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第三章 リーダーは風土メーカー

第一章では、リーダーになるために対人影響力を身につけることが大切であると述べました。

では事業部内で影響力を得るために最も適した行動は何でしょうか。基本事項を徹底して信頼を得る、他者との約束を守る、他者のフォローができるなど多数の例を挙げられますが、私が絶対にこだわって欲しいのは、「会議での発信」です。

今は事業部の中で、会議をどのように位置づけていますでしょうか。働き方改革が叫ばれる中で、ともすると「会議」は時間削減の対象として選ばれてしまいます。ただ話すだけなら、2週に1回、または月に1回で良いと声が挙がることもしばしばです。

「無駄な会議は極力減らそう」というパワーワードの元に、会議にこだわりがない役職者だとその勢いに押されかねません。


伊賀泰代氏の著書『生産性』によると、会議の達成目標は次の5つに整理されています。

一、決断すること
二、洗い出しすること(リストを作ること)
三、情報共有すること
四、合意すること=納得すること=納得してもらうこと
五、段取りや役割分担など、ネクストステップを決めること

恐らく多くの企業において、これらの5つの分類は納得されるところだと思います。

ただ、実はもう一つ会議には大事な役割があると私は考えます。それは、「方向性を発して、事業部の風土をつくること」です。私が会議の位置づけにそのこだわりを持つようになったのは、専門学校現場で、社会人の卵40名の担任をしていた頃の体験が元になっています。

専門学校は「社会人育成の場」という位置づけがあるため、卒業までに社会人としてのマナーや姿勢を、学校生活の中で身につけていく必要があります。そのため、担任は毎週のホームルームでどんな発信をするのか、そこでクラスマネジメントの成否が大きく変わります。

担任はホームルームを迎えるまでの1週間の生徒の様子を見ながら、どんな話をしたら、理想としているクラスのあり方に近づいていけるのか試行錯誤しながら発信していきます。

私が若手社員の頃は、クラスとして到達したいビジョンも、こうあって欲しいというクラスのあり方も、信念として持っていませんでした。

自分が社会人として未熟であったために、どんな社会人を育てていきたいかというイメージを持てていません。「信念」の定義は、その信念から外れた言動を取る人がいた場合、とても気になってしまうほどこだわってしまう事柄を指します。信念があるのとないのとでは、クラスにどのような影響があるか例を挙げていきます。自分が担当したクラスの生徒に、次に挙げる3つの特徴があったとします。

一、人から物を受け取るときに、片手で受け取る
二、人の話を聴く上で、目を合わせない
三、挨拶のお辞儀を終えた後、お互いが顔を上げた後には目が合わず、既に違う方向を見ている

Aさんという担任は、一の例では社会人としてどうしても気になるので「両手」で受け取るべき、二から三の例では必ず目を合わせるべきだという信念があったとすると、自クラスの生徒全員が徹底できるようになるまで、毎週のホームルーム、またはできていない場面でタイムリーに指導していきます。

かたやBさんという担任の元では、二の例については信念があるけど、一と三に挙げた例についてはそこまでこだわっていない状況だとします。この場合、Bさんが担任の元では、一と三についてはいつまでも徹底できないクラスができあがります。担任のルーズな面に生徒が似ていくのです。新入社員が教育係の先輩社員に似ていくと言われる理由がここにあります。

私は大学時代にあまり真面目な学生ではなかったため、「毎日学校に行く」ということに対して、信念がありませんでした。そのため、学校を休む生徒に対して、他の担任と比べたら寛容なところがありました。すると、みるみるうちに生徒たちの出席率が低下し、他のクラスは毎日意欲的に生徒が通っているにもかかわらず、私が担任していたクラスは、大切な行事すらも大半の生徒が欠席してしまう風土が出来上がってしまったのでした。

若手の頃のそのような苦い経験から、私は以下のようにクラスのマネジメントのあり方を変えました。クラスとして到達したいビジョンを持ち、細かいところまで信念を磨き上げて、気になるところは毎週のホームルームで発信していくことで、生徒たちは毎日学校に来て、卒業したら一緒の職場で働きたいと思えるほどの人材に育て上げることができたのでした。

これまで例に挙げた専門学校現場におけるホームルームが、企業における「会議」だと私は位置づけます。クラスとして到達したいビジョンとは、事業部として到達したいビジョン。こちらを年度初めの会議、または期の初めの会議で、役職者が自ら考えた内容を発信いたします。

絶対にやってはいけないのは、会社や役員から与えられた上位方針に関して、送られてきた資料をそのまま共有するだけの発信です。これは信念を持たずに担任した私のクラスと同じ過ちを犯すことにつながります。必ず自分の言葉に変換して発信してください。

そして、発信しただけで終わらないようにするために大切になるのが、そのビジョンを達成するためには、メンバーにどうあって欲しいのかという指針です。この指針については、節目の会議で発信するだけでは浸透しません。

何を重点的に繰り返して伝えるかという「頻度」と、何について事例を交えながら深掘りするかの「深度」を意識しながら、会議の場、日常の中、あらゆる場面で発信していきます。

ではどうすれば、会議の場で気づいたことを発信していけるのでしょうか。ここからが、この章で一番お伝えしたかった内容です。まずは手法としてのお勧めは都度発信したいことを、「思いついた時に即刻」手帳を開き、会議がある週に転記していくことです。

手帳ではなく、デジタル派の方は、パソコンやスマートフォンへのメモでも構いません。私は会議当日までの日々の中で、個別でのメンバーとの対応だけでなく、全体に共有した方が良い価値観があれば、その場で手帳にメモを行うようにしています。どんなことをメモしているか、ご紹介します。

・依頼物は、依頼しただけで終えずに完了確認まで徹底すること(課題)
・相談者は、「どうしたら良いですか」で終えずに、自分の見解を伝えて可否について尋ねること(課題)
・今の時期は、既存顧客のフォローはもちろん、新規顧客への電話がけに労力をかけて欲しい(方針)
・Cさんの話を聴く姿勢が素晴らしいと取引先から連絡があった(賞賛)
・新しい業務が多々入ってくる中で、前向きに取り組む皆と働けて、改めてうちはすごいと思った(鼓舞)

これらの例にあったように、課題、方針、賞賛、鼓舞を、その時々の事業部の状況に合わせて、まずは上司が発信していきます。

会議で必ず発信するという役割を自らに課すと、事業部を見る目が変わります。特に賞賛については、意識して見つけないと事業部の課題ばかりが目についてしまいます。

こういった発信を通じて、事業部の雰囲気をどんどん前向きに変えていき、一人の上司の声掛けでチームとしての成果が変わる様子を部下に見せていきます。否、魅せていきます。

そうであれば、「上司に魅力がないから憧れない」という部下は必ず減らせます。「会議の位置づけを明確にして、自らが発信する役割を担い、事業部に良い風土を作れるように日々のチームの状況にアンテナを張っていく」ために、気づいたことを記録する習慣を身につけましょう。まずはあなたが風土メーカーになってください。

次の章では(賞賛)や(鼓舞)を、なぜ部下たちの前で発信する必要があるのか触れていきます。

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リーダ―育成・事業部再生コンサルタント

本間 正道
twitterID:@masamichihon

Email:playbook.consultant@gmail.com

著書『リーダーになりたがる部下が増える13の方法』


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