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5か月ぶりの寄席を出たら現実が落語みたいになっていたので新作落語を書いてみた

今井雅子作「鳴り物入り」

プレミアム「おい、そこの若ぇの」
ワーケーション「わ。わあっ」
プレミアム「見慣れない顔だね。新入りかい。名はなんだ?」
ワーケーション「わ、わ……」
プレミアム「なんだよ。さっきから『わ』しか言ってないね」
ワーケーション「……ワーケーション」
プレミアム「ボソボソしゃべるんじゃないよ」
ワーケーション「……ワーケーション」
プレミアム「若ぇ衆だってのは見たらわかる」
ワーケーション「だから名前が……」
プレミアム「名前が若ぇ衆なのかい?」
ワーケーション「(ブツブツ)違うんだけどそういうことで……あの、ここは一体……?」
プレミアム「ここは鳴り物連中の吹き溜まりさ。人呼んで、鳴り物墓場」
ワーケーション「鳴り物墓場?」
プレミアム「鳴り物入りで華々しく世に出たもののパッとしなかったり足元すくわれたりしたヤツらが成仏できないでやって来るのさ」
ワーケーション「でも、ぼく、まだお披露目されたばかりで……」
プレミアム「ならお前さん、生き霊だな」
ワーケーション「生き霊?」
プレミアム「鳴り物入りで送り出されたが、世の中はお呼びじゃない。肩透かし食らって、寄る辺なく彷徨ううちにここに流れ着いたってわけだ」
ワーケーション「はい。まさに、そんな感じです」
プレミアム「そこにいる娘も同じ匂いがする。あんた名前は?」
おもてなし「お、も、て、な、し」
ワーケーション「お、も、て、な、しって、まだ出番が控えているじゃないですか?」
プレミアム「おう、そうだよ。あんたこれから本番じゃないか」
おもてなし「う、ら、も、な、し」
プレミアム「確かにウラは取れてない。この先どうなるか、なんとも言えねぇな」
おもてなし「う、ら、め、し、や」
プレミアム「希望は捨てちゃいけないよ。あんたが表舞台に立てる日が来たら、思いっきり、いいとこ見せてやりな」
おもてなし「あ、り、が、た、や」
ワーケーション「わ、行っちゃった」
プレミアム「かわいそうにな。あんなに張り切ってたのにハシゴ外されちまって、宙に浮いたままだ」
ワーケーション「ほんとだ。浮いてますね」
プレミアム「若ぇ衆、あんたもだよ」
ワーケーション「わわっ、ほんとだ!」
プレミアム「鳴り物入りでお出まししたのに、見かけ倒しの空振り、上っ滑り、足元すくわれ宙ぶらりん。地に足つかない根なし草。浮かばれねぇ気持ちが大きいヤツほど、よく浮くのさ」
トラベル「それって、あっしのことっすか?」
ワーケーション「わ、上から誰か来た!」
プレミアム「おう、トラ坊じゃないか。今日もよく浮いてやがるな」
ワーケーション「トラボーさん?」
プレミアム「こいつはGO TO 三兄弟の長男、トラベルだ」
トラベル「お、新入りかい? あっしのことはトラ坊って呼んでくれよ。GO TO マイネーム トラ坊」
ワーケーション「GO TO マイネーム???」
プレミアム「気にしなくていい。トラ坊の英語、ちょいちょいくすぐりが入ってんだよ」
ワーケーション「トラベルさん、今ちょうど書き入れ時ですよね?」
トラベル「YESなんだけどよぉ、世間の風当たりがきつくて、きつくて。経済回すつもりが、こっちの目が回っちまう」
プレミアム「まったく災難だよなトラ坊。GO TO トラブルなんてありがたくもないあだ名までつけられちまって。どっちにしろトラ坊だがな」
トラベル「ま、あっしはまだいいんすけど、出番を控えている弟たちが不安がっちまって。疫病より人間のほうが怖いって布団かぶってガタガタ震えてますよ」
ワーケーション「トラベルさんの弟さんたち?」
トラベル「あっしらGO TO 三兄弟、トラベル、イート、イベントね」
プレミアム「やっぱり変な英語だよ。チグハグだ」
トラベル「そうっすか? ちゃんと兄弟全員名前に『ト』が入ってるんすよ?」
