見出し画像

宣伝費ゼロのバズらせ会議

大学を卒業した1993年の春、コピーライターとして広告代理店に入社した。1999年にラジオドラマで脚本家デビューしてからも二足の草鞋を履き続け、入社12年目の2005年の初夏、『子ぎつねヘレン』のロケに間に合うタイミングで会社を辞めた。

入社した頃にはなくて、辞める少し前頃からプレゼンに登場するようになった言葉が、口コミを意味する「buzz(バズ)」

外資系企業だったのでプレゼンも横文字(カタカナ)多めだったが、口コミにのせて流行らせる「バズマーケティング」という概念が本社のあるアメリカから輸入されたのだった。

「バズる」が動詞として定着している2020年よりずっと前。見慣れない言葉に、「バスじゃなくてバズ?」と聞き返されたりした。

「宣伝費とリーチは比例する」をひっくり返す

「CMを打つほど名前を覚えてもらえ、知られるほど商品が売れる」というのが広告の常識で、広告キャンペーンのプレゼンでは、「何週間以内にこれだけの認知率を稼ぐには、CMはこれぐらい投下し、新聞広告や雑誌広告で補強しましょう」という目標からの逆算で組んだメディアプランを提案していた。限られた予算で最大限かつ期待以上の成果を上げるために「名前を覚えられ、印象に残るCM」を考えるのが、われらクリエイティブの仕事だった。

学校で、職場で、飲み会で、「あのCM見た?」と話題になり、CMソングが口ずさまれ、キャッチコピーが流行語になる。テレビで流れたその先の拡散力が大きいと、費用対効果は上がる。

その口コミの波及範囲が、インターネットの普及で水たまり級から大海原級へ一気に拡張した。何万人も読者がついている(当時は5桁でもすごいことだった)人気ブロガーがブログに書けば、商品が動くようになった。

「宣伝費をかけなくてもバズを起こせたら商品が売れる」時代になった。

Twitterが日本語版サービスを始めたのが2008年。facebookの日本法人の設立が2010年らしく、わたしが広告業界にいた頃のバズにはSNSという概念はまだなかった。発信力のあるインフルエンサーのアンテナに引っ掛けて、そこからの拡散を狙うというのがバズの成功イメージだったように思う。

広告業界を去っても、脚本で関わった作品の告知は続けているから、広告宣伝には関わり続けている。この15年で大きく変わったのは「SNSでのバズ効果」だ。宣伝費をほとんどかけられない小さな作品でも、Twitterやfacebookで話題になり、ロングランや再上映につながる例がいくつも出てきた。これまでなら埋もれていた作品に光が当たる機会が格段に増えた。作品の送り手にとっても、受け手にとっても幸せな時代になった。

ただし、何がバズるかわからない。打率を上げる法則を見つけた人もいるかもしれないが、わたしはまだ見つけていない。バズらせたいものはバズらず、意外なものがバズる。2018年1月5日公開の『嘘八百』のことをせっせと呟いてもRTといいね合わせて2桁行くかどうかだった頃、低温からじわじわ揚げるさつまいものおいしさを呟いたらバズった。

RTといいねを合わせて5万近く。インプレッション(ユーザーがTwitterでツイートを見た回数)は200万回を超え、行く先々で「見てますよ、いも」と声をかけられた。ネットニュースの掲載依頼が3件入り、「『嘘八百』の紹介も入れてもらえるとうれしいです」と便乗した。

「一緒に脚本を書いた足立紳さんと、このイタリアンいもを食べたんです」

「さつまいもは出てきませんが、土は掘ります!」

いもと『嘘八百』を結びつけて売り込んだ。

いもから作品を知って実際に劇場に足を運んでくれた人がどれだけいたかはわからないけれど、「いもがバズっても映画の宣伝をできる」ことを学んだ。

一人一人がメディアになれる時代

広告代理店にいた頃は、「メディア予算が1億円を切ると平面媒体止まり」という感覚があった。つまりCMを打たずにポスター、新聞、雑誌などの平面広告に予算を集中させる。今ならCM(の値段も枠によって差はまちまち)1本流す予算があれば、ネット広告で動画をバンバン流せる。CM1本分の予算すらなくても、TwitterやfacebookやYouTubeに動画を上げられる。一人一人のSNSアカウントがメディアになれる時代になった。

