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『ぼく モグラ キツネ 馬』【エッセイ 感想文】八〇〇字

 「いちばんの時間のむだって、なんだとおもう?」と“ぼく”が訊く。“馬”が答える。「じぶんをだれかとくらべることだね」、と。
 「いつでもどこでも、どこから読んでもらってもかまわない」と、まえがきにある。全体が自分探しの物語になってはいるが、主人公の“ぼく”と、“モグラ”と“キツネ”、そして、哲学者の“馬”との一問一答形式で構成され、その通り、どこからでも、読める。
 作者は、英国のイラストレーター、チャーリー・マッケジー。原書は、イラストとカリグラフィーが、ペン1本で描かれている。日本語版も、手書きが素朴な雰囲気を醸し出している。年齢を超えた、「人生寓話」である。
 私は子に恵まれなかったので、「読み聞かせ」の経験はない。しかし、仮に、子に読んであげていることを、イメージした。「どうして?」と訊かれるように、自問自答し、ときに、答えに窮しながら、読んでいった。
 素敵な問答のページに付箋を貼っていったのだけど、ほぼ全てになってしまった。その中で、あえてあとひとつ、挙げるとすると。
 「いままでにあなたがいったなかで、いちばんゆうかんなことばは?」と、ぼくが訊ねると、馬は答える。「たすけて」。「たすけを求めることは、あきらめるのとはちがう」「あきらめないために、そうするんだ」、と。
 苦しくても、辛くても「助けて」と言えないひとが、いま多くいる。せめて、その一言だけを口に出せていたら、命を失わずに済んだひとは、多い。しかし、その叫びを拒む社会構造が存在していることを、問うている。
 冒頭の「馬の回答」に、大谷翔平選手が浮かんだ。「投手として、打者として超一流。脚だって速い。背が高い、脚が長い、イケメン、頭がいい、性格がいい」。どうしようもなく、暗澹とする(おいおい、相手が違いすぎるだろう)。そこで、モグラの言葉が救いになる。「いちばんのおもいちがいは、かんぺきじゃないといけないとおもうことだ」、と言う。

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