ワーケーション「トラベル、イート、イベント、わ、ほんとですね。兄弟って感じです!」
トラベル「だろ?」
プレミアム「おかしいって。動詞と名詞が混じってやがる」
トラベル「あっしは馬鹿なんでよくわかりませんけどね、プレミアムの兄ぃは物知りなんで、ちょいちょい重箱の隅をつついてくれるんすよ」
ワーケーション「プレミアムの兄ぃさん?」
プレミアム(若ぇ衆、まだあんたに名乗ってなかったね。私はプレミアム・フライデーだ」
ワーケーション「プレミアム・フライデーさん?」
プレミアム「あんたが生まれるずっと前に、ちょいと一世を風靡したんだよ」
トラベル「あっしもリアルタイムじゃ知らねぇっすけど、いっときは何にでもプレミアムがついたとか。プレミアム寄席。プレミアム前座。プレミアム茶殻。プレミアムはずれくじ。プレミアムがつくってだけで箔がつくんすよね」
プレミアム「出す例がいちいちしみったれてるね」
トラベル「惜しかったっすねぇ。ステイホームがなかったら、プレミアムの兄ぃが今でも幅をきかせてたんすよね?」
プレミアム「いや、その前から徐々に肩身は狭くなってたけどね」
トラベル「ほんと、あっしはこの疫病が憎いっす」
プレミアム「だから疫病は関係ないんだよ。無邪気に傷口に塩塗らないでくれよ」
トラベル「礼には及びませんぜ兄ぃ」
プレミアム「礼なんか言ってないよ。ま、トラ坊はこの通り英語も日本語もトンチンカンだけど面倒見はいいから、なんでも相談するといい」
ワーケーション「はい。トラベルさん、よろしくお願いします」
トラベル「ME TOOよろしくな。で、あんた、若ぇ衆っていうのかい? 随分古風な名前だね」
ワーケーション「いえ、違うんです。若ぇ衆じゃなくてワーケーション。ぼくも英語です」
トラベル「ワーケーション? どういう意味なんすか、プレミアムの兄ぃ?」
プレミアム「そんな英語は聞いたことがないね。バケーションの間違いじゃないのかい?」
ワーケーション「バケーションに働くという意味のワークを合わせて、ワーケーションなんです」
プレミアム「ほう、洒落かい。聞いたかトラ坊、この若ぇ衆の名前、洒落だとよ」
トラベル「どことなくシャレてますもんね。GO TO トラベルよりシュッとして、モテそうじゃねぇか。よっ、この色男」
ワーケーション「それが人気ないんです。駄洒落だとか親父ギャグだとかコピーライターが考えそうな雰囲気ワードだとか言われて」
プレミアム「そうだ。若ぇ衆の名前、何かに似ていると思ったら、あれだ、飲みニケーションだよ」
トラベル「兄さんらがやったりとったりしながらよく言っている、あれっすね? あれの仲間だとしたら、野暮ったいっすね」
ワーケーション「そうやって一緒にされるとフクザツなんです。あちらは、コミュニケーションに飲み会の飲みを合わせて、飲みニケーション。英語と日本語が混じってますけど、ぼくは百パーセント英語です。生まれだってアメリカだし」
トラベル「そうなの? ARE YOU アメリカ? そのワーケーションってのを日本に持ち込もうとして……そうか、兄ぃ、こいつ、のれん分けをしくじったんすね」
プレミアム「トラ坊、あんたは英語をしくじってるよ」
ワーケーション「ワーケーションは、旅先に仕事を持ち込むんじゃなくて、仕事に絡めて旅をするっていうアメリカ生まれの新しい働き方なんです」
プレミアム「それって芸人や役者が前からやってるやつじゃないのかい?」
トラベル(ME TOOそうっすよね兄ぃ。今は疫病のせいで減っちゃってますけど、地方の落語会とか。演芸界、最先端じゃないっすか」
ワーケーション「そうですよね……。お勤めの方も、満員電車で通勤するのでも自宅からリモートでもなく、第三の選択肢といいますか、行きたい場所に出かけて仕事するのもいいよねって。悪い考えじゃないと思うんですよ」
プレミアム「若ぇ衆の言う通りだ」
ワーケーション「でもですね、偉い人がワーケーションって口にした途端、八方から袋叩きですよ」
