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20年ぶりにコンクールに応募したららら

募集を知り、締め切りに向かって書き始める。締め切りの日まで何度も書き直す。規定枚数におさまるよう文字数を調整する。原稿の健闘を祈り、郵便ポストに投函する。そして、結果発表の日まで「もしかしたら」を抱いてドキドキしながら過ごす。

脚本コンクールに応募していた20年ほど前のあの感覚を久しぶりに味わった。

ららら応募動機

なぜ「ららら」と浮かれているのかの理由は後にして、20年ぶりにコンクールに応募しようと思った理由は、noteを始めるきっかけになった(彼女のnoteを応援したくて元応援団員はnoteを始めた)「キナリ杯」だった。

キナリ杯は、コンクールというドアの向こうへ行こうとしていた頃の気持ちと「challengeの中にはchanceとchangeがある」を思い出させてくれた(キナリ杯というドア)。

わたしは、キナリ杯には応募しなかった。一応、プロの物書きなので、「もし選ばれたら、誰かのチャンスを奪ってしまう」という遠慮があった。

結果を見てのけぞった。笑ってしまうほど傑作ぞろいで(そして鉱山が現れた)、「これ、わたしが出していても選ばれなかった」と思った。とらぬ狸のなんとやら、もし出していても誰かのチャンスを奪う心配はなかったわけだけど、「選ばれなかったらカッコ悪かったな」とは思った。

それが6月の頭のこと。6月中旬になって、『子ぎつねヘレン』でご一緒した映画プロデューサーの石塚慶生さんから「こんなこと考えているんですけど」と内容が固まる前のユニバーサル・オーディション「ルーツ」のあらましを聞いた。

手探り、手弁当で走り出していた(今もそのまま走り続けている!)インディーズ企画。全国から役者を募ってリモートでオーディションして一緒に作品を作るという試みで、脚本家と演出家は立ち上げメンバーと付き合いのある人に声をかけていた。(その頃まだふわふわしていた「ルーツ」が、7月に募集開始、8月に締め切り、1次2次審査を経て脚本開発、10/17.18に第1回公演というのはかなりのスピード感!)。

コンクールって、運営側にとってもchallengeなんだなと思った。冒険を共にする仲間を募る旗を上げて、「見つけて!」「集まって!」と呼びかける。どんなメンバーが集まるかで、切り拓く道も道中の苦楽も変わってくる。

コンクール情報にアンテナが向いていたのだろうか。6月30日締め切りの落語協会「新作落語台本募集」が目に留まった。

脚本家だけど落語台本は新参者だし、受賞の心配ご無用なのは「キナリ杯」で実感している。仕事も止まっていて、時間はたっぷりあった。出さない理由がなかった。

何を書こうかと思ったとき、以前書いたラジオドラマ脚本を思い出した。「日本語誘拐事件」というタイトルで、NHK名古屋放送局のコンクールに応募し、たしか最終で落ちた。

脚本は2台前のパソコンで書いていて、データもプリントアウトも残っていない。でも、「日本語から『ら』が誘拐されて返されるまでの話」で、その間に言葉遊びを散りばめていたのは覚えていた。ちょうど政府の新型コロナウイルスが連日報道されているのを見ていたこともあり、官邸での会議を膨らませ、「ららら日本語誘拐事件」という題で応募した。

2022年1月5日、話者を追加。

「ららら日本語誘拐事件」(新作落語)