今かかりっきりになっているのは、ユニバーサル・オーディション「ルーツ」第1回公演の宣伝。公演は10/17.18に行われ、「生配信」と「劇場」(新宿サンモールスタジオ)の観劇チケットを売り出している。

※追記。公式発表の通り10/18の「ルーツ」公演は急遽中止となり、公演は10/17のみ行われました。公演完結の日まで「ルーツ」を知っていただく時間をもらえたと考え、引き続き宣伝を続けます。

キャストはオーディションで808人から選ばれた42人。立ち上げ人のプロデューサーや映像ディレクターや演出家、脚本開発から参加しているわたしや演出家や募集で集まった演出助手を含めると90名超え。さらに公演当日のMCも募集で決まり、作品製作に関わってくれた人も加えると、百人を超えそうな勢い。その一人一人がTwitterやらfacebookやらinstagramやらYouTubeやらTikTokやらで「ルーツ」のことを発信したら、足し上げるとすごい露出量になる。

しかし、足し上げだけではCM1本の訴求力に勝てない。掛け合わせで増えていかないと広がらない、届かない。それでも、自分に近いところからアンテナに引っかかる人を増やしていくと、どこかで点と点がつながり、線になり、面になっていく。

先日、足立紳さん(原作・脚本・監督作品『喜劇 愛妻物語』絶賛上映中)と『嘘八百 京町ロワイヤル』公開の1月末以来に会う機会があり、「ルーツって何ですか?」と聞かれた。「ルーツをご存知ですか!」と驚いたら、「今井さんがよく呟いているから」と言われた。「以前ワークショップ受けてくれた役者が何人か参加しているんですよ。外山監督も参加されてますよね?」そこまでもチェックしてくれていた。そう言えば、「ルーツ」に脚本・演出で参加している外山文治監督と初めて会ったのは、外山監督の短編作品の上映会のトークゲストに足立さんが登壇した回を観に行ったときだった。

見ている人は見ているし、引っかかる人には引っかかる(役者の皆さん、どんどん呟くべし!)。百人がかりでそれぞれの「ルーツ」を呟いたら、点が線になり面になり立体になるかもしれない。

金はないが熱はある「ルーツ」!

連日「ルーツ」のことを呟きつつ、上演作品の稽古をしている。商品を作りながら宣伝をしている状態。走っている後から燃料がついて来るような猛進集団で、わたしが加わった日からどんどんギアを上げている印象がある。予算はないが、熱はある。各自の熱量が動力になっている。互いから受ける刺激や観劇も熱源になっている。宣伝費の単位が¥ではなく℃やJ(ジュール)だったら、「ルーツ」の宣伝予算は億(円)単位の大型作品に負けてないし、国家予算だって超えているかもしれない。

この熱量でリーチを稼ぎ、チケット購入につなげたい!

バズらせの法則はつかんでいないけれど、オーディション締め切り前に書いたnote《あなたの役をあなたと創るユニバーサル・オーディション「ルーツ」》が1万ビューを超え、その中にオーディションに応募して1次審査を通過した人がいたので、心に訴えかけて広まるnoteのチカラを信じて、このnoteを書いている。

何がバズるかわからないように何が響くかもわからないが、何かが響いた人から次の誰かに「ルーツっていうのがあって、10/17.18に公演やるよ」が渡されていくことを願っている。

逆オーディションから生まれた20通りの物語

普通、舞台や映画を観に行くとき、「誰が出ているか」でチケットを買うかどうか決める人が多いと思う。

「ルーツ」に寄せられた808人の応募から1次審査で100人に絞られ(4人辞退して96人に)、zoomによるヒアリングとワークショップの2次審査で43人に。さらに追加のヒアリングを経て「全員合格」が発表された。そのときの動画がこちら。

1人の辞退があり、合格者42人(顔出し41人と声のみ1人)に。ヒアリングで引き出されたそれぞれの人生を元に20通りの物語が組まれ、10/17.18の「ルーツ」第1回公演で披露されることになった。

この「役に合った人をオーディションで選ぶのではなく、オーディションで選ばれた人から役が生まれ、物語になる」というのが「ルーツ」のユニークなところ。Twitterで「逆オーディション」と呼んでいる人がいて、なるほどと思った。

演技経験も見た目も性別も不問だから「ユニバーサル・オーディション」と名乗っている。

「春」「夏」「秋」「冬」の喜怒哀楽爆発劇

合格者の顔ぶれを見て、それぞれの人生を聞いて(ヒアリング動画をひたすら観た)「日本は広い」と思った。

20通りの物語が「春」「夏」「秋」「冬」の4チームに分かれて上演されるのだが、四季折々移ろう景色さながら、各チームの色と各作品が見せる表情が実に多彩。それぞれのタイトルとあらすじを眺めると、脚本家や演出家の頭から生まれた物語には出せない方向性のバラけ具合とそれぞれのトンガリ具合が刺激的で、予測不能で、フタが閉まらない豪華弁当みたいなことになっている。

わたしは2作品の脚本を書いた。

「運命のテンテキ」(10/18「秋」チーム  事前収録作品)
演出 長濱周作
出演 井澤こへ蔵 永田貴椰

点滴を一度もうまく打てなかった新人看護師に俺は恨みしかない。まさかその彼女と再び出会うなんて!最悪で最高のファムファタルとの運命論。
「私じゃダメですか?」(10/18「冬」チーム 劇場実演作品)
演出 アロム奈美江 配島徹也
出演 
織田美織 新野七瀬 松井るな
エキストラ、スタンドイン(代役)、付き人。スターという光を取り巻く「影」として生きる三人の女は「光」をつかめるのか?涙を強さに変えた女優たちの魂の叫びを聞け!

設定は演者のルーツを踏まえた半フィクション。それぞれの作品で本人が本人役を演じている。合格者たちのヒアリング動画を繰り返し見て、「この人とこの人がこの場面で出会っていたら」と妄想を膨らませた。

「運命のテンテキ」出演・井澤こへ蔵さんがYouTubeで「ルーツ」と出演作を紹介。

軽快なトークなのに、なぜか演出家の名前を派手に噛むこへ蔵。そんなとこが可愛い。

わたしは『子ぎつねヘレン』プロデューサーの石塚慶生さんに声をかけてもらい、「ルーツ」に参加したのだが、こへ蔵さんは小学生のときに『子ぎつねヘレン』を観たのをとても覚えていて、当時の自分に「将来その脚本家に脚本書いてもらうで」と言うたりたい、と(9分過ぎ)。つながるルーツ。「運命のテンテキ」もそんなお話。

「私じゃダメですか?」の舞台は化粧品のCM撮影現場。わたしの広告代理店時代の実体験も脚本に盛り込んだ。主役になれなかった女優3人の話だが、「私」は「選ばれなかったすべての人」だと思っている。プロジェクトやクレジットから外された脚本家であり、レギュラーになれなかった運動部員であり(演出の配島徹也さんは高校のサッカー部時代を思い出し、初稿を読んで号泣したらしい)、恋愛対象になれなかった人であり、コンクールやオーディションで涙をのんだ人であり。「どうして私じゃダメなんだろ?」「あの人と何が違うんだろ?」と思ったことのある人、それでも諦めきれない人に、ぜひ観て欲しい。

レッドカーペット目指してクラウドファンディングも

すでにおなかいっぱいのところ、もうひとつ、「クラウドファンディングやってます」のご案内を。10/17.18の「ルーツ」第1回公演はゴールではなく通過点。目指すのはその先、合格メンバーで映画を作って国際映画祭に出品すること。

想いだけでも読んでください。支援はもちろん気持ちを寄せてもらえることも、走り続ける「ルーツ」の燃料になります!

共感したら、ぜひ広めてください。このnoteを「スキ」したり「オススメ」したり、あなたのメディアで紹介していただくのも大歓迎。「ルーツ」と響き合うどこかの誰かに届くことを願って!




この記事が参加している募集

イベントレポ

目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。