プレミアム「そりゃ気の毒だった。今はGO TO トラベルでゴタゴタしてるからね。東京は外されて、引き続きリモートだステイホームだって言われてる最中でバケーションどころじゃない。そんなときに何寝ぼけたこと言ってんだって反感買っちまったんだよ」
トラベル「だったらあっしの責任じゃないっすか。ワー助ごめん」
ワーケーション「謝らないでくださいトラベルさん。ぼくが不甲斐ないばかりに……」
プレミアム「トラ坊も若ぇ衆も悪くない。時期が悪かったんだよ。そもそも私たち鳴り物連中は、お上がやってるぞっていう気配を見せるために生まれ落ちるわけだから、世に出た時点で役目は終えている。出落ちで消えたって文句は言えねぇ宿命なんだよ」
ワーケーション「わ、そんな……せつない」
トラベル「ああ、せつねぇ。それでもプレミアムの兄ぃは粘りましたよ」
プレミアム「そうだな。まだトラ坊や若ぇ衆に比べりゃ、生きがいってヤツを味わわせてもらった。世の中をプレミアムに染めてるって手ごたえはあったよ。下手に持ち上げられたせいで往生際が悪くなっているのかもしれないね」
トラベル「あっしは、兄ぃの時代はもう一度来ると思ってますよ。この疫病の騒ぎが収まったら」
プレミアム「ああ。もうひと花咲かせたい。心浮き立つ金曜日ってやつを取り戻したい。その大看板になりたい。そんな未練がまだこの胸にくすぶってやがる」
ワーケーション「わかります。ぼくなんて、浮かばれないまま埋もれちゃいそうですけど、それでもいつか、ぼくのことをいいねって迎え入れてくれる時代が来るんじゃないかって」
プレミアム「鳴り物ってのは、打ち出し方が肝心なんだ。誰がいつ、どうやって鳴らすか。どんなにうまい料理も出し方を間違えたら台なしだ。若い衆だって、うまく舞台に上げてもらってたら、待ってましたの声がかかったかもしれない。今じゃなくても、その日は来るさ」
ワーケーション「ありがとうございますプレミアムさん。生まれて来てすみませんって感じで落ちるとこまで落ちてた自己肯定感が少し上がりました」
トラベル「ME TOO元気出しなよワー助。ワーケーションって、何遍か聞いてるうちに、いい言葉のような気がして来たぜ。働き方を変えるって、いいことだよ」
ワーケーション「ありがとうございますトラベルさん」
働き方「(割って入り)ちょっと待った」
トラベル「これはこれは、働き方改革の兄ぃ」
ワーケーション「わ、働き方改革さん!?」
働き方「働き方を変えるのは、このワタクシのシゴトですからね」
ワーケーション「はい。お名前はうかがっています。今、まさに旬のお方ですよね?」
働き方「そうです。現役バリバリ残業モリモリ。24時間、働き方改革のために身を粉にしてますよ」
ワーケーション「わ、大変ですね。お身体、大丈夫なんですか?」
働き方倒れたってやるしかないんです。このままじゃいけない、私がやらなくて誰がやるって、その一心で愚直に旗振って来たわけです。ワタクシの地道な努力が実を結んで、ここのところ一気に改革が進みました。なのに、それを疫病の野郎の手柄みたいに言われたら、やってられませんよ。そのうえ、飲みニケーションだかワーケーションだか知りませんけど、ぽっと出てきた若者に居場所を奪われるわけにはいかないんですよ!」
ワーケーション「わわわ、ぼくのせいで不快な思いをさせてしまい、すみません。働き方改革さんのお仕事を横取りするつもりも足を引っ張るつもりもありません」
プレミアム「若ぇ衆、気にすることはない。こいつは少々肩に力が入りすぎているところがあってな」
トラベル「働き方の兄ぃこそ、ワーケーション、やったらどうです? 空気も眺めもきれいなとこで仕事したら、少しは石頭がやわらかくなるってもんすよ」
ワーケーション「わー、たしかに。ぜひ!」
働き方「何事もやわらかければ良いというものでもないでしょう? だいたいプレミアム・フライデーだのGO TO トラベルだのワーケーションだの、なぜ日本語を使わないのです? 特別な金曜日、旅に出よう、地方巡業でいいじゃありませんか。耳障りのいい言葉にしてわざわざわかりにくくする意味がわかりません。では、仕事が残っていますので」