電話帳に載っていない、インターネットで調べても出て来ない電話番号なんてのがありまして。

トゥルルルル、トゥルルルル。

官房長官「はい総理大臣直通ダイヤルです」
誘拐犯〈その声は官房長官だな?〉
官房長官「あのー、どちら様でしょう?」
誘拐犯〈総理はいるか?〉
官房長官「おじいちゃん、どちらにおかけですか?」
誘拐犯〈総理はいるかと聞いておる〉
官房長官「総理に、どういったご用件でしょう?」
誘拐犯〈ひとさらいの脅迫電話だ〉
官房長官「ひ! 人さらい? ハッ。もしかして、総理を誘拐するっていうんじゃ?」
誘拐犯〈そんなつまらんもんは、いらん〉
官房長官「総理じゃないとしたら…ハッ。もしかして総理より面白いと巷で人気の官房長官のこのワタクシ?」
誘拐犯〈人ではなく、ひと文字頂戴する〉
官房長官「はい?」
誘拐犯〈ひと文字さらい、人呼んで、ひとさらい。日本語の五十音からどれかひと文字差し出してもらおう〉
官房長官「は?」
誘拐犯〈はひふへほのひと文字目の《は》だな?〉
官房長官「いえ、そういうつもりで言ったわけでは」
誘拐犯〈よし。《は》を頂くとしよう〉
官房長官「人の話聞いてます? ダメです。《は》がないと困リます! 芸能人も日本語も《は》が命です!」
誘拐犯〈ならば、他のひと文字を差し出せ〉
官房長官「官房長官のこのワタクシが、ですか? 無理無理無理。荷が重すぎます」
誘拐犯〈荷が重い? では、《に》を頂戴して、荷を下ろしてやろう〉
官房長官「待ってください。《に》もダメです。て、に、を、は、は単語をつなげる大事な接着剤ですから!」
誘拐犯〈では、どのひと文字なら良い?〉
官房長官「どのひと文字と言われましても、ワタクシの一存では決めれません。無理です」
誘拐犯〈今、何と言った?〉
官房長官「今ですか? 無理です」
誘拐犯〈その前だ〉
官房長官「その前? ワタクシの一存では決めれません」
誘拐犯〈《ら》を抜いたな?〉
官房長官「ら?」
誘拐犯〈決められませんの《ら》を抜いて、決めれませんと言った〉
官房長官「《ら》を抜いたところで、大した違いはないかと」
誘拐犯〈では、《ら》を頂くとしよう〉
官房長官「え?」
誘拐犯〈《ら》よりも《え》のほうが良いか?〉
官房長官「どっちもダメです!」
誘拐犯〈《ら》があってもなくても変わりはないと言ったではないか〉
官房長官「そうは言ってません!」
誘拐犯〈シャラップ黙らっしゃい! 《ら》がなくなったら、『シャ▲ップ黙っしゃい!』だ。締まらんな。いや《ら》を抜いたら、締ま▲んなだ。締まるのか、締まらないのか、どっちなんだ。わはは、わはははは〉
官房長官「ふふふ、ふふふふふ」
誘拐犯〈どうした? 気でも触れたか?〉
官房長官「おじいちゃんのお芝居に、つい乗っちゃったけど、これ、いたずら電話でしょ?」
誘拐犯〈官房長官さん、あんた、おれを疑ってるのかい?〉
官房長官「だって、日本語からひと文字誘拐するなんて、できるわけないじゃないですか」
誘拐犯〈まあ見てな。ひと文字に笑うヤツは、ひと文字に泣く〉
官房長官「はいはい。これ以上ご老人のヒマつぶしにつき合っていると、税金の無駄遣いってお叱りを受けちゃいますから、切りますよ」

ガチャン。

なぜ相手が総理大臣直通ダイヤルの番号を知っていたのかは謎でしたが、報告するまでもないと考えた官房長官。家に帰って一杯引っかけ、ひと風呂浴びる頃には電話のことなどすっかり忘れてしまいました。カラスカアで夜が明けたと思ったら、

アナウンサー「緊急▲ジオ放送です。昨夜、《▲》がさ▲われました。犯人か▲の予告電話を官房長官がイタズ▲と断定したことか▲、対応が見送▲れ、日本全国北か▲南まで大混▲ん。政府のだ▲しなさに国民か▲非難の声が集まっています」

なんと、電話の予告通り、《ら》のひと文字が消えていた。どうも今朝はカラスの鳴き声が出涸らしっぽいと思ったら、《ら》が抜けてカスになっていたんですな。たかがひと文字、されどひと文字。動物園ではライオンが途方に暮れております。

ライオン「百獣の王▲イオン。なんか弱そうだよね」
フラミンゴ「ワタクシなんてフ▲ミンゴですよ。なんだか寝不足って感じで、あくびが出ちゃいます」
トラ「僕なんて、ひと文字消えて、ただのト▲になっちゃったよ。迫力ないよ」
ゴリラ「まぁみんな気を落とすなよ。じきに慣れるぜ」
トラ「あんたはいいよな。ゴリ▲」

