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「課題解決」「問題解決」思考が取りこぼしがちな「孤独」と「孤立」。まちづくりDXの限界と、まちを変えるために、本当に私たちに必要なこと。

まちづくり界隈で「課題解決」「問題解決」と叫んでいる人を見る度に、何だか腑に落ちない感覚を持っていました。怪しいというか、本当にそれで良くなるのか?というか。私たちはそんな出発点で、企画をしたりデザインをしてきたことがほとんどないから。でもその違和感の理由はきちんとわかっていませんでした。

で、最近ふと、なぜそう思ってたのかが少しわかったので、今日はその話を。

課題を解決するために、問題を解決するために、モノやサービスがあれば、それに人がお金を出すということは、ビジネスの基本だと思います。それによって課題が、問題がクリアできれば、良いまち、良い暮らし、良い社会になりそうだって、そりゃそう思いますよね。行政もそれにお金を費やしやすい。

で、そのために、「困りごとは何か?」「求められていることは何か?」という「ニーズ」を市民から抽出しようとされます。

例えば、アンケートが採られたりする。「あなたの暮らしの中で、困っていることがありますか?」と聞かれる。

近くに、大きな薬局が欲しいです。公園が欲しいです。託児所が足りません。バス亭が欲しい。となり、それが補完されたり、つくられていく。

良いまちになっていきますね。

でもね。ホントかな?と想像の解像度を高めていくわけです。

たぶん、人間だから。人間だからこそ、言いづらいことがあるはずだ。

でもそれって何だろう?

行き着いたのが

「孤独」と「孤立」の話でした。

「あなたの暮らしの中で、困っていることがありますか?」と聞かれて、最も言いづらいことが、「孤独」と「孤立」の話。

「私は孤独です」

「私は孤立しています」

この言葉には、物理的な状態もあれば、心理的な状態もあります。そしてこれって、他人に吐露することが最も難しいことだと思うのは、僕だけでしょうか。

「孤独」も「孤立」も中から発することが難しいだけではなく、外からは認識もしずらい問題です。特に心理的な「孤独」「孤立」は、一見平均以上で満たされた環境のように見えても、抱える人がきっと多いように思います。(実際にそのようなデータもあることでしょう)

そして、このことは直接「健康」とか、最近では「ウェルビーング」などという言葉と直結していきます。「孤独」「孤立」に立ち向かわず、「健康」も「ウェルビーング」もないわけです。さらに下のようなデータは日々次々と出てきます。

「— 孤独は、1日にタバコを15本吸ったのと同等の害を健康に与えるという。雇用主には年間25億ポンド(約3700億円)、経済全体には320億ポンド(約4.7兆円)の損失を与えるとしている。—」

(読売新聞オンライン「孤独」に社会で向き合う英国、その背景とは)

「孤独」「孤立」を乗り越えるためには?

「孤独」「孤立」という問題はとてもやっかいです。簡単に解決することはできません。

たとえば「孤独」「孤立」の人が多いから、地域に「コミュニティセンター」を「コミュニティカフェ」をつくりました。別に悪いことではありませんが、そういうひとつの「対処療法」では、問題の解決にはほど遠い。地域がどうつくられているか、まちがどうつくられているかにも大きく関わってきます。

なるほどなぁ、「課題解決」「問題解決」で抽出されがちなことには、一対一で「対処療法」を当てるられるので、対応がしやすい。

ところが、「孤独」「孤立」に必要なのは「根本療法」。しかも、一人ひとりの人間に寄りそうさまざまな対応が必要なこともある。向き合うべき人は実に多様。この一人ひとりの人間と向き合うプロセスの必要性がまた、大変さにもつながっているのでしょう。

でも、これらが束となり総体として、日常や社会の中での「孤独」「孤立」をリアルに改善していくだと思うのです。

「まちづくりDX」が取りこぼしがちなものが大切

「課題解決」「問題解決」でまちづくりの私の違和感はそこにありました。最近は、課題を抽出し、解決する流れをよりスムーズに行えば良いだろうと安易な流れがあるようですが、たとえ「まちづくりDX」を駆使したとしても、人間には捉えきれない悩みがあるということを忘れてはいけないでしょう。これは行政の人だけではなく、どんなチームにも組織体にも言えること。

もし「孤独」「孤立」の解消にまで射程を伸ばすには、少なくとも丁寧な人間によるコミュニケーションはマストというわけです。

さてそういう中で、2018年にイギリスが「孤独担当大臣」を世界で初めて設けたということを改めて捉えると、政府がどれほど市井の人々のことを想い、考えつくられたものかってことなんです。その想いや本気度は、政府の資料からも見て取ることができます。

「A connected society: A Strategy for tackling loneliness – laying the foundations for change」(英国政府が作成の資料より)
「A connected society: A Strategy for tackling loneliness – laying the foundations for change」(英国政府が作成の資料より)

日本でも同じような流れにあるそうですが、「孤独担当相」が置かれる、置かれないはどうでもいいことなんですよね。「孤独」「孤立」の問題に対して、「対処療法」的な策に溺れるのではなく、どうか一人ひとりのことを想像して、何ができるか。

建築ひとつ、まちひとつ、デザインとして、もっともっとできることがあるはずです。私たちは「1階づくりはまちづくり」という視点から、「孤独」「孤立」の問題を一ミリでも良い状況に持って行くことができればと思って日々活動しています。

というわけで、今日はこの辺りで。

最後にイギリスの事例をいくつか。ユーチューブの映像は、イギリスの流れがとても端的にわかりやすくまとまっています。

1階づくりはまちづくり

大西正紀(おおにしまさき)

ハード・ソフト・コミュニケーションを一体でデザインする「1階づくり」を軸に、さまざまな「建築」「施設」「まち」をスーパーアクティブに再生する株式会社グランドレベルのディレクター兼アーキテクト兼編集者。日々、グランドレベル、ベンチ、幸福について研究を行う。喫茶ランドリーオーナー。

*喫茶ランドリーの話、グランドレベルの話、まだまだ聞きたい方は、気軽にメッセージをください!

http://glevel.jp/
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