ワーケーション「わ、行っちゃった」
トラベル「何だったんすかね、働き方の兄ぃ」
プレミアム「ときどきふらっと現れて、言いたいこと言って帰って行くんだよ。自分の存在意義を確かめたいんだね」
トラベル「はあ。めんどくさいっすね」
プレミアム「まぁでも名前は大事だ。耳障りがいいってだけじゃいけない。働き方改革。確かにわかりやすい。聖徳太子の大化の改新からの流れを組む本寸法の古典鳴り物だ」
トラベル「本寸法って何すか?」
プレミアム「正統派で崩していないってことだな。落語家がよく使うんだよ」
ワーケーション「プレミアムさんって、何でもご存知なんですね」
トラベル「当ったりめぇよ。プレミアムの兄ぃはプレミアム・フライデーにプレミアム商品券でプレミアム日本の歴史を買って読んでたんだから筋金入りだよ」
ワーケーション「わー、かっこいい。プレミアム鳴り物さんですね!」
プレミアム「私なんかまだまだ。上には上がいるからね」
トラベル「そういや昨日、その辺で飲んでて、鳴り物界の有名人と言えば誰だって話になったんすよ。そこで名前が出たのが醤油に赤身のレバーってやつなんすけど」
プレミアム「それを言うなら生類憐みの令じゃないかい?」
トラベル「それっす!」
プレミアム「確かに生類憐れみの令様は鳴り物界に燦然と輝く伝説のお方だ。ただし、私たちとは天と地の差がある。歴史にしっかりと根を下ろし、大往生された」
生類の令「わしを呼んだかい?」
ワーケーション「わ、誰か来た」
プレミアム「あなた様は?」
トラベル「呼んだかいってことは、もしや、爺さん、ショールイの兄ぃっすか?」
生類の令「左様。生類憐みの令だ」
ワーケーション「わ、本物、本人だ!」
トラベル「兄ぃ、ここは鳴り物墓場っすよ。レジェンドが来るところじゃないっす」
プレミアム「令様、成仏なさったんじゃあなかったんですか」
生類の令「それがな、おちおち成仏してられなくなったのじゃ」
プレミアム「とおっしゃいますと?」
生類の令「このところの鳴り物入りの乱発じゃよ。とくに疫病が流行ってからというもの、目に余る」
プレミアム「令様のおっしゃる通りです。ここにいるトラ坊と若ぇ衆はそのクチでして」
生類の令「間髪入れずに次々と、まるで除夜の鐘だ。煩悩を打ち消すどころか、あれじゃ逆だよ。で、お上の気まぐれに民が振り回されるって話になると、決まって引き合いに出されるのが生類憐れみの令と来てる」
プレミアム「確かに、令様のお名前を耳にすることが増えました」
生類の令「冗談じゃない。そこらの思いつきと一緒にされては困る。生類憐れみの令は三十年の間に何百回も発令されているのじゃ」
トラベル「ショールイの兄ぃ、話盛ってません? 二十年の間に百回て聞きましたけど」
プレミアム「私がプレミアム日本の歴史で読んだのは二十四年の間に百三十五回だったかな」
ワーケーション「わー、誤差の範囲で、とにかくすごいですよー」
生類の令「若ぇ衆の言う通りだ。令様は十分、歴史に爪痕を残していますよ。その爪の垢を煎じて飲ませていただきたいもんです」
トラベル「ME TOO GO TO 爪の垢っす。ショールイの兄ぃ、浮かばれねぇのはあっしらに任せて、GO TO 成仏っす」
生類の令(わしはいいが、お父っつぁんが浮かばれないのじゃ」
プレミアム「令様のお父様と言うことは、生類憐れみの令の生みの親、徳川第五代将軍綱吉様?」
生類の令「ああ。お父っつぁんは世間の風当たりをわしと一緒に受け止めてくださった。将軍の座を明け渡すまで、わしと運命(さだめ)を共にしてくださった」
プレミアム「しかし令様、生類憐みの令はどんどんおかしなほうに行っちゃいましたよね?」
生類の令「数十年、数百回の間には首を傾げるお触れもあった。だが、根っこには赤ん坊やケガ人、命あるすべての者へのいたわりがある。お父っつぁんは本当に優しいお方じゃった。雨に濡れている捨て猫を拾って、学ランの懐に入れちゃうんだから」