お寿司屋さんも頭を抱えています。ヒラメにサワラにイクラ。《ら》のつくネタだらけでやりにくいったらありゃしない。

大将「はいお客さん、ち▲し寿司お待ちどうっ」
「大将、俺を殺す気かい!」

ラブレターがブレターじゃあ気持ちもすれ違うばかり。つき合いたてのカップルは、

彼氏「好きです。アイ▲ブユー」
彼女「愛撫⁉︎  手も繋いでないのに、いきなり?」

「シンデレ▲のガ▲スの靴」。これじゃあ恋が始まる気がしない。「桜咲く」は「さく▲咲く」に、「さよなら」が「さよな▲」じゃあ尻切れトンボだ。合唱団の発声練習も調子が出ない。

合唱団「ドレミファソ▲シド」

オーケストラはオーケスト▲になり、ト▲ンペットとク▲リネットとビオ▲とコント▲バスが不協和音を奏でる始末。ブラスバンドはブ▲スバンドになって、部員がごっそり減っちゃった。

しかし、日本語ってのは便利なもので、結構言い換えがきくんです。ライオンと言えないなら、獅子でいいじゃないか。ちらし寿司は具のせ寿司と呼ぼうじゃないか。オーケストラがダメなら交響楽団、ブラスバンドは管弦打楽器楽団で行こう。さよならの代わりに「あばよ」で別れようじゃないか。音読み訓読みに外来語、古典も新作も縦横無尽。ひと文字なくなっても案外なんとかなるもんだねとすぐに慣れてしまった。

官房長官「いやぁ国民の順応力は大したものですな。次に誘拐されるのはどの文字か、トトカルチョが盛り上がっているそうで」
外務大臣「何のんきなことを言っているんですか官房長官? 外交は大迷惑ですよ。オンダ、サウジアビア、ニュージーンドにフィンンド。相手の国の名前を呼べなくては外交が始まりません。オーストリアが二つあるっておかしいでしょう?」
官房長官「まぁまぁ外務大臣、外交はハートですよ」
外務大臣「あなたの対応のせいですよ官房長官」
総理大臣「国難だ! 緊急事態宣言を発令する!」
官房長官「総理も落ち着いてください。ここはひとつ国民の茶目っ気に学びましょう。北関東の《い》で始まり《き》で終わる県は納豆県。香川県がうどん県って自称している、あのノリです。関西の《な》で始まるふた文字の県は大仏県。鹿県って案もあったんですが、滋賀県と似ちゃいますのでね」
外務大臣「国の名前はそうはいきませんよ」
官房長官「オで始まりダで終わるヨーロッパの国は、チューリップ国。どうです?」
文部科学大臣「あのー官房長官、面白がってますよね? 私は日本語の乱れに眉をひそめてます」
外務大臣「そう言う文部科学大臣も言葉に気をつけていただきたい。面白がってます? ひそめてます? 《い》を抜くと、次は《い》が標的にされますよ。《い》がつく国もいっぱいあるんです。イギリス、イタリア、インド、インドネシア」
官房長官「ですよねー。だいたい文部科学大臣の脇が甘いせいで日本語が誘拐されたんじゃないですか? 他人事みたいな顔してますけど?」
外務大臣「官房長官、《い》を抜かないでください!」
文部科学大臣「これは誘拐事件ですよ! 警視庁は何やってるんです?」
外務大臣「文部科学大臣、《い》を抜くなー!」
総理大臣「緊急事態宣言を発令します!」

