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「女性が働きやすい会社」は、固定的ジェンダー観の強い会社でもある話

私には、自己紹介としてよく使うフレーズが二つあります。

一つ目は、「私は社労士・キャリアコンサルタントとして、メインは企業領域の人事評価制度、特に女性活躍のフィールドで活動しております」というもの。こちらは同業者(社労士、キャリコン、コンサル会社)向けのものです。
二つ目は、「私は社労士・キャリアコンサルタントとして、主に人事労務関連の実務に対する法的なアドバイスや人事評価制度の策定、それに伴う賃金テーブルの作成などをやっています」というもの。こちらは主にビジネスの場で知り合った、顧問先や関与先になりうる企業の方、特に経営者の方に向けて使用しているものです。

比べて頂くと分かると思うのですが、一つ目に比べて二つ目のほうが情報の粒度が細かく、かつ、「女性活躍」という言葉が抜けていることがお分かりいただけるかと思います。
なぜか。
「女性活躍」という言葉に、まず身構える経営者の方が少なからずいるからです。

1)「女性が活躍できる会社」という言葉が持つ二つの相反する意味

「女性活躍」という言葉には二つの意味があります。

一つ目の意味は、「女性活躍=女性でもキャリアアップしていける、女性が管理職・役員などキャリアステージの階段を登れる/登りやすい」という意味です。
このような会社では、総合職の男女の昇進スピードに差はなく、課せられる労働の量にも差がありません。要するに男女にかかわらず働く個々人はすべて「社員」としてキャリアの階段を登ることができ、また登ることを求められる。そのような社風の会社では、女性活躍をこのような意味で使います。

二つ目の意味は、「女性活躍=固定的ジェンダーロールにより、女性をスポイルしているために期待値が低く柔軟に働ける環境がある」という意味です。
このような会社はそもそも女性を男性と同じ労働力としてみていません。「女の子」「女性」はあくまで男性の下に位置づけられ、家父長的価値観のジェンダーロールによって「女性は家庭が第一」だから、女性のする仕事は仕事として認めない。その代わり、庇護し守らなくてはならない存在として、自社に所属する女性を扱っていきます。女性社員たちは代替可能な仕事を割り当てられますが、そのために休みはかえって取りやすくなります。「この仕事は絶対に自分でなければならない」というようなシビアさは無いので、子供が熱を出すといったような不慮の事態でも休みやすい。
そのような「休むことへのハードルが低い」環境を持つことを「女性が活躍しやすい」と言ったりするのです。

もちろん、前者であっても休むことへのハードルが低い会社もあります。
働き方改革で仕事の属人性を下げてバディ制(複数担当制)に変えたり、テレワークによって自宅にいながら出社するのと同じ仕事をすることができたり。そのような会社があることも事実ですし、それらの施策によって「働きやすい」「女性が活躍できる」と評価されているケースも多々あります。
しかし、だからといって突発的に発生する家庭の事情による欠勤が心理的負荷にならないかといえば、当然のこと負荷にはなる。

私の知る、あるハイキャリア女性は30歳で一部上場企業の課長になりました。女性活躍推進の旗のもと、人事部長肝いりの昇進でした。ですが、将来を嘱望されていたにもかからわず、彼女は3年後に転職してしまいます。


「30歳で課長になって、私はずっと階段を登り続けないといけないんだと思った。部下に仕事ができないと思われたくなかったし、子供を授かったときも正直なところ一瞬このタイミングじゃなくてもいいのにって……」


これが、転職の相談を受けた時に彼女がこぼした本音でした。

2)「女性が働きやすい」会社=「自分が働きやすい」会社ではない

翻って、就職・転職をする際に気を付けなければならないのは自分がどちらの会社で働きたいのかということです。求人票に「女性が働きやすい会社です」と書いてある企業であっても、そこで言う「働きやすさ」はどちらなのかをきちんと調べる必要があります。
同じ一人の女性であっても、今は子育て期だから休みやすい会社がいいという時期もあるでしょうし、きちんとしたキャリアルートが整備されていて男女の別なく働ける会社のほうがいいという場合もあります。

かつて、3年間は転職せずに一社で頑張るという風潮がありましたが、現在は転職に対するハードルはかなり下がっており、基本的には求人に関しては売り手市場が続いています。
ライフステージに応じてその時々で転職するジョブホップ型のキャリアの積み方も一般化し、それに対するネガティブなイメージも、最早なくなっていると言ってもいいでしょう。

例えば、こんな話があります。
ある企業で、コロナ禍にあって試験的にテレワーク制度を導入しました。女性の管理職はじめ、おおむね社員には好評でした。ですが、一部の部署から猛反発があり、結果としてテレワークを一部取りやめたという例です。
その一部の部署とは、パートや非正規の社員が多いデータ入力の部署でした。テレワークでも十分仕事ができるのですが、自宅で子どもを相手しながら、夫のご飯を作りながらというのは集中できる時間が取れず、全く仕事にならないという話でした。結果、出勤すれば3時間で終わる仕事が深夜まで掛かってしまう。精神的にもストレスだ、という訴えがあったというのです。結論として、この部署はテレワークではなく休業をしつつ出勤調整という形で現在は運営されてます。

一般的に働きやすさの例として挙げられるテレワークですらこのような状態になるという、「働きやすさ」という言葉の孕む問題の好例だと思います。

女性が活躍できる会社、女性が働きやすい会社、このような宣伝文句を持つ企業も働き方改革の追い風で増えています。
だからこそ、自分はどちらのスタイルで働きたいのか、ということに自覚的になるべきではないでしょうか。
働き方を考えるのは、自分の人生を考えることです。ライフステージに応じて、自分らしく働ける場をポジティブに求めていくことが働きやすい職場探しに繋がると私は考えています。


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