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働くを、楽しく。――副業受入・副業経験のススメとリーダーシップ4.0の世界線



1)そもそも論として:「働くのが楽しくない」人へのアプローチ

私の関心の一つに、組織で働く人がどうしたら楽しく働けるのか、ということがあります。
人事評価制度を作るのも、就労環境を整えるのも、経営者の方のお話を聞くのも、全部この目的を叶えるために必要なことだと思っています。そして、それを実現するために、私は仕事をしているのだと思っています。

しかし、実は私の周りには「働くのが楽しくない」という方が一定数います

私は結構四六時中仕事していたい人なので、ちょっと信じられないんですが、働くのが楽しくない人の意見をよく聞くんです。「会社行きたくない」「働くのが好きとか信じられない」。いや私はあなたの言ってることが信じられない……と思うんですが、でも多分これがマジョリティの意見なのかな、と思わざるを得ない程度には、そのような意見を耳にします。

これはすごく由々しいことです。
フルタイムで働くとすると、1日の1/3も楽しくない時間になってしまう。
それってすごくつまらないし苦痛でしょう。といって、安易にじゃあ転職しましょう!という提案もしがたい。「今の」仕事がつまらないなら転職して「別の」楽しい仕事にありつけるかもしれないけれど、「仕事そのもの」「働く行為」が楽しくないなら、それはどこへ行っても同じです。
そして、多分、多分だけど、後者の意味で言っているひとのほうが多いような気がするのです。

そんな話をしていたら、ある人が、「そうなんです、だから自分はなんだか申し訳ないような気がするんです。いつも仕事が楽しいので」とおっしゃっていました。
それはおかしい、とすぐさまその場にいた全員で反論してしまいました。満腹でいることに罪悪感を感じるという人もおられますが、この方の発言もそれに類するもののように思いました。どのみち同じ時間を働くなら、楽しく働いたほうが良いことだと私は思います。少なくとも罪悪感を感じたり、申し訳なく思う必要のないことではないかと思うのです。
にもかかわらず、そう思う人は、一定数いるのかもしれない。

なぜ、人は働くのが楽しくないと思うのか。
そんな疑問を持っていた時に、私が手に取ったのが「リーダーのように組織で働く」(小杉俊哉著、クロスメディアパブリッシング、2023)でした。

2)「リーダーのように組織で働く」の感想

私がこの本を読んで一番印象に残ったのは「どうやったら組織の中でリーダーシップを持った人間を育成できるのか」という難しい問いに対して、著者が真摯にこたえようとしてくれているという感触がある、ということでした。
問いに対する答えを乱暴に要約すると「人を従わせる」リーダーシップから、「ついてきてもらう」リーダーシップに組織のトップ、部門のトップ、チームのトップが変わることだと著者は言っています。

▲リーダーシップのイメージ図

ここでいうリーダーシップ3.0とは支援型のリーダーシップのことです。
組織のメンバー一人一人と上下関係ではなく水平的関係を結び、双方向的なコミュニケーションをとれる関係を作る。リーダーたる要件はメンバーから信頼されていることです。リーダーシップ3.0を実践するリーダーは、このメンバーからの信頼をもとにメンバー自身が自律的に動く・思考することをフォローしていくことが主たる役割になります。

したがって、リーダーにはメンバーから信頼されるに足る存在であるということが求められます。リーダーはその地位が権力と結びつきやすいので、そこにずっと座り続けると、いつの間にか信頼を失うというリスクを抱えます。最初はその情熱や理念に賛同してついてきてくれたメンバーが「なんか最近あの人はかわった」、そう言って去っていく。その結果お山の大将になってしまい、気が付いたら巨大な腐敗を起こしていたり、組織としてもうどうにもできないほどの闇を抱えてしまう……最近、大企業の様々な不祥事を見るにつけ、こうした腐敗したリーダーシップが招く弊害を強く感じます。

著者は、こうした状況に対し、リーダーが備えるべき要件としていくつかの要素をあげていますが、私が特に興味深く、そして深く共感した教えは「謙虚であること」でした。
先に挙げた大企業の不祥事についても、この要素が欠けていたのではないか、うちは大企業なのだからという慢心があったのではないか、と考えさせられました。

3)「リーダー=箱を作る人」という誤解

この問題についてより深く考えたいと思い、私は「あいしずHR」の仲間に課題図書としてこの本をもとにしたディスカッションの場を設けました。

あいしずHRは組織開発やワークショップを手掛ける沢渡あまねさんを中心に立ち上げた企業間越境・共創コミュニティで、愛知県・静岡県の企業や仕事の文化度向上を目指すというものです。ここは勉強するだけの人はお断り、「明日から〇〇する」という気概を持ったメンバーで集まる場になっていて、中小企業経営者の皆さんの熱い議論と気づきの共有の場になっています。

