』を中心にすえる”効用について語ります。

「いまは名詞がおおすぎる。そして動詞が少なすぎる」
「はつらつとした動詞がおとろえてきて、名詞とは逆に、動詞がだんだんに貧しくなっている」
「漱石が20世紀という未来に向けて、必要な言葉としてまず求めたのは、『考えよ。語れ。行え』という三つの動詞だった」(以上長田弘)

「文章のみがき方」(辰濃和男)P201-202

迷う。捨てる。遊ぶ。あこがれる。そういう動詞を題にして書くと、筆が思わぬ方向にすべりだし、自分がどういうところに関心をもっているかということに気づくことができます。文章の中身も、意外な分野にひろがり、新しい自分に出会うことができるかも知れません。

「文章のみがき方」(辰濃和男)P205

3.「ライフシフト2」:『動詞』を使うと見え方が違って来る!

前述のもやもやは、「ライフシフト2(日本語版)」の中で言及された「人間としての可能性を開花させる」3つの要素(「物語」「探索」「関係」)が、何れも、「名詞」で書かれていることに感じたものでした。

このことについては、note#32note#52 にも書きました。
3つの要素は、「名詞」ではなく、「動詞」で書くことで初めて、躍動感のあるつながりと広がりが生まれるもの、だと感じていました。

原書”THE NEW LONG LIFE"では、
3つの要素が「動詞」(Narate,Explore,Relate)で示されています。原著には、「動詞」で伝えたかったメッセージがあった筈です。

今回、3つの要素をそれぞれ「動詞」(「物語る」、「探索する」、「つながる」)と「動詞の日本語訳」にして、その真ん中にもう一つの動詞対話する」を据えて、改定して図式化しました。

「ライフシフト2」(2021年11月日本語版)“THE NEW LONG LIFE”(2020年5月原書)をもとに作成

ナラティブ”を「名詞」の「物語」とするのではなく、動詞「物語る」とすることの重要性を野中郁次郎先生も著書の中で述べられています。

「物語り」とは物語(ストーリー)ではなく、ナラティブである。
物語(ストーリー)は初めと終わりがある完結した構造を示す「名詞的な」概念であるのに対し、「物語り」(ナラティブ)は「動詞的な」概念である。単一の物語に収束せずに多様に発展していく。

『失敗の本質』を語る なぜ戦史に学ぶのか (日経プレミアシリーズ)より

不思議なもので、「名詞」だと頭の中の理解として留まっていたものが、『動詞』にすると躍動感を持って外に向かって動いていく、行動していけそうな気になります。

10月1日付の「天声人語子」の担当者交代の報をきっかけに、感じて動いた「小さな知の旅」に出た思いでした。

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