防衛大臣「ふふふふ。皆さん頭が固くて困りますな」

官房長官「何がおかしいのです、防衛大臣?」
防衛大臣「官房長官、国難を乗り切るにはソフトな頭が必要だってことですよ」
官房長官「ソフトな頭?」
防衛大臣「言い換えれば、『やわなかい頭』です」
官房長官「やわなかい頭?」
防衛大臣「お気づきですか。今、私は誘拐されたひと文字を《な》に置き換えたのです。やわなかい。多少の違和感はあるものの意味は通る。現に、ここにいる閣僚の皆さんには通じた。外務大臣、いかがです?」
外務大臣「オナンダ、オーストナリア、サウジアナビア、ブナジル、ニュージーナンド、フィンナンド……いける。いけますよこれ!」
防衛大臣「でしょう? 文部科学大臣、どうです?」
文部科学大臣「いささかナンボウではありますが、背にハナは代えナれませんな」
防衛大臣「さすが国語のプロ。早速使いこなしていナっしゃる」
官房長官「素晴らしい! 記者クナブにも伝えましょう!」

トゥルルルル、トゥルルルル。

官房長官「電話だ! 犯人かナかもしれません!」
防衛大臣「防衛大臣が出て、防衛しよう」
総理大臣「いや、総理の私が」
官房長官「いえ、ここは官房長官のワタクシが。乗りかかった船ですので。はい総理大臣直通ダイヤルです」
誘拐犯〈またあんたかラ?〉
官房長官「その声は、ひと文字さナいだな? これ見よがしに、さナったひと文字を語尾につけやがって!」
誘拐犯〈ひと文字さナいとは、なんだラ?〉
官房長官「苦肉の策だ。あんたにさナわれたひと文字の代わりに《な》を使うことにしたんだよ」
誘拐犯〈では、次は《な》を頂戴するラ〉
官房長官「な! そんな殺生な!」 
誘拐犯〈真夜中の十二時に頂きに上がるラ。《な》がなくなって、なんとかならなくなるのを高みの見物させてもらうラ〉
官房長官「シャナップ黙ナッしゃい!」

ガチャン

官房長官「ふぅ、誘拐犯を《な》でどやしつけてやりましたよ」
防衛大臣「どやしつけてやりましたよじゃないよ官房長官。逆探知してるんだかナさ」
官房長官「あ! つい怒りに任せてガチャンと」
防衛大臣「だかナ防衛大臣の私が出るって言ったんだ」
総理大臣「今こそ緊急事態宣言を発令する!」
官房長官「総理、ちょっと黙っててもナえます?」
総理大臣「官房長官、君は調子に乗ってないで反省しなさい!」
官房長官「総理、支持率落ちてるかナって八つ当たりやめてもナえません?」
外務大臣「総理も官房長官も《い》が抜けてる!」
官房長官「あんたもだよ外務大臣!」
国土交通大臣「喧嘩している場合ではありません! 一刻も早く犯人を特定しましょう」
官房長官「さすが国土交通大臣」
国土交通大臣「官房長官、交通整理は任せてください」

アナウンサー「放送予定を変更して『緊急特番 日本語誘拐犯を探せ』をお届けしています。先ほど公開された犯人の電話の声に心当たりがあるという視聴者の方と電話がつながっています。こんにちは」
誘拐犯の娘〈こんにちは。よろしくお願いします〉
アナウンサー「犯人の声を聞いてピンと来たということですが?」
誘拐犯の娘〈はい。私の父の声に間違いありません〉
アナウンサー「お父様は、今どちナに?」
誘拐犯の娘〈天国です〉
アナウンサー「天国?」
誘拐犯の娘〈はい。天国があれば、ですけど〉
アナウンサー「となると、誘拐の予告電話も犯行も、亡くなった後ということになりますか?」
誘拐犯の娘〈そういうこと、やっちゃう人なんです。いたずナが大好きな発明家なので〉
アナウンサー「やっちゃうんですね。では、この番組に電話をかけることもできますかね?」
誘拐犯の娘〈はい。気が向けば〉
アナウンサー「気が向けば?」
誘拐犯の娘〈父は気まぐれなんです。でも、父を呼べるかもしれない人が一人だけいます〉

