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バー・レイザー〜アマゾンジャパン中途採用の舞台裏#13 Good Intentions don't work

今回はこれまで掘り下げてきたアマゾンのリーダーシッププリンシプルから少し離れて、別のトピックで書くことにします。表題のGood Intentions don't workというアマゾンで頻繁に引用されるジェフ・ベゾスの言葉です。

Good Intentions don't work, Mechanisms do.
この言葉の由来から紹介します。ベゾスがかつてアマゾンの全体集会でこの言葉を紹介した時のビデオアーカイブが社内向け教材として残っていました。ベゾスはかつてアマゾンのFC(Fullfilment Center、物流倉庫)に"カイゼン=kaizen"を導入しようと、トヨタOBのカイゼン担当者を招き、カイゼンに関するトレーニングを受けたそうです。一通りカイゼンに関するレクチャーを聞いた後、ベゾスはふと、講義を受けた部屋の隅にあったゴミを自ら拾って捨てたそうです。そこで講師がベゾスに「ゴミを拾ったことは素晴らしいけれど、ゴミが発生した原因・放置されていた原因を追求しなければ、ゴミは無くなりませんよ」と言ったそうです。

ビデオの中で「ゴミを拾う」という善意だけでは、問題解決にはならない。「ゴミが生じない」仕組みが必要だ、とベゾスは言い、"Good intentions don't work, mecanisms do."と言っています。例えばわかりやすい例を紹介しましょう。

トヨタには生産現場に「アンドンコード」という仕組みがあります。生産ライン上で問題がある場合、誰でもこのコードを引いてランプを点灯させて関係者に知らせる電光表示盤があります。作業者が異常に気づいた場合は、呼び出しボタンを押してアンドンを点灯させ、その工程で応援が必要なことを周りの人に知らせます。これを倣ったのがアマゾンの「Andon Cord」という仕組みです。アマゾンの顧客から同一商品について複数回クレームが発生した商品はサイト上のショッピングカートが購入不可表示に切り替わってしまいます。

何か問題が生じたときに「以後、注意します」は信用できるか?
仕事上、何かミスを犯してしまった時、間違いが起こった時に「これからは注意します」「これからは気をつけます」で済ませてしまうことがよくあるかと思います。あるいは、「これからは一人で確認していたのを、もう一人の人に手伝ってもらってダブルチェックします」なども反省の弁としてよく聞かれます。

アマゾンでは大抵は、「それってGood Intentionだよね」と切り返され、ミスや間違いを咎めるよりもその問題が発生した根本原因が何で、どうやったら2度と同じミスが起こらないか、プロセスの見直しを迫られます。その場合、今まで行ってきた業務フローの見直し、新しいシステムの導入なども含めた対策が必要とされます。

私の失敗談をお話しします。あるアンケートに答えるとギフトカードをプレゼントする、というキャンペーンを企画し、週末にスタートしました。ところがこれが予想超える応募が土曜日、日曜日にチェックしないうちに大量にきていました。Customer Obsessionを理由に、予算を超えても応募者全員にギフトカードをプレゼントする、という判断になったのですが、これを教訓に、こうした企画を行う際は週末に行わない、事前に上長やカントリーマネージャーの承認を経ないと開始できない、という新たなプロセスが導入されました。(そしてその後プレゼントで生じた利益損失のリカバリー策も必死になって実行しました。)

Mechanismとは何か?
アマゾンでは、問題解決のMechanismとは以下の4つのパートに分けて考えていました。

  1. Process
    たとえ短いプロセスであってもそれが正しい順番であるのか、そのプロセスが実現可能なものであるか、を念頭に置いて組み立てること。

  2. Tool
    Sharepointを使おうが、エクセルのto-doリストを使おうが、あるいは立派なERPシステムを導入しようが、上記のプロセスが可視化できるように整えること。ユーザーが正しいことを実行できるようにガイドできるものであること。

  3. Adoption
    上記のツールには必ず担当者が例外なく全員参加することが求められる。参加できないような状況であればそれはプロセスかツールに問題があると考えること。

  4. Audit
    上記が出来上がったらそれで終わりではなく、プロセス、ツールが正しく機能しているか、全員参加できているかを常に監視、チェックする必要がある。

中途採用におけるバー・レイザー制度の導入もMechanismのひとつ
「中途採用におけるベストを追求する」という課題意識に対して導入されたプロセスが「面接時に他部署のバー・レイザーの客観的視点を必ず入れる」です。その運用のために「面接後に候補者へのフィードバックを入力するツールに必ず登録をし、採用・不採用の判断を事前にインプットする」が徹底されています。
そのツールへの入力が必ず面接者全員から行われているか(アダプション)、あるいはバー・レイザーが関わった面接で採用された候補者のその後の社内での活躍度合いが数値によって示され、バー・レイザーによる採用のサポートが正しく機能しているか、バー・レイザーコミッティーによってチェックされます(オーディット

面接時における「Good Intention」の見極め
面接時に「仕事上で大きな失敗をしてしまった時のことを教えてください」という質問をした時に、確認するポイントのひとつが「Good Intention」です。みなさんはそれぞれ失敗の経験をお持ちで、失敗の内容自体は詳しく語ってくださるのですが、その失敗はなぜ生じたのか、どのように改善策を導入したのか、を掘り下げていくと、「そういうことがないように以後気をつけていました」と回答する方がいます。そういう場合、私は採用判定のイエローフラグを立てていました。軽度のミスの場合は、そうしてしまいがちだと理解はできるのですが、そうした軽度のミスに限って、目に見えない水面下に大きな問題があるものです。人間のやることはミスが生じるということを前提に、何が根本的な問題がミスの背後にあるのかを普段から疑ってかかることは大切な態度だと思います。


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