プレミアム「生類の令様、さすがに徳川の時代、学ランはなかったかと」
トラベル「ね、ショールイの兄ぃ、話盛り過ぎぃ。プレミアムの兄ぃも思ったっしょ?」
カジュアル「(近づいて)今、プレミアムって言ったかい?」
トラベル「言ったっす。あ、いつも半袖に短パン、カジュアルないでたちの兄さんっすよね?」
カジュアル「自分、見ての通りカジュアル・フライデーって言います。あ、反応ないですね。そういうのがあったんですよ。90年代に」
プレミアム「はじめましてフライデー先輩。私……」
カジュアル「知ってるよ。プレミアム・フライデー君だろ? いやー、会いたかったよ。君が鳴り物入りで出て来たとき、フライデーつながりで私のことを思い出してくれる人がいるかなって思ったけど、見事にいなかったね」
プレミアム「どうもすみません。私のほうはカジュアル先輩のこと存じ上げなくて」
トラベル「なんでも知ってるプレミアムの兄ぃにも知らないことがあるんすね?」
プレミアム「私がカジュアル先輩のお名前を知っていたら、フライデー同士でコラボなどできたかもしれないのに、なんかすみません」
カジュアル「いいのいいの。君はプレミアムなんだから、もっとふてぶてしくっていいんだよ」
トラベル「ほんとすごい兄ぃなんすよ。何でも知ってるんすから。歌番組に一回出ただけで消えたアイドルとか」
カジュアル「トラブル君だっけ? 君、失礼に失礼を重ねてる自覚あるのかな?」
トラベル「そんな大層なもんじゃないすけどね。こりゃどうも」
カジュアル「ほめてないよ。馬鹿なのかな?」
トラベル「カジュアル・フライデーって、名前聞いたら馬鹿でも意味がわかって、いいっすよね。こいつ、意味わかんないっすよ。ワーケーションっていうんすけど」
ワーケーション「わ、なんで、この流れでぼくの名前引き合いに出すんですか? トラベルさん、ひどくないですか?」
プレミアム「若ぇ衆、気にするな。アメリカに行って笑われるのは、トラ坊のほうだ」
トラベル「プレミアムの兄ぃ、そんな殺生な!」
生類の令「殺生はいかん! 殺生は許さん!」
プレミアム「ほら、トラ坊が殺生なんて言うから、生類の令様の気が高ぶっちゃったじゃねぇか」
トラベル「プレミアムの兄ぃがあっしにケチつけたから、殺生だっつったんすよ!」
プレミアム「あんたが若ぇ衆を貶めるようなこと言ったから、なぐさめたんだよ」
ワーケーション「そうですよ。元はと言えばトラベルさんが、ぼくの名前を引き合いに出したからですよ」
トラベル「あっしはカジュアルの兄ぃをヨイショしようと思って」
カジュアル「言っとくけど、君、全然ヨイショになってないよ」
生類の令「皆の者、ずいぶん不満が溜まっておるようじゃな。だが、わしらが不満をぶつけるべき相手は、仲間ではない。安易に鳴り物入りを乱発するお上じゃ」
プレミアム「生類の令様のおっしゃる通りだ。内輪もめはやめて、ここはひとつ、プレミアム仲直りといこうじゃないか」
トラベル「いいっすねー」
ワーケーション「わー、同感です!」
生類の令「鳴り物入りで世に送り出すからには、これで良いのか、これを出したら民がどう思うのか、思いを巡らせねばならぬ。そして、ひとたび世に出したなら、しっかりと役目を果たせるよう見守り、見届けなくてはならぬ。犬や猫を飼ったら最後まで育てなくてはならぬのと同じじゃ」
トラベル「さすがショールイの兄ぃが言うと説得力あるっすね」
カジュアル「そうだそうだ、カジュアル鳴り物反対!」
生類の令「よし、仲間の皆ども、行くぞ。これ以上無闇に世の中をかき回すことのないよう、われら鳴り物入りの無念を訴えるのじゃ」
プレミアム「ついて行きます生類の令様!」
ワーケーション「わーい、行きましょう!」
クール「(近づき)オイラもひとつ、ハッ、連れて行っておくんなせぇ(見得を切る)」
トラベル「COME ONよし来たクール・ジャパン。GO TO 国会議事堂!」

