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バー・レイザー〜アマゾンジャパンの中途採用術 採用ミスを防ぐには? by もと中の人#4

ギリギリのヘッドカウントで事業を回すことが求められるアマゾン

アマゾンではどんなに事業が拡大していても簡単にヘッドカウント=人員数は増やすことはできません。毎年行われる事業計画立案時になぜヘッドカウント増員が必要なのかを事業計画と合わせて提出する必要があり、却下されることもしばしばです。
むしろ、生産性を高めるために「今より少ないヘッドカウントで事業を回すには何が必要か?」という問いに対しても事業責任者として答えを用意しておく必要があります。

事実、私は書籍事業を担当していましたが、紙の書籍から電子書籍への移行するタイミングで、売上が伸び続けていたにも関わらず、人員削減を求められたことがあります。また、アマゾンでは新たな事業が創出され、そうした事業に異動したい場合は自由に異動を申し出ることが可能です。その制度を利用して新しいキャリアパスを築いてみたいという希望を持ったチームメンバーが他部署に異動することもしばしばあります。そのメンバーが異動した後、すぐに他部署からの異動で補充されることはなく、その空いたポジションの採用を進めなければなりません。

つまり、余裕のある人員体制で事業を回すことができる状態、というのは稀なケースで、ほとんどの場合は1)少ないリソースで如何に効率的、効果的に事業に取り組むか、2)限りあるヘッドカウントでチームの生産性を高めるのに最適な人材を如何に獲得するか、この2点を常に考える必要に迫られます。

故に、ヘッドカウントの増員、あるいは欠員補充の採用は、事業において最重要課題であり、その採用をミスすると事業運営上、大きな痛手となります。よって、採用において最良の選択・判断を行うことが求められます。採用はマネージャーにとって仕事の多くを占める重要な業務となります。
「じゃあ、どうやって?」という問いに体系的、組織的に採用を進めていく仕組みがアマゾンにはあり、その一つがバー・レイザーという制度でもあります。

虎の子のヘッドカウント、すぐに採用をしたい
上記の通り、ヘッドカウントは常に足りない状態です。
自分が採用担当マネージャーになったら、多くの方は一刻も早く採用を決めたいと思うでしょう。私も同様に焦って採用を進めたいと考えたこともしばしばありました。少ないリソースで頑張っているチームメンバーが疲弊してしまわないか、などが頭に浮かび、応募者の方と面接でお会いしたらすぐに採用してしまいたい、と思ってしまいます。

ここに採用失敗の芽があります。確かに、新しい人材が加わる事でチーム全体の負担も減るでしょうし、戦力が増えた事でこれまで実行できなかったことが遂行できるなど、採用を迅速に行うことは非常に重要な事です。

しかし、スピードを重視するあまり、そのポジションに必要だと考えている人材が満たすべき能力や資質を下回る候補者を妥協して採用するのでは本末転倒です。採用を早く決めることで一時的にチームの頭数は増えて、こなせる業務量は増えるかもしれません。一方、チームのアウトプットの質が上がるとは言えません。むしろ中長期的にはチームの生産性は上がらず、採用前に期待していた投資効果が果たせていない、と言うことにつながってきます。そんな状態でさらに採用を増やしても本質的な問題解決には繋がりません。

さらに、チームや他部署とうまく連携し働くことができないなど、期待していた成果を上げることができない人を採用すると、マネージャーとしてそのリカバリーのためのサポートに多くの時間を費やし、その間はチームの負担も減るどころかむしろ増える場合もあります。そうした採用ミスによって、限られたリソースの中で事業を進めていくことで大きな支障となってしまいます。

Making Great Hiring Decision 〜採用判断は客観的視点を入れる
採用マネージャーの判断を中心に採用可否を決めると、どうしても偏った評価となってしまいます。自分が面接して気に入った候補者をすぐに採用したい、という気持ちになるのは理解できます。
しかし、そうした採用マネージャーの焦る気持ちを抑え、別の角度から候補者を評価する役目を設定することが重要です。アマゾンでは前述の通り、複数のメンバーで面接を行い、それぞれの質疑応答内容、それを踏まえた候補者の評価を基に採用判定会議を行います。
これによって、採用マネージャーの偏った評価だけでない採用判断を導くようにしています。私は、採用マネージャーとして部下を採用した経験もありますし、他の部署の採用にバー・レイザーとして携わってきており、両者の気持ちが非常にわかります。

採用マネージャーとしては、一刻も早く採用を決めたいと考えてしまいがちです。現に、私が一次面接を行い、この候補者の方なら、他のメンバーも採用に同意してくれるだろうと確信していた候補者であっても二次面接の結果、全員が採用に反対されたという経験もあります。反対に、バーレイザーとして面接に携わると、客観的に候補者の評価を行うため、採用マネージャーの意向とは異なり、採用に反対することも多く経験してきました。

採用判定会議
アマゾンでは、一次面接を採用担当マネージャーが行い、合格した方は二次面接に進みます。この二次面接で、バー・レイザー、その他面接担当官が面接を行います。面接後、担当したメンバーは必ず社内の面接フィードバック入力ツールに、候補者との面接を行なった後の評価を記入しなければなりません。

評価は、単に合格、不合格というだけではなく、自分が確認しなければならないリーダーシッププリンシプル、例えばCustomer Obsessionについて、その候補者は、募集しているJob Levelに期待したいレベルを超えているか、同じ部署の他のメンバーと比較して全体の平均よりも上と言えるか、などの評価を具体的事例を示して記載しなければなりません。そして必ずその候補者を採用する上でのPros/Consを記入することが求められます。(懸念のない候補者などいない、という原則に基づきます。もちろん、懸念以上に採用すべき素晴らしい点があれば、それが合否判定の決め手となります。)

全員の入力が確定したら、それらの評価を全て一覧で表示しながら、30分の採用判定会議を行います。司会進行はバー・レイザーが行います。合否判定が割れた時、何が懸念材料か、それを上回る利点が候補者にあるのか、を議論します。あるいは、全員合格判定であっても、数人の面接官が共通の懸念を示した場合、それが問題となりうるか、を議論します。

例えば、全員が合格判定であっても"Earn Trust"というリーダーシッププリンシプルに懸念を二次面接の担当者二人がフラグとしてあげていたとします。こうした場合、なぜ候補者の回答からそのような懸念が生じたのかを明確にしていきます。
その懸念が大きく、採用担当マネージャーも合格判定を覆し、不採用となった場合もあります。

懸念部分がクローズアップされ、その懸念が払拭されずに、バー・レイザーは不採用、担当マネージャーは採用、と言って議論が並行線のまま30分の時間切れとなってしまう場合もあります。原則として、バー・レイザーと採用担当マネージャーの意見が一致しない場合は、採用は認められません。

私は常々、採用判断に迷っているマネージャーには
「採用判断に迷ったら見送った方が良い。
必ずそのポジションに最適な人物は現れる」
と言って説得していました。

担当マネージャーがどうしても採用したい、様々な懸念も問題ない、早く空きヘッドカウントを埋めたいんだ、と強く要望した場合もバー・レイザーは「拒否権」を発動することができます。

それほど厳格な運用を行うことで採用ミスをできる限り少なくする、という仕組みを中途採用プロセスに導入しているのはアマゾンのユニークな点である、と言えます。

前回の投稿で、面接の中で「行動に焦点を当てるため」どのように掘り下げているのか?その基本テクニックについて書いてみます。としたのですが、次回に繰り越します。

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