さて、その場でこの本について議論をしたところ、あるメンバーが「この本を読んでリーダーシップについて誤解していた」という発言をくれました。要約すると、リーダーとは箱を作る人だと思っていた、という趣旨の発言でした。ここでいう箱とは、就業規則のような運用上のルールや人事評価制度の項目やKPIなど、組織における既定のルール、習慣、考え方の枠組み全般を指しているとお考え下さい。

「仕組みって、なんでそもそもその仕組みがいるんだっけ、みたいな視点がなくなってくると形骸化するよね」「時代に合わなくなったりするし」「そもそもこのルールいらなくない? みたいな話も出たりする」。
でも、実際にそのような疑問が出ても、一度できた箱は放置されてしまうことがとても多いのが現状です。見直すには手間もかかるし、既得権が生じている場合もあるし、面倒くさい。

しかし、それを変えていく、アップデートし続ける、ということが組織にとっては必要なのではないか。

なぜなら、ずっと変わらないことは、変わり続ける人や状況に合わなくなるからです。
組織のメンバーのパフォーマンスを阻害する組織はサステナブルではありません。そんな組織で働くのは拘束具をつけて働くに等しいし、絶対に楽しくない。能力があるのに発揮する場がない組織にとどまりたいと思うメンバーがどれほどいるでしょうか。

だからリーダーは、この箱が常にアップデートできているかを確認する必要があります。自社に合った箱、自社のメンバーが窮屈ではない、働きやすい箱を用意することが、サーバントリーダーシップの実践行動のひとつになるのではないかと思います。

4)箱の在り方を見直す「第三者の視線」獲得のための「副業」

このリーダーの仕事について、リーダー自身が気付く、あるいはメンバーから指摘を受けることができるとエコシステムが機能します。
しかし、同じ組織にずっと身を浸していると、「よそはよそ。うちはうち」という思想になりがちです。認知心理学の分野でもこうした心理を同調バイアスや確証バイアスなどで説明していますが、要するに私たちは無自覚に「うちの普通はみんなの普通」だと思いやすいということです。

ここから逃れるには、第三者的な視点を持つなどメタ認知を持つ必要があります。あれ、うちの会社の普通は全然普通ではないかも、と自ら気が付く必要があるわけです。

これを通常は社外取締役などが担うのですが、オーナー企業や中小企業でプロパーの役員しかいない場合はその任に当たる人がいませんので、いかに社内でそうした視点を得られるか、ということが非常に大きな課題になります。

この課題について、私は「副業」という仕事の在り方がとても有効なのではないかと考えています

副業とは、メインとなるA社に在籍しながら、B社で働くということです。
ここで、副業する人を通して、A社の視点、やり方がB社に持ち込まれます。B社にとって当たり前の慣習やルール、すなわち箱はA社から来た副業者にとっては不合理に思うかもしれません。また、B社のやり方を見て、A社のこのルールってもしかして無駄かも?という気付きがあるかもしれません。もちろん、「うちのルールめっちゃいいかも!」という気づきもあると思います。
B社にとってA社から来た副業者は(言い方はなんですが)「所詮社外の人」なので、「これっておかしくないですか」という指摘をしても、B社の人が言うよりはいくぶんかハードルが低い。それで「あっそうか、うちのこの箱ってちょっとズレてるかもね」と修正できればB社のサステナビリティは向上するでしょう。
逆にA社でこの副業者が「B社はこういういいやり方してたな~。うちでも取り入れてみよう」となれば、これはA社にとってもメリットがあります。
また、副業者自身にとっても、今まで当たり前のように享受していたA社での待遇が「当たり前」ではないことに気づくきっかけになるかもしれません。

だからこそ、副業や越境学習は大事なのです。
自分が入っている箱、自分のいる組織を相対的にみるための仕組み、自分の中に第三者の視点を得るためには、この仕組みは絶対に必要です。

5)もはや「自社だけがよければいい時代」ではない:必要な謙虚さを身に着ける

そんなことをしたら、うちの組織のいいやり方が盗まれちゃうじゃないか!と思う方もいるかもしれません。
でも、それはあまねさんの言葉を借りれば、「自社だけがよければそれでいいのか」ということになります。

自社だけがよければいい。
こういう発想の会社は、もはや支持されません。株主が、市場が、という大きな話をするまでもなく、地方都市の小さなコミュニティの中でも「あの会社は強引だ」「うちの会社のやり方ってなんかへんだ」と一度風評が立てば、それはあっという間に業績に出てきます。第一、人が採れなくなります。それでなくても採用難のこの時代に、好き好んで評判の悪いところで働く人はいないからです。