大臣「うわっ。なんだなんだお前たちは! わあわあうるさいよ。こら、一斉にしゃべるんじゃない。一人ずつ順番だ。横入りはいけないよ。股ぐらくぐるのもやめなさい。うん、うん、持ち上げられてハシゴ外された……悔しい、空しい、馬鹿馬鹿しい……飯が喉を通らない……通じがつかない……夜も眠れない……昼も眠れない……」
議員「大臣、ちょっと大臣! 国会中に居眠りしないでください。これ全国に生中継されていますよ」
大臣「(ハッと目を覚まし)なんだ夢か」
議員「大臣、人の話聞かずに熟睡してたんですか?」
大臣「熟睡しているように見えたかもしれないが、熟考していたのだ」
議員「ヘリクツだけはご立派で。居眠りなさっている間に、大臣の不信任決議案が賛成多数で可決されました」
大臣「それは寝耳に水だな」
議員「鳴り物入りで大臣に就任されましたが、とんだ看板倒れでした」
大臣「鳴り物入り! そうか、こうしちゃいられない!」
議員「大臣、どこへ行くんです?」
大臣「ちょっと仲間に愚痴聞いてもらって来る」

✒︎8月23日追記

「これ書いたんですか?」と質問をいただいたので補足を。

7月24日の月曜日、池袋演芸場へ行った帰り、5か月ぶりの寄席の興奮さめやらぬまま開いたTwitterで知った「ワーケーション」という言葉。タイムラインの突っ込みが大喜利のようになっていて、現実がまるで落語だなと思った。

出た途端に八方から叩かれているワーケーション、調べてみると、親父ギャグではなくアメリカ生まれの提案だそうで。打ち出し方によっては人気者になれたかもしれないのに、都合よく晴れ舞台に引っ張り出されたらお呼びじゃなかった間の悪い奴。それを言うなら英語がおかしいと突っ込まれているGO TO トラブルも、変な衣装着せられて舞台に上げられたら引っ込めのブーイングを浴びて居たたまれなくなった芸人みたいで。

思いつきで担ぎ上げられたものの鳴かず飛ばずの「鳴り物入り」たちの踏んだり蹴ったりが不憫でもあり可笑しくもあり。

水曜日に一気に書いて、桂宮治さんの禁演落語会に行って刺激をもらい、サゲを変更。元のサゲは「芝浜」のもじりみたいになってたけど、大臣自身を「鳴り物入り」にしたほうがいいなと。

「大臣。大臣。ちょっと。今の答弁、聞いてました?」
「(寝言)うわあああああ。なんだお前たちは! 来る「大臣。大臣。ちょっと。今の答弁、聞いてました?」
「(寝言)うわあああああ。なんだお前たちは! 来るな来るなあっち行け!」
「大臣、国会中に居眠りしないでください。これ全国に生中継されていますよ」
「(ハッと目を覚まし)なんだ、夢か」
「あきれた。大臣、人の話聞かずに、熟睡してたんですか」
「熟睡しているように見えたかもしれないが、熟考していたのだ」
「ヘリクツだけはご立派で。で、大臣が言い出したこの鳴り物入りのキャンペーン、どうしても実施するおつもりですか?」
「いや、鳴り物入りはもうよそう。また悪い夢になるといけない」

さらに読み返してみると誤字やら脱字やらが見つかり、ちょこちょこ手直し。

「クール・ジャパン」の出番をふやしてキャラ立ちさせたくなってきた。

ちなみに池袋演芸場に行った7月下席昼のトリは古今亭菊志ん師匠。客席は楽屋と拮抗する7人。ヘッダー写真に入れた「まるでっ落語。食らってる間。」に不自然な「っ」があるのは回文(まるでっらくごくらってるま)にするため!

2024.2.9 こたろんさん


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目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。