アナウンサー「……ということで、はなはだ半信半疑ではありますが、日本語誘拐犯かもしれないおじいちゃんと孫のあっくんの電話がつながっています」

あっくん〈おじいちゃん。どうしてあんなイタズナしちゃったの?〉
誘拐犯〈あっくんと遊べなくなって、じいちゃん、つまんなかったんだラ。退屈で、退屈で、死んでも死に切れなかったんだラ〉
あっくん〈そっかー。でも、ぼくの名前、アキナになっちゃったよ。女の子みたいで、ちょっとはずかしい〉
誘拐犯〈じいちゃん、うっかりしてたラ。他のひと文字にするんだったなラ〉
あっくん〈そしたら、ほかの子がこまっちゃうよ〉
誘拐犯〈あっくんは優しいなラ〉
あっくん〈おじいちゃんのマゴだもん〉
誘拐犯〈あっくん、泣かせるなラ〉
あっくん〈おじいちゃん、言ってたよね。みんなを楽しくするイタズナがいいイタズナだって〉
誘拐犯〈そうだったなラ。じいちゃん、自分のことだけ考えて、みんなを困らせてしまったラ。ごめんなさいラ〉

アナウンサー「おや? なんだなんだ、真っ黒い雲がむくむくむく……日本語誘拐犯で発明家でイタズナ好きなおじいちゃんのごめんねの涙が雲を膨らませているのでしょうか。あ、光った!」

ピカッ! ガラガラ! ドーン!

ライオン「ねえねえ、ボク百獣の王ラライオンになっちゃった♡なんか可愛くない?」
フラミンゴ「アタシ、フララミンゴ。可愛くない?」
ライオン「フララダンス踊りそうで、ララブリだね〜♡」

大将「お客さん、ちららし寿司、お待ちどうっ」
「大将、浮かれてるねー」

人騒がせなひと文字さらいのおじいちゃん、雷と一緒に、《ら》を二つ落っことしちゃった。それもそのはず落雷には《ら》が二つ入っていたんです。連絡を取ろうにも、おじいちゃんスッキリ成仏しちゃって出て来ない。でも、アキナちゃんからアキララくんになって、あっくんはうれしそう。シンデレララはガララスの靴で足取り軽く、さくらら咲いて春うららら。《ら》が使えないのは不便だけど、あまる分にはお目出度くっていいかもね。お後よろしく、さよならら。

ららら落選

応募してから次々と欠点に気づいた。テストを提出してから「あそこ間違えてた!」と気づくあの感じ。

登場人物が多すぎるし、場面転換も多いし、サゲもはっきりしない。「それもそのはず、落雷には『ら』が二つ入っていた」というのがサゲになるとしたら、その後のエピローグ的付け足しが長い。映画やドラマの脚本だとよくある余韻表現だけど、落語では蛇足。

審査員のお一人、小ゑん師匠がツイッターでこまめに下読みの感想を呟かれていて、ダメ出しされている作品が、どれも自分の作品を指しているように思えた。

応募からひと月経った7月の終わりに書いた「鳴り物入り」は、最初から落語台本として書いた。

5か月ぶりに寄席に行った興奮、生の落語の名調子が体に残っているうちに一気に書いた。こちらのほうが出来は良かったと思う。もちろん、これだって、応募しても入選したかどうかはわからないけれど、「『ららら日本語誘拐事件』で入選してしまっては、力不足を露呈してしまう」と案じていた。

とらぬ狸のなんとやら(2匹目)、過去最多の346作品から選ばれた5本の中に、『ららら日本語誘拐事件』はなかった。

サゲ(のなりそこない)が落雷。落ちる話だからね。

総理のキャラは当時の総理に寄せてたけど、変わっちゃったしね。

負け惜しみはさておき、ガッカリするよりホッとする気持ちが大きかった。落語台本の書き手の層は厚く、壁は高かった。それがわかったことも、落語ファンの一人としてうれしかった。

ららら敗者復活

脚本コンクールでデビューのきっかけをつかみ、今は審査する側にいることが多いけれど、久しぶりに味わった応募する側のドキドキワクワクは懐かしくて新鮮だった。

結果を待つのと並行して、ユニバーサル・オーディション「ルーツ」の審査が進み、審査員ではないけれど合格者と脚本を作る立場のわたしは、応募する人たちと、それを受け止める審査員の熱量の応酬に圧倒される毎日だった。

何も行動を起こさなければ出会うことのなかった人と人。コンクールは互いを見つけ合う場であり、ドアは向こうから開くこともある。

コンクール出身でデビューのチャンスをつかんだので、元々コンクール応募者への思い入れは強いが、いつも以上に肩入れしたくなったのは、わたし自身が結果を待つ応募者だったからだと思う。