だからこそ、特に営利組織は世間の動きに敏感でなければなりません。
常に、うちの会社って世間に受け入れられているかな? 必要とされているかな? そういう視点をもって、箱をアップデートし続けていくことが求められている。そうしてはじめて、社内のメンバーたちにも、「うちの会社って社会的にも必要とされてていい感じじゃん」「ここで働けるっていいことだな」と思えるのではないか。

「リーダーのように組織で働く」には、リーダーの重要な資質として「謙虚であること」が挙げられています。
この謙虚さというのも、「言うがやすし行うは難し」の代表的なものです。謙虚であるということが卑屈と混同されたり、自信があるほうが良いこととされたりするということもありますが、人は肩書がつくと肩書に対して敬意をもらうことが多いので、それを自分自身の力だと勘違いしてしまうリスクが高まるからです。

少し脱線しますが、私がハラスメント研修でよく扱う内容に、「ハラスメント加害者は加害している自覚がない」というものがあります。加害している自覚がないから、するのです。なぜ自覚がないかというと、その言動が「立場」に起因する上下関係に根ざしたものだからです。
「上司として」の言動だと思うから、自身の言動を正当化する――これがよくある無自覚なハラスメント加害者の思考の根底にある原因です。
「同じことを同じような言い方で先輩社員に言えますか? 上席に言えますか?」研修会などの場でそういうと、皆さん大体うっと詰まった顔をされます。それは、「立場」と上下関係がそのようにその人に言わせてしまう――ということも、少なからずありそうです。

さて、この処方にも副業は非常に役に立ちます。
副業で行く場合、採用までは所属会社の肩書は役にたちますが、実際副業先では個人としてのパフォーマンスが評価対象になります。会社の肩書なしに、自分が副業先にどれだけ貢献できるか。自分自身をゼロベースで評価される経験も副業では体験することができます。しかも、これで報酬ももらえるわけです。
副業をする人1人いるだけで、所属会社も副業先も本人もみんな得るものがある、こんな素晴らしいスキームはほかにはないと思います。

6)おわりに:リーダーシップ4.0で働く世界は、みんな楽しい。

この議論をしていたあいしずHRの場で、メンバーである株式会社NOKIOOの代表取締役・小川健三さんが言われていた言葉がとても印象的でした。

「僕は、ある時から自分のリーダーシップを変えたんです。僕がすべての答えを知っているわけではないから」。

NOKIOOは“パフォーマンスワーク”という概念を用いたオンライン教育プログラムや人材開発研修などを手掛け、大手企業からも支持の厚い企業です。
その企業のトップがこんなに柔軟な発言をされたこと、そしてそれを私たちにも共有してくれたことに感動しました。

リーダーシップ4.0は、リーダーにとっても、とてもよい環境なのです。
リーダーシップ3.0までは、良くも悪くもリーダーがすべてを決めて、すべての責任を負っていく必要があった。でも、リーダーシップ4.0では、組織のメンバー自身が仕事における最適解をそれぞれに持って動いてくれます。リーダーは大まかな方向性を決め、箱のサイズを変えたり箱自体を取り替えたりしてメンバーたちが障害なく動けるように調整すればいいんです。
これって最高のリーダーシップだと思います。

そして、こういうリーダーのもとであれば、社内に働くのがつまらない人は減るのではないか。「楽しい」は伝染します。心理学では身近にいる他者の感情と自分自身が同じ感情状態になることを「感情伝染(emotional contagion)」として研究されており、ポジティブな感情も(ネガティブな感情よりは伝播しにくいとはいえ)周囲に影響を与えるということがわかっています。
自律的に働く人が増えれば、仕事に対しても前向きになり、仕事を工夫し、より仕事が楽しくなるという好循環が期待できます。
そんな中にあって、「つまらない」と言い続けられる人が、どれだけいるでしょうか。

リーダーシップ4.0で働ける世界は、みんな楽しい。
私はそんな社会が来ると思っているし、そういう社会を作るために、自分も働いているのだと考えています。
そしてもし、自社に「うちで働くのってつまらない」と思っていそうなメンバーがいる会社は、いますぐにリーダーシップを変えたほうがいい。それはすぐできるし、コストもかからないし、何よりリーダー自身も楽にします。
世界を変えるのは、自分の手でもできる。
小さくても自分の世界を変えるチャンスは自分にもあるのだという素晴らしい気付きを、この本と仲間たちから学べたことを私はとてもうれしいです。

仲間の一人、まささんが同じ日の議論をもとにまた別な視点でnoteを書いているので、よろしければあわせてどうぞ。


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