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あなたの役をあなたと創るユニバーサル・オーディション「ルーツ」

ユニーバーサル・オーディション「ルーツ」(8/7まで応募受付中)をご存知だろうか。

知る人ぞ知る、というか、公式Twitterのフォロワー数を見ると、まだまだ知られていないっぽいが、公式サイトのトップページの「審査員・脚本家」をクリックすると、わたしの名前が出てくる。

映画プロデューサーの石塚慶生さんから「今こんなこと考えているんですよ」と企画のあらましを聞いて、「面白そうですね」と身を乗り出したら、首も足も突っ込んでいた。

つまり関係者。存在は知ってて当然だけど、理解はふんわりとしていた。

「ルーツ」って何?

エンタメ界のあれこれが一斉に飛んだり止まったりした自粛期間。「映画」の人である石塚さんが「演劇」の人たちとzoom飲み会をして、ぽっかり空いた時間と持て余した熱量を共有するうち、「一緒になんかやりたいね」という話になった。「こんなのどう?」「こうしてみたら?」「いやいや、こっちだ」とリモートで杯と議論を重ねて生まれた形が「ルーツ」らしい。

オーディション合格者の「これまで」をヒアリングして、それをもとにした短編演劇を脚本家(わたしの出番はここ)・演出家と共同で開発し、本人が演じる。その上演を配信する。そこまでをひっくるめて「ルーツ」。

タレント新人オーディションで「原石を発掘」と言ったりするが、「ルーツ」では「原石」とともに上演作品の「原作」も掘り出す。「原作を秘めた原石」と言うべきか。今の自分を作っている体験や出来事から物語を引き出し、解き放つ。

自分の原点、表現の原点に立ち返る企画。まさに「ルーツ」。石塚さんの話と公式サイト公式Twitterから、そんな風に理解した。

企画を立ち上げた他の方々のお話も聞いてみたいと思っていたところに、「皆さんの質問に審査員が答える生配信をやります」とお知らせがあり、7月24日(土)21時からの【緊急生配信】ルーツって何?あなたの質問に答えますを視聴した(アーカイブ残ってます)。

他のオーディションと何が違うの?

「芸能事務所に入れますか?」「芸能界デビューできますか?」といった質問が寄せられているが、「オーディションで選ばれたら事務所もデビューも約束されているというものではない」という説明がまずあった。

やりたいのは、どこかにいる誰かと一緒に作品を作ること。その出会いの場所が「ルーツ」。今だから生まれる縁、生まれる体験、生まれる作品。それがどんなものになるのか想像はつかないけれど、ワクワクしている……。

と私的要約。

この企画を立ち上げた人たちの、「作り手になる前のかつての自分」と応募者を重ねるようなまなざしの温かさと想いの熱さ。それが、放たれる言葉にのせて、Wi-Fiにのって、はじめましてのわたしのパソコンに届く。やっぱり活字を追うより生の声を聞くほうが話が早い。

表現の世界は自分で切り拓いていかなきゃいけない。切り拓いたその土地を守れるのか、広げられるのかも自分次第。企画を立ち上げた審査員たちは、そのことを痛感している。 

同世代のライバルでもなく、勢いのある新人でもなく、まさかウイルスに活動の場を奪われようとは予想していなかったし、これがいつまで続くのか見通しの立たない2020年の今だから、華や運だけじゃなく、踏ん張って咲き続ける根っこを求めているのではないだろうか。と勝手に合点して、パソコンの前でうなずいた。

「役がない」オーディション

ライブで審査員に直接質問したい、と飛び入り参加の大学生の女の子が画面に現れた。子役をやっていたという彼女は、オーディションでどんな役を得られるのかを具体的に聞いてきた。

自分の役があるのか? どんな役なのか? どれくらい真ん中に行けるのか?