「ルーツ」は808人の応募者から選ばれた42人と作品を作っている。合格したかった、させたかった、けれど選ばれなかった人もたくさんいる。コンクールの受賞は審査員の多数決で決まるから、審査員の顔ぶれでも結果は変わる。

わたしがこれまでに審査に参加したコンクールでは、審査員の好みは見事に分かれた。熱い議論を重ね、ようやく結論に達した。最後の30分で一気に風向きが変わって、圏外から受賞に躍り出た作品もあったし、逆もあった。

審査員との相性と時の運。あるコンクールでは縁がなくても、別なコンクールで花開くことは珍しくない。

函館港イルミナシオン映画祭のシナリオコンクールでひっかからなかった足立紳さん(公開中の『喜劇 愛妻物語』も最低で最高!)の『百円の恋』が第1回松田優作賞に見出され、映画化され(監督は『嘘八百』シリーズの武正晴さん)、アカデミー賞脚本賞を獲り、米アカデミー賞外国語映画賞出品作になったように。

脚本コンクールに応募していた頃、最終審査に残ったものの審査会で真っ先に脱落した作品を見込んだディレクターに声をかけてもらったことがあった。その人、NHKの藤井靖さんとは後にラジオドラマを何本も作ることになり、「金魚鉢の教室」「父の代理人」「静かな生活」は芸術祭参加作品になった。

わたしが審査に関わったコンクールでも、受賞は逃したけれど、埋もれさせておくのはもったいないと思った作品との出会いがあった。連絡を取り、交流が始まったのが、以前noteに書いた《その言葉が誰かの「ひかり」になる》の水上春さんだ。

賞からこぼれ落ちても、「これ、磨けば面白くなるんじゃない?」と拾われることはある。だから、『ららら日本語誘拐事件』も「審査員の中に誰か一人は面白がってくれた人がいたかも」という期待はまだ残していて、審査に参加された噺家の方々の顔を思い浮かべながら、「あの師匠はお好きかも」と勝手に妄想している。

こんなお楽しみは、応募して落選した人だけが味わえるオマケだ。

と、このnoteを書いているうちに、2次選考に残った作品(受賞作品とは別に11本)が落語協会のページで発表された。

はい、こちらにもいませんね、『ららら日本語誘拐事件』。まったく歯が立たなかった。爪痕すら残していなかったとわかると、潔い。

でも、小ゑん師匠のツイートによると、

346本から全て読んだ6人が10本を選び、集計して上位3票が5本・2票が7本を残し、個人がどうしても残したい1票を加えて、計16作品が2次審査に残りました。後日これを委員全員の29名で読み、5本に絞ります。

とのこと。2次まで残っていなくても6人の噺家さんには読んでいただけた模様なので、もしかしたららら。

「世にも奇妙な物語」に出していた‼︎

2021.4.27追記。

古いファイルを掘り起こしていたら、2015年の日付で「世にも奇妙な物語」に企画提案していたのを発見。出したこと(&落ちたこと)を忘れていた。「洋ナシのララフラランス」は面白いやないか。

【日本語誘拐事件】 「ただいまより第一回日本語誘拐を行います」の予告と共に、日本語から「ら」の一文字が消え去る。省略されることが多い一文字ではあったが、ないと不便。それでも日本人は持ち前の適応力を発揮し、「さよなら」の代わりに「あばよ」を復活させたり、『ら』と似ている『な』を代用したり。もともと日本人の発音はひどいので、「フナンス」「オーストナリア」でも外交上問題はない。だが、ドレミファソナシドには無理があり、コーラスの「ラララ」が歌えなくなるなど、各方面で支障が出てくる。正体も手口もわからない犯人は愉快犯らしく、騒動を面白がって見ている様子。政府の「返却要請声明」に応えて『ら』を解放した犯人は、倍にして返す。「いららっしゃい! ちららし寿司お待ち!」「洋ナシのララフラランス」と『ら』がだぶる。これはこれで不自由だが、ないよりはマシである。

目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。