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劇場応対から考えるアマチュアオーケストラのポテンシャルとその社会性

先日、オフィスがあるフェニーチェ堺で〈知的・発達障がい児(者)にむけての劇場体験プログラム〉に参加してきました。これは、表題の通り知的・発達障害者をお客様に迎えるコンサートを企画する中で、そうした方々に適した当日の応対やプログラムの進行を学ぶ、ホール職員および演奏者にとっての研修という位置づけの企画でした。前提となる知識や考え方、個別の事象への対応ノウハウなどを学ぶことができ、とても勉強になる研修でした。個人的には、こうした学びは日ごろの業務にすぐにでも活かしたいと感じました。そして、ぜひこのような研修によって、ホール/文化団体が持つはずの、おかれた境遇に関わらずあらゆる客様をお迎えしたい(来てくれても構わない、ではない)という思いを後押しすることになればと思います。

他方でこうした研修は、いわゆるプロやアマチュアに限らず、広い意味での関係者すべてに体験してもらう価値があると感じます。平たく言えば、この研修をアマチュアの音楽仲間にもぜひ受けてほしいと強く思いました。当然プロならば障害のある人びとを応対する責任も社会的使命も明確でしょう。けれども、それがたとえ職業ではなかったとしても、自分たちの用意した空間が特定の人びとにとって仮に排除的な環境だったとすれば、それは改善されなくてはならないはずです。それを、仕事じゃないそこまでは…とはやはり言ってほしくないと思います。当事者にとっては、僕たちがそれを仕事として作っているかどうかは関係なく、ただ単純に「行きたい場所」「行けたはずの場所」なのです。

もっとも、その研修をどのように実現するかは知恵が必要だろうとは思います。熱意ある実践者が助成金や補助金を獲得して実施する場合もあれば、通常のアマチュアオーケストラ運営のように参加費を資源として実施する場合も考えられるでしょう。あるいは、日本アマチュアオーケストラ連盟(JAO)が企画するとなればとても意味のあることだと思います。JAOでは運営に関する意見交換も長らく行ってきた実績があり、こうしたことの音頭を取る格好の存在ではないでしょうか。(勝手なことを言って、と言われるかもしれませんが。)

ところで今回の障害がある人びとの応対ような、今日の社会的価値観に照らして取り組まなくてはらなない課題については、プロよりもアマチュアの方が柔軟に対応していけるポテンシャルがあるのではと、かねてから感じてきました。これはほんの数回のことで何も自慢になる話ではないのですが、僕が主宰するアミーキティア管弦楽団では、ホール公演の際に、車いすのお客様や、重度心身障害のお客様をホール内にお招きしてきました。なぜこれが可能だったかと言うと、運営メンバーの中に精神保健福祉士がいて、その人の勤務先の入所者およびヘルパーさんを招待することができたからでした。

僕はアマチュアオーケストラのポテンシャルはまさにこういうところにあるのだと考えています。アマチュアオーケストラとは、そのほとんどが日頃は音楽以外の職業につき、あるいは(家事従事や自治会活動など)社会的な役割を担っている人びとで構成された音楽団体です。そこには、個々人が職場と仮定を往復するだけでは交わらないような多様な人びとが集まっています。もちろん、クラシック音楽やオーケストラにアクセスできる層が代表しえないソサイエティもあろうかと思います。しかしながら、ある程度の多様性をもった集まりとして集団を形成していること、これが僕たちアマチュアオーケストラの財産でありポテンシャルなのではないかと僕はかねがね感じてきました。

それをコンサートとして表現したのが、2019年1月/11月の2回開催した「けいほく うたと未来コンサート」です(記事はこちら)。このコンサートでは、京都市右京区京北地域という、人口減少が進む山間地域で地元の中高生と、アミーキティア管弦楽団メンバーが一緒になって将来の夢やキャリアについて考えるワークショップをコンサートに組み込んだ企画です。一般に人口減少地域では、中高生が将来のキャリアをイメージするにあたって参考にするべきロールモデルの多様性が乏しくなる傾向にあります(いないのではないです)。そこで、多様な職務・役割を担い、仕事と音楽を両立させるという「生き方のモデル」そのものであるアマチュア音楽家の皆さんに、中高生と一緒にキャリアを考えてもらうワークショップを実施しました。当然、演奏者側もただ教えてあげるだけでなく、質問に答える中で自分の価値観も多分に揺さぶられていきます。そうして出来上がった関係性の中で練習をして本番を迎えるのが、このコンサートなのです。

別の言い方をすれば、アマチュアオーケストラには様々な課題についての当事者が存在しているということにもなります。精神保健福祉士がいれば今回のようなことが可能になるし、教師がいるためにすばらしい学校公演が可能になるかもしれない。通訳や外国語講師がいれば、公演案内や当日受付が多言語で対応できるかもしれないし、保育士ががいれば未就学児が楽しめるコンサートを本気で考えることができるでしょう。日々目まぐるしく動く社会におけるあらゆる分野の当事者たちが実際に中にいる団体としてのアマチュアオーケストラとは、音楽が社会の中で文化として続いていく限り、常に最先端のコンサートを提示することができるポテンシャルを実は有している音楽集団だと、僕は考えています。

僕はこうしたことを、当のアマチュア自身も強く自覚してよりよいオリジナルな音楽活動をどんどん広げていってほしいし、社会の側もその事実を知って、アマチュアオーケストラに期待と支援の目を向けてくれるといいなと思っています。そして何より、プロとアマチュアがお互いの持つ力をリスペクトし合ってあらゆる面で連携し、ともに音楽文化を進める主体となる世の中になることを願い、これからも僕は自分にできる発信を続けていきたいと思っています。

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