応募者が気になるのはそこなのだと、質問が明文化してくれる。

それに対して「オーディションの時点では、役はない」と答えがあった。そこが「ルーツ」のユニークなところなのだと。

役のために太ったり痩せたり英語をアピールしたりバレエを披露したりする必要はない。役に自分を寄せるのではなく、自分から役を引き出し、作る。

役はない。あなたが選ばれてから、あなたと作る。

「自分にあて書きしてもらえるということですね?」と飛び入りの女の子は言った。

「あて書き」とは、演じ手を想定して書くこと。サイズもデザインもぴったり合うオーダーメイドの服を仕立てるように、その人が演じることで役も演者も引き立つようにキャラクターを造形し、セリフや動きを紡ぐ。

さらに、「ルーツ」では、物語の原材料も演じ手から仕入れる。

ももクロ総出演クリスマスドラマ「天使とジャンプ」(2013 NHK)は、ももクロの一人一人と面談して聞いた話を元にキャラクターを作った。「未来をスケジュール帳に書き込んでおく」「カップラーメンの3分が待てない」といった設定、エピソードやセリフの多くも面談で聞いたことを引用したり膨らませたりしている。本人たちの体験、存在そのものが原作だった。

開拓型オーディション

「天使とジャンプ」の劇中に「場所がなければ、作ればいい」というセリフが出てくる。再結成したアイドルグループが活動再開のライブを開こうとしたら、会場の予約ができていなかった。さあどうする?となったとき、自分たちで会場を作ればいいんだと気づく。廃業になった銭湯がライブ会場に生まれ変わる。脚本会議では「開拓」と呼んでいた。

「ルーツ」も開拓型オーディションと言えると思う。射止めるのは「用意された役」ではない。「まだない役」を開発する権。しかも、原作は自分自身。自分の中にある鉱脈を演出家や脚本家と一緒に掘り当て、光を当てたり彫刻したりして、作品に仕立て上げる。その作品を、演じ手である自分自身とともに世の中に放つ。

レールが敷かれ、乗り物が待ち受け、あとは誰が座るかというオーディションではない。どんな乗り物になるのかは、オーディションの結果選ばれるあなた次第だし、もしかしたらレールを敷くところから一緒にやりましょうという話かもしれない。

公式Twitterによると、

8/16発表の選抜メンバーに選ばれると、
①8月中旬からプロの演出家による演技ワークショップが無料体験できる
②10月17,18日開催予定の「リモート演劇公演」に出演できる
③2021年に撮影・公開予定の国際映画祭向け『長編映画』に出ることができる

とのことなので、少なくとも土地は確保できている。地ならしまではできている。脚本開発から参加するわたしは、まっさらなその土地に開拓者が現れるのを待ち受けている状態と言えるだろうか。

ここで何する? ここをどんな眺めにする?と。

脚本家も開拓者だ。

どうなる脚本開発?

本人が原作といえば、映画『嘘八百』シリーズの「利休の追っかけ学芸員・田中四郎」もそうだ。強烈すぎる堺市博物館の学芸員・矢内一磨さんを見て、武正晴監督が脚本にない「学芸員」を登場させようと思いつき、改訂の度に役が膨らみ、塚地武雅さんの「暑苦しい本人を上回る熱演」を得て名物キャラとなった。

写真は、堺市役所展望ロビーでの『嘘八百』パネル展にて塚地さん演じる学芸員(写し)とのツーショットを指差す矢内さん(オリジナル)。

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詳しくは「一を聞いたら十しゃべる学芸員の矢内さんは自粛に耐えられたのか」に書いたが、この記事に登場する矢内さん伝説は、どれも強烈で、それぞれから短編演劇を作れそうだ。演出家や脚本家が違えば、食指が動くエピソードも変わってくる。わたしなら、矢内さんのおしゃべりを一人で受け止める重みに耐えかねて「今日からこれを私だと思って」と夫人が象のぬいぐるみをプレゼントする話を選ぶ。それをコメディにするのか、シリアスに持って行くのかも好みは分かれる。夫人のキャラクター、セリフの言い方により、笑いと悲哀のさじ加減は変わる。

7/24の緊急生配信の中で、「演じ手としてではなく、製作過程に参加できますか」という質問が寄せられていた。オーディション合格者へのヒアリングから何を抽出し、どう組み立て、どう膨らませるか。それをどう演出するか。脚本が彫刻される過程に立ち会うのは、脚本家や演出家を目指す人たちには勉強にも刺激にもなると思う。もちろん演じる人たちにとっても。

