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想像力【エッセイ】六〇〇字+(おまけ)【春樹の新刊紹介】一二〇〇字

画像:スペイン無敵艦隊<レパントの海戦 (作者不明/National Maritime Museum蔵) ©Public Domain>

早大エクステンション「エッセイ教室」春講座。一回目のお題は、「想像力」。気遣いのできるひとというのは、想像力豊かなひとと考え、過日書いたことのあるウォーキング中のエピソードと、朝日新聞「声」の投稿の話で構成し、六〇〇字にまとめました。はたして、「想像力」のタイトルが相応しいかどうか、ご判断のほどを。(笑
                  ※
 還暦前から十五年。大酒呑みの、せめてもの罪滅ぼしにと、ウォーキングを続けている。
 速足なので、ひと様のご迷惑にならぬようにと、人通りの少ない歩道を選ぶ。が、時たま「無敵艦隊」に、遭遇する。お稽古事の帰りらしき和服のご婦人が、天平美人のように横幅をとり優雅に歩かれる集団のことを、向田邦子はそう表現する。追い越せる空きがあれば、片手を伸ばし、「ゴメンなすって」と声をかけ、通らせていただくのだが、大艦隊には、参る。「気づいてよぉ」と殺気を放ちながら、付いて行くことになる・・・。
 逆のケースもある。エッサホイサと歩いていると、「すみませーーん」の、若い女性の声。振り向くと、自転車に乗った中学生らしき子。とっさに「あ! ゴメンゴメン」と、端に。その子は、礼をして走り去った。その「声かけ」に、爽やかな気分になる。と同時に、真ん中を歩いていた無礼を、恥じた。
 先日、朝日新聞の「声」にこんな投稿があった。「ヘルメットを被った、制服姿の中・高生と思われる少女が、声かけして、控えめな笑顔を残して過ぎて行った。『これから自転車で通りますよ。お気を付けくださーい』とのメッセージと気づき、その気遣いに感心した」と。恐れ入るのは、その言葉。その子は、「こんにちは」と、発したのだった。
 こんな清々しい子たちに出会うと、その夜は格別に美味い酒が、呑めそうな気がしてくるのだ。

(おまけ)


朝日新聞朝刊(4月13日)

 一昨日(13日)、春樹ファン待望の新刊『街とその不確かな壁』(655頁)が、6年ぶりに発売となった(ちなみにワタクシは、いわゆる「ハルキスト」ではない)。
 1980年に、「文學界」に発表した中編『街と、その不確かな壁』とタイトルがほぼ同じなのだが、書き直して第一部(三部構成)としている。村上氏は、上掲のインタビューでも、新刊の「あとがき」でも、『街と、その不確かな壁』や、そのあと書いた『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は、<当時は、文章を書く訓練というものがまだできてなくて、うまく書けなかった>と、正直に「釈明」している。

 なんせ6年ぶりなので、またこの作品が最後になるかもしれないので、丁寧に読んでいる。現在、約半分。『街と、その不確かな壁』を書き直したとされる第一部(178頁)を終えて、メインと思われる第二部を読み進めているところ。なので、ネタバレはないので、ちょいと紹介。
 第一部は、彼がこれまでも書いてきたモチーフ、「壁」と「影」。“高い壁に囲まれた名もない街”が登場する。重々しい。しかし相変わらず、先さきが読みたくなる構成力は、さすが。彼がよく使う<二つのストーリーを並行して交互に進行していく>構成になっている。ABAB・・・と物語が章展開され、AB各々の終わりが、次のドラマを期待させる。その繰り返し。息苦しくなるが、各章のページ数が平均10ページ弱と、ストレスがない。そして、これまでと同じように(肩肘を張ったような)難解な言葉は使っていない。スイスイと読み進められる。

 第一部の“高い壁に囲まれた名もない街”は、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の街と酷似している。(「ワンダーランド」にあった地図のイラストは、新作にはないので)「ワンダーランド」を手にされていない方向けに地図を参考に載せておく。だが、若干、位置が変わっている。
・一か所しかない「門」は、西に位置していたが、北になっている
・「影」が住む場所「影の広場」は、門の近くなので西ではなく北になっている
・「運河」は、南にのびていたが、北に変わっている
・「職工地区」は、「旧橋」の南だったが、北東に変わっている
そして、“時計台の針”は、ない。

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』掲載の“高い壁に囲まれた名もない街”の地図

 第二部からは、主人公「私」が、大手出版取次を退職し福島の山に囲まれた盆地にある小さな町の図書館に転職する。そこから、場面転換はなく一つなのだが、第一部のアイテムがときどき顔を出す。私が読んだページまででは、“図書館”“時計の針”。どのように交わっていくのか、興味津々である。
いま、この時代の「壁」とは何か、「影」とは何かを思索させられている。

 なお、そのモチーフについて彼は、「あとがき」の最後でこう語っている。
「(アルゼンチン出身の作家・ホルヘ・ルイス・ボルヘスが言ったように)一人の作家が一生のうちに真摯に語ることができる物語は、基本的に数が限られている。我々はその限られた数のモチーフを、手を変え品を変え、様々な形に書き換えていくだけなのだ」と(ここでも「釈明」しているよ。笑)。

 冒頭であえて断ったが、春樹ファンではあるが、(Auのあまのじゃ子じゃないけど)「 “ハルキスト”でまとめないでください」。(笑


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