そう言えば、「真夜中のアンデルセン」という市村正親さんの一人芝居を書いたとき、アンデルセンの自伝を読んで知ったのだが、アンデルセンが戯曲を書いていた時代、「本読み」と言えば、役者が読み合わせをすることではなく、「作家が脚本を読み上げ、手本を示すこと」だった。書き手は演じ手であり、書くことと演じることは一体だった。

2002年NHK夏の特番にて1回だけ放送された「真夜中のアンデルセン」。NHKアーカイブスのfacebookページに動画が上がっているのを発見。やってることは「短編演劇の上演を映像で配信(放送)」だから「ルーツ」にも通じる。

物語が飛び立つとき

わたしのルーツを遡ると、お楽しみ会(教室で開かれるミニ発表会を大阪のわたしの小学校ではそう呼んでいた)での自作自演一人芝居にぶつかる。小学3年生ぐらいだったと思う。毛糸でつなげた画用紙の羽根をまとった両手を羽ばたかせ、「飛べない。飛べない」と嘆くニワトリを演じた。「これどうしたらええん?」となった教室のなんともいえない空気は忘れられない。なんであんな芝居をやろうと思い立ったのかは我ながら謎だ。飛べないニワトリは滑ったけど、あの日、わたしから物語が飛び立った。その続きに、今のわたしがいる。高校の文化祭で脚本や演出や主演をやったのも、あの日のニワトリが産んだ卵なのだろう。

この先、「ルーツ」に関わる中で、いくつもの「あの時のあれが今のこれの根っこになっていた」に気づくことになると思う。自分のルーツに向き合い、掘り下げる。「challengeの中にはchangeもchanceもある」と「キナリ杯というドア」に書いたが、「ルーツ」は応募者だけでなく、審査員・脚本家にとってもchangeとchanceを孕んだchallengeだ。

授賞式に顔出して終わりじゃない。まっさらな土地にどんな人が現れるのか。その人が何を担いで来るのか。

わかっているのは、その先がどうなるかは開拓者次第ってこと。

他力本願じゃなくて、だけど自分一人で完結しないで、一緒に作品を作れる。「自力本願、他力満願」な人が「ルーツ」を面白がれて、面白くもできるのでは。これも審査員、脚本家によって言うこと違うだろし、とらえ方も楽しみ方も関わる人の数だけあるのが「ルーツ」なんだと思う。

まずは、「ルーツって何?」と立ち止まること。近づいてみること。

そもそもステイホームがなければ多分生まれなかった企画。見つけてもらわなくちゃすれ違いのまま。縁あってアンテナに引っかかって「ルーツって何?」となった人、そのまま身を乗り出して、わたしみたいに首も足も突っ込んじゃってください。その先の開拓地で待ってます。

そして、観客として興味を持った人、今から「ルーツ」を追いかけておくと、完成した作品を何倍も楽しめるかと。ギャラリー多いほうが開拓者も張り合いあるし、「ルーツ」の根っこ、どんどん広げたい。見てくれる人が集まるほど、おもろい花が咲くんとちゃうかな(自分のルーツを辿っているうち心が里帰り中)。

「ルーツ」公式チャンネル(登録してな!)

「ルーツ」公式Twitter(フォローしてな!)

「ルーツ」公式サイト(見てみてな!)

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コメント (2)
役者志望の甥っ子にこの記事をシェアしたところ、すんごい「刺激」になったそうです!
気持ちが拡がってゆく記事をいつもありがとうございます!
鏡心の短歌⭐︎麻千子さま、役者志望の甥っ子さんにシェアしていただき、ありがとうございます。届いてうれしいです!

コンクールもオーディションも知ることから縁が始まります。誰かのきっかけに、誰かの刺激になるかもしれない出会いの種。もっとたくさん、もっと遠くへ届けたいと思っています。

「気持ちが拡がってゆく記事」
わたしへのエールもありがとうございます。復唱したくなる素